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2018年6月15日 日銀総裁会見 ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。

わが国の景気の現状については、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大していると判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば着実な成長が続いています。そうしたもとで輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が改善基調を維持する中で、増加傾向を続けています。個人消費は雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも緩やかに増加しています。住宅投資は弱含んで推移しています。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。
先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も海外経済の着実な成長を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は0%台後半となっています。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられます。
日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

Q&A

Q:物価動向について、直近のCPI等をみると物価上昇の勢いが弱くなって伸びが足許落ちている状況にあります。現状の物価認識と物価上昇に向けたモメンタムはまだ維持されているのか、目標とする2%はいつ頃到達するとお考えなのかお願いします。


A:わが国の消費者物価の動向をみると、このところ、いわゆる「除く生鮮食品」、「除く生鮮食品・エネルギー」のいずれも、前年比伸び率が幾分縮小しています。これについては、春先までの円高の動きが耐久消費財等の価格下押し圧力として作用したほか、振れの大きい宿泊料の下落などが影響していると考えられます。もっとも、サービス業を中心に企業が賃金コストの上昇を販売価格に反映させる動きもみられており、外食などでは前年比プラス幅が着実に拡大しています。このように、マクロ的な需給ギャップの改善を背景に、企業の価格設定スタンスは積極化する方向にあり、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されていると考えています。
なお、先行きの物価見通しについては、展望レポートを取りまとめる次回の金融政策決定会合において、改めて政策委員の間で十分に議論していくことになります。

Q:副作用についてお伺いします。先月発表された2018年3月期の地域金融機関の決算をみると、一部赤字行がでるなど非常に厳しい決算になったかと思います。現行の緩和政策が地域金融機関に与える影響について、総裁の現状認識とこれが今後金融システム全体に悪影響を及ぼすことがないのかについてお願いします。


A:長短金利操作付き量的・質的金融緩和のもとで、わが国の長期金利は安定的に推移し、貸出金利も極めて低い水準となっています。これが貸出利ざやの縮小などを通じて金融機関の収益力低下につながり得ることは承知しています。また、そうした収益動向が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、低金利環境が長期化すれば金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがあることにも注意が必要だと考えています。もっとも、わが国の金融機関は地域金融機関を含めて充実した資本基盤と潤沢な流動性を有しています。また、短観などの各種調査をみると、金融機関の貸出態度は引き続き積極的です。こうした点を踏まえると、現時点で収益の悪化に伴う金融仲介機能への大きな問題は生じておらず、金融システムの安定性もしっかりと確保されていると考えています。いずれにしろ、こうしたことについては引き続き十分に注視していく所存です。

Q:緩和が長引いてきていますが異次元の金融緩和を続けていることによる副作用の懸念もでてきています。実際この先2%の物価目標達成をなるべく早期に実現するといいながらも、まだまだ時間が掛かりそうな状況です。そのような中で、もっと持続可能な金融政策にしていく必要があるという議論も行うようなタイミングにきているとは考えていらっしゃらないでしょうか。


A:先程来申し上げている通り、長期金利が低位で安定しており、貸出利ざやが縮小しているもとで、これが金融機関の収益力低下につながり得ることは承知しています。そういった意味で低金利環境が長期化した場合のリスクというものも十分注意していく必要があると考えています。現時点では充実した資本基盤もありますし、潤沢な流動性も有していますので、地域金融機関も含めて、わが国の金融機関に何か問題が生じているとは考えていません。2017年度の決算をみても、大手行も地域金融機関も相応の収益水準を確保しています。その中には、益出しや信用コストの減少による利益への貢献もありますので、いわゆる業務純益の収益への貢献がだんだん小さくなっていることは事実ですが、足許十分な資本も流動性も有していますし、決算では相応の収益水準ですので、直ちに何か金融政策について検討する必要があるとは思っていません。
ただ、長く持続する場合の影響は累積的な効果を持ち得ます。半年に1回の金融システムレポートでもかなり詳細に金融システムの状況を把握していますし、これは今後とも続けていくつもりです。また、毎回の金融政策決定会合においても、金融システムへの影響などについても十分掘り下げた議論をしていくことになると思います。
いずれにしても、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」というフレームワークは持続可能なものになっていますので、直ちに問題があるとは思いませんが、地域金融機関を含む金融機関の長期的な収益への影響は、今後とも十分注視していきたいと思っています。

