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2017年4月27日 日銀総裁会見 ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。
本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明致します。

展望レポート

わが国の景気の現状については、「緩やかな拡大に転じつつある」と判断しました。この点やや詳しく申し上げますと、海外経済は新興国の一部に弱 さが残るものの、緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が業種の拡がりを伴いつつ改善する中で、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移しています。この間、住宅投資と公共投資は、横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については極めて緩和した状態にあります。
このように、輸出・生産を起点とする前向きの循環が強まる中、労働需給は着実に引き締まり、経済活動の水準を表す需給ギャップのプラス基調が 定着しつつあります。こうした状況を踏まえ、今回、景気の総括判断を一歩 前進させることとしました。
先行きについては、わが国経済は、海外経済の成長率が緩やかに高まるもとで、極めて緩和的な金融環境と政府の大型経済対策の効果を背景に、 2018年度までの期間を中心に、景気の拡大が続き、潜在成長率を上回る成長を維持するとみられます。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引上げの影響もあって、成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれます。2018年度までの成長率の見通しを、従来の見通しと比べますと概ね不変です。
次に、物価面では生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%程度となっています。予想想物価上昇率は弱含みの局面が続いています。
先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
2018年度までの物価見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。なお、2%程度に達する時期は見通し期間の中盤である 2018年度頃になる可能性が高いと考えられます。その後は、2%程度で安定的に推移していくものと見込まれます。
リスクバランスについては、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいとみています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要がありま す。
なお、展望レポートについては、佐藤委員、木内委員から、消費者物価が見通し期間中には 2%程度に