Q:なぜ物価がなかなか上がらないのかという分析を、改めて2年前の総括的検証のような形で検証することは考えていらっしゃらないのでしょうか。


A:このところ消費者物価の前年比伸び率が幾分縮小していることは事実ですが、他方でマクロ的な需給ギャップの改善を背景にして、サービス業などで賃金コストの上昇を販売価格に反映させる動きなどもみられていますので、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されていると考えています。また、現在のイールドカーブ・コントロールは、予想物価上昇率が高まると、その分、実質金利が低下して金融緩和の効果が強まるという仕組みも内在していますので、前向きなモメンタムが今後とも持続するよう現在の強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適当であると考えています。
なお、こういった物価動向と、一方で世界経済が極めて順調に推移しているわりには、物価がなかなか上がっていかないという状況については、従来から金融政策決定会合の場でも議論し、スタッフも様々な分析を行っています。7月の展望レポートに向けて更に議論を深めていく必要があると考えていますが、総括的な検証をもう1回やる必要があるとは考えていません。

Q:米国と欧州で金融緩和の正常化が進む中で、緩和を維持している日本との政策の方向性の違いが鮮明になっているかと思います。日本が置いてけぼりになっているというような見方も一部ではありますが、そうした点について、どのようにお考えでしょうか。


A:各国の金融政策はそれぞれの国の経済・物価動向に即した形で進められていくべきものであり、欧米の場合も適切に進められていると思っています。わが国の場合は、持続的な成長のもとで労働需給も引き締まり、マクロ的な需給ギャップもタイト化していますが、そのもとで、物価の上昇率がなかなか順調に上がってこない状況ですので、ここはやはり、現在の強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適切であると思っています。方向性が異なっていること自体は経済・物価の状況を反映したものであると考えています。

Q:欧米との金融政策の格差あるいは隔たりの件ですが、1点は似たような量的緩和をやりながら、なぜ日本だけ物価が上がらないのかというこの日本の特殊性について、日本銀行が以前から説明しているようなメカニズムの他に考えていなかったようなメカニズムが、今、発生しているのかといった点をお伺いします。もう1点は、やがて来るであろう景気の後退局面において、日本銀行だけ政策的なのり代がないというような事態への備えについて、今どのようにお考えでしょうか。


A:欧米も日本も実体経済が回復し、拡大しているわりにはなかなか賃金や物価が上がってこなかったという点はよく似ているわけですが、米国の場合は賃金も物価もかなり順調に上昇してきています。そういう意味では、米国のFOMCが正常化を1番早く進めてきたのは、経済・物価の実態に合っていると思います。欧州の場合は、やや遅れて進んできていますので、遅れて正常化を進めようとしています。わが国の場合は、欧米と似たようなファクターが賃金や物価を上がりにくくしているのみならず、わが国独自の特殊な要因としてやはり 1998年から2013年まで15年続いたデフレ、低成長というものが、一種のデフレマインドとして企業や家計に残っています。短期の予想物価上昇率は、実際の物価上昇率に合わせてかなり変動しますが、中長期の予想物価上昇率はなかなか上昇してこないということが、一種のデフレマインドとして残っているということです。これは欧米にない要素といえると思います。
また、需給ギャップが改善した場合に、賃金や物価がどのように反応するかというのは、よくいわれるフィリップスカーブの議論です。欧米の場合も相当フラット化しているといわれていますが、わが国の場合もかなり需給ギャップが縮小し、更にプラスになっているわりには、賃金・物価の上昇が鈍い背景には、色々な要因があると思います。1つには、非製造業を中心に欧米と比べて労働生産性が低いところで、省力化投資やIT関連の投資等が進んで、生産性が相当上がってきています。それがサービス業で一定の賃金の上昇があっても、物価があまり上がってこないということにつながっています。欧米にもある程度そのような要因はあると思いますが、わが国の場合、非製造業の労働生産性が低いところからかなり上がってきています。これは長期的にみれば非常に好ましいことですが、短期的には賃金の上昇にもかかわらず物価が上がらないことの1つの要因になっていると思います。欧米ではこれが全然ないというわけではないのですが、わが国の場合、非常に顕著だと思います。引き続き経済の実態と物価の関係については、更に分析を深めていく必要があると考えています。

Q:本日閣議決定される骨太の方針について、財政の再建目標先送りであるとか、歳出カットが甘いとか、原案の段階で既に色々な評価がされていると思います。共同声明でも、持続可能な財政構造の確立は重要であると書かれていますが、この計画の内容は、その共同声明にふさわしいものなのかどうか、お伺いします。


A:共同声明にご指摘のようなことが書かれており、先日政府との間でも共同声明を堅持することが再確認されていますので、当然、日本 銀行は2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するため、大胆な金融緩和を引き続き行っていくわけですし、他方で政府は、財政と成長戦略について、共同声明にあるようなコミットメントをしておられ、それに沿って進めていかれると期待しています。特に、財政運営そのものについては、政府・国会の責任で行われるものであって、中央銀行からどうこう言うことではないのかもしれませんが、やはりわが国の政府債務残高が極めて高い水準となっているだけに、政府が中長期的な財政健全化について、市場の信認をしっかりと確保していくことは非常に重要だと思います。従って、日本銀行としても政府が持続可能な財政構造の確立に向けた取組みを着実に推進していくことを期待しています。

Q:骨太の方針の内容自体は、多くの識者が非常に甘いのではないかと言っているところですが、その理由として、どうしても日銀が国債を引き受けているという財政ファイナンス的な側面がそうさせているのではないかという指摘は常に強いところだと思います。総裁は、目的が財政ファイナンスではないということは常々おっしゃっていますが、結果としてこのような計画になっている、財政規律を緩ませていることについて、この結果についてどのようにみていらっしゃるでしょうか。


A:財政運営は政府・国会の責任において行われるものであり、これはまさにデモクラシー(民主主義)の根幹ですから、それについて中央銀行があまり申し上げるのは失礼な話だと思います。政府・国会が主体として財政運営を行い、それはデモクラシーの根幹にある国民の代表として行っておられることですので、中央銀行としては先程申し上げたようなことを期待しているということに尽きると思います。

Q:2015年、3年前に黒田総裁は飛べると信じなくなった瞬間に飛べなくなってしまう、とピーターパンを引用して物価上昇に大変意欲をみせられたと思うのですが、今も同じように物価上昇に自信を持っていらっしゃるのか、黒田総裁だけではなくて、本日の公表文には片岡委員は「2%に向けて上昇率 を高めていく可能性は現時点では低い」と言っているのですが、委員会の中でも物価上昇に対してモメンタム自体に自信を持っていらっしゃるのか、ちょっと自信を失っていらっしゃるのかなという気もするのですが、その辺りについてお聞かせ下さい。


A:その点は公表文に示してある通りです。大多数の委員は2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されているとの考えであり、私自身もそう思っています。2%の物価安定の目標の実現に向けて最大限の努力を行っていますし、今後とも行うことにも全く変わりありません。

Q:今週はFRBECBも正常化に向けて一歩踏み出しました。そういう中で、改めてなのですが、今現時点でお考えはないとおっしゃるとは思うのですが、出口戦略についての日本銀行としての考え方について、例えば、まだ出口ではないとお考えでも事前に色々市場との対話という形で説明していかれるのか、もう少し詳しくご説明頂けたらと思います。


A:出口戦略については何も語っていないということはなく、出口での課題には2つのことがあると申し上げています。それは、短期の政策金利をどのようにしていくかということと、拡大したバランスシートをどうするかという2つです。FRBの金融政策の正常化をみても、あるいはECBが今後正常化していく際のポイントについても、この2つが具体的な課題になると思います。私どもが正常化する際にもそうなると思いますが、どのような手段で、どのような手順で、いつ具体的にそのようなことをするかは、あくまでもその時の経済・物価・金融情勢を踏まえたものになります。現時点では、今回の公表文にも示している通り、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が0%台後半という状況で、まだ2%の目標には距離がありますので、正常化、あるいは出口の具体的な手法やプロセスについて語るのは時期尚早であり、あくまでも2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために、最大限の努力をする時期だと思います。適切な時期に市場とのコミュニケーションを取ることは必要だと思いますが、そういう時期に差し掛かっていない中で具体的な話をするのは、却って市場を混乱させるおそれがありますので、適切な時期にそういったコミュニケーションを行うことになると思います。

Q:先程の骨太の中で今回もう1つのポイントは、外国人の労働者を増やすということがあると思います。人手不足ということに対応する動きだと思うのですが、これが国内経済に与える影響、特に賃金等の部分についてどのような影響を与えるとみているのか、聞かせて下さい。


A:これは当然ですが、同一労働同一賃金ですので外国人労働者だから日本人よりも低賃金ということはあり得ません。そうしたもとで、現在、色々な業種が人手不足です。それが一方で省力化投資とか、そうしたことを伸ばすというよい面ももちろんあるわけですが、他方で人材の確保が難しいために、需要はあるけれどもなかなか投資ができないとか、そういった声も一部にはあるようです。特にいくつかの業種では、人手不足が供給力を制約しているところがあるようですので、そうしたところを中心に外国人の技能労働者を入れるというのは極めて自然ですし、それ自体経済成長を加速する要因になると思いますので、基本的に好ましいことだと思います。もちろんそれに伴う問題が生じることのないように、適切な制度作りをするということを政府もおっしゃっていますので、基本的に経済にもその他様々な状況にも好ましい影響をもたらすだろうと思いますし、また、そうしたものにしていかなければならないと思っています。

Q:米国の金融政策の正常化の評価とそのリスクみたいな話なのですが、今週も利上げがありまして、年内の見通しについては3回よりもむしろ4回だということになってきました。着実に正常化を進めているということだと思うのですが、その評価ということと、反面リスクがないでしょうか。よく言われるのが、長短金利の逆イールドみたいなことが近づいていて、それが景気に悪影響を及ぼさないかとか、あるいは米国の金利が正常化することで新興国等の資金・マネーフローに変化がないか、ということです。新興国については2015年頃はかなりマーケットが不安定化する場面がありましたし、今もトルコやアルゼンチンなど一部不安定化するような場面があると思いますが、ただ、3年前と比べると随分安定しているような気もしますので、この辺りどのようにみているのかお願いします。


A:FRBの政策運営について、私から何か具体的なことを申し上げるのは差し控えたいと思いますが、いずれにせよFRBは米国の経済・物価動向を見極めながら、適切な金融政策運営を行っていくものと考えています。
そう申し上げたうえで、ご指摘の2つのリスクについてですが、まず、前者の逆イールドの話は、過去においてそういうことがあった、つまり、物価が急速に上昇してFRBが短期金利をかなり急速に引き上げ、その結果、逆イールドになったということです。それは、インフレになって、金融を急速に引き締めたために景気が後退したという話であって、逆イールドが必ず景気後退をもたらすという話でもないと思います。先程申し上げたように、FRBは米国の経済・物価を注視し、それに即した形で正常化を進めていますので、ご指摘のような懸念が今あるとは思いません。
後者についても、現時点では確かに、トルコやアルゼンチン、特にアルゼンチンで大幅な為替の下落が起こり、中央銀行が政策金利を2桁の相当上の方に引き上げて、最終的にはIMFに緊急融資を要請し、報道によるとIMFが500億ドルの緊急融資を行う予定だといわれるくらいに大きな影響が出たわけですが、これは、アルゼンチンは、トルコも多かれ少なかれそういう状況ですが、経常収支の赤字や財政赤字が大きく、更にインフレ率が高い国であり、そうした国で起こった現象でして、新興国全体に影響が及んでいるような状況ではないと思います。もちろん、これまでかなりの資金が新興国に流入していたので、金利上昇あるいはドルの上昇を通じて巻き戻しがある程度広く生じ、もう少し広い範囲の国に影響が及ぶかもしれないことがリスクとしてあり得るとは思いますが、今のところそういう状況でもありません。特にアジアの新興国は、殆ど経常収支は黒字あるいは赤字でも小幅、外貨準備もかなり潤沢に持っていますし、比較的健全な財政運営をしていますので、アジアの新興国に大きな影響が及ぶ状況ではないと思います。いずれにせよ、そうしたことはリスクの1つですので、注視していく必要はあると思っています。

Q:金融政策の一環としてのETF購入について、かねて何度か質問が出て、全体の時価総額からみたら決して大きなゆがみを与えるような規模ではないとおっしゃっているかと思うのですが、確かに600兆円からみればわずかなのですが、ETF市場全体からすると30兆円あまりのうちの今25兆円くらいが日銀の保有分と推定されています。これはやはり若干過大ではないかという意見が多いと思うのですが、如何でしょうか。それから、金融政策の一環としてのETFあるいはJ-REITの買入れにあたり、信用リスクに働きかけるという目的をおっしゃっていると思います。この間の日本市場のPERがものすごく上がったかというと、最近むしろ下がり気味のような感じですし、そもそも信用リスクに働きかける観点で効果があったのかどうか、その辺はどのようにみていらっしゃるのでしょうか。


A:まず前段については、日本銀行によるETFの買入れというのは、やはり証券市場全体との関係でみていくのが適切だと思います。と申しますのは、EFに対する需要があれば、マーケットの方でいくらでもETFを作ってきますので、今あるETFに対する日銀の保有割合というのは、それほど意味のあるものではないと思います。
また、ETF、J-REITの買入れは、特にETFの場合、株式市場のリスクプレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていく観点から実施しているわけですが、私どものみるところ、ETF買入れを通じたリスクプレミアムへの働きかけは、やはり一定の役割を果たしている、効果を持ったと思っています。リスクプレミアムの測り方は色々ありますが、これまでのETFの買入れ、あるいは増額の時の影響をみてみますと、それなりに大きな役割を果たしてきたのではないかと思っています。いずれにしても、先行きの運営については、その時々の経済・物価・金融 情勢を踏まえながら適切に判断していくことになると思います。

Q:先程、物価が鈍い要因の1つとして、生産性の向上というものを挙げられましたけれども、需給の引き締まりにもかかわらず、いまだに物価が鈍いということなのですが、その点につきまして当初見込んでいたよりも生産性の向上余地が大きいであるとか、そもそも世間で言われているほど、実はそれほど需給が逼迫していない、人手不足になっていないという可能性も考えられると思うのですけれども、この点についてどうお考えでしょうか。
関連しまして、生産性向上についてはいずれ限界がくるとともに、生産性向上を通じて潜在成長率の上昇とか成長期待を高めて、物価上昇圧力にもつながると、そういう期待を日銀としてもしていると思うのですが、いわゆる生産性向上が物価上昇につながるタイミング、だいたいどのくらいこれから掛かりそうか、総裁はどの程度とみておられるのか、この点について教えてもらえればと思います。


A:前段については、確かに失業率は2.5%まで下がって、しかもこのかなり低い水準が続いていますので、普通の意味では需給がタイトになっているとは思うのですが、他方でこの4,5年で実は就業者の数は300万人くらい増えています。生産年齢人口はどんどん減っているのですが、実際に就業している人は増えています。その増えている人たちについては、いわゆる失業者という統計に入っている人が就業しているだけでなく、色々な理由で、その時の賃金やその他の状況で就職したいと思っていなかった人たちが、特に女性、高齢者を中心に、たくさん就業者になっているわけです。就業人口が増えて供給力が増えているという意味では、失業率自体は2.5%まで下がっていますが、実はその失業者に含まれていないところにまだある程度のバッファーというか、スラックがあるのではないかという議論は米国でもありましたが、日本でも同様と思います。女性の就業率は相当上がって、ご承知のように米国以上の率になっていますし、高齢者の就業率も日本はもともと高いのです。その中で更に上がってきているということですので、このスラックがいつまでもあるということではないと思っています。
生産性の話については、労働生産性のレベルは、日本は欧米に比べて特に非製造業、サービス業で低いのですが、生産性の上昇率でみますと、おそらくここ数年G7の中で一番高い上昇率になっていると思います。特にキャッチアップというわけではないのですが、日本の非製造業の低い労働生産性がかなりのスピードで改善されていることは事実です。それが非製造業で賃金が上がっても物価がなかなか上がらない、という状況を作っていることも事実だと思うのですが、これもいつまでも続くというものではなく、もちろん欧米のレベルを抜いてものすごい生産性の国になるかもしれませんが、それを期待するのもどうかと思いますので、だんだんギャップが縮まっていくと、その余地も少なくなってくるということです。何年とか何か月とか具体的に申し上げられませんが、こういった要因もいずれ残るものは少なくなっていくことは確かですので、労働市場のスラックの話にしても、労働生産性の上昇の余地にしても、いずれその余地が縮んできて賃金は上昇し、賃金の上昇が物価の上昇に素直に反映されていくと思っています。

Q:先程のピーターパン発言に戻るのですが、総裁は2015年のスピーチの中で、簡単に言うと、信じればできるということでしょうか、信じれば物価も上がるということだったと思うのですが、今現時点でもそういったお考えをお持ちでしょうか。それともやはり日本の物価というのはもうちょっと複雑だなというように感じてらっしゃるのでしょうか。


A:信ぜよさらば救われん、というつもりもないのですが、信じないのではなかなか物価も上がらないのではないかと思っています。

Q:今週は、FRB、ECB、日銀と主要な中央銀行が同じ週に政策決定会合を開くという珍しい1週間だったと思うのですが、その中で正常化に向けて進んでいくFRB、ECBと、物価の弱さに苦しむ日銀と、政策の向いている方向の違いが改めて鮮明になったように思います。そこで為替についていうと、他のことを一定にすれば、この違いというのは円安方向に働くということになると思いますが、その点、総裁はどのようにお考えでしょうか。


A:為替のことを何か言うと祟るのであまり言いませんが、ご指摘のとおり、他の事情を一定とすると金利の格差が拡大していけば、あるいは金融緩和の度合いの格差が拡大していけば円安になるというのは、殆ど理論のトートロジーなのですが、他の事情が一定ではないので、分からないということだと思います。

Q:物価が上がりにくい理由について、日本独自の理由についていくらか質疑がありましたけれども、一方でグローバルにみても、ヨーロッパは2%の上昇になかなか時間が掛かっていますし、アメリカも足許では2%ですけれども、去年もイエレン議長がミステリーと言うように少し物価が上がるのに時間 が掛かっているという議論もありました。総裁も5月末のコンファレンスで、失われたインフレーションという言葉を使っていらっしゃいますけれども、何か先進国で共通した構造的な要因のようなものが働いているのか、もし仮説みたいなものをいくつかお持ちであれば、お考えをお聞かせ頂ければと思います。

A:それについては、従来から各国でも随分と議論され、BISの会議などでも議論されています。先程もお話が出ましたが、労働市場について必ずしも通常の失業率だけでなく、もっと色々な雇用情勢をみていかないとなかなか本当のスラックが分からない、逆にいうと、失業率が示すよりも実はもっとスラックが残っているのではないか、そのために賃金がそれほど上がっていかない、そして物価も失業率が示すほどには上がっていかないという議論があります。
また、国際的な競争が非常に熾烈になっていまして、色々なモノだけでなくサービスについても、ある程度国際的な取引が行われるようになり、中国その他の新興国も国際的なマーケットに参入してきているので、一国だけの事情で賃金や物価が上がるのではなく、もっとグローバルな労働市場や需給ギャップのようなものを考えないといけないのではないかという議論もあります。
それから、もう1つ最近流行っているのが、Eコマースとかインターネットによって、消費者が地域的に制約されているマーケットの中で財やサービスを購入するのと違い、インターネット上で一国全体、あるいは全世界の価格をみて購入できるということになって、なかなかモノやサービスの価格が上がりにくくなっているのではないかという議論です。
今申し上げた労働市場のスラックの問題、グローバリゼーションの問題、そして技術革新の問題は、欧米のみならず日本でも当てはまるところがあるのではないかと思います。その他にも色々な議論があります。例えば、賃金の下方硬直性があるために、それが上方硬直性にもなるのではないか、つまり企業は、景気が悪い時に賃金をなかなか下げられないと、その結果として景気が良くなってきた時も賃金をなかなか上げないというか上げられないという議論があります。ただ、これはどこまで立証されているかよく分かりません。

Q:総裁は、先程1998年から2013年までデフレが続いたとおっしゃいましたが、その認定というのは、その15年のデフレ期間という認定は、日銀のコンセンサスでしょうか。それから、2013年にデフレが終わっていたとしたら、その後の異次元緩和というのは、これは何のためにやってきたのかと、デフレから脱却するためにやってきたのではないとすると、人為的にインフレを起こすためにやってきたのか、改めて、異次元緩和は何のためにやっているのか、お聞かせ下さい。


A:15年間デフレだったというのはデータでも示されていますし、その点に何ら異論はないと思います。なお、2013年4月以来の「量的・質的金融緩和」によってデフレではない状況になったということは政府も認めていますし、私どももそう言っているわけですが、デフレからの脱却というところには、政府もまだ踏み切っていないわけです。私どもの物価安定目標というのは、あくまでも2013年1月に政策委員会で決めた2%の物価安定の目標を達成することですので、何らご指摘のような矛盾もなければ問題もないと考えています。

日銀総裁会見

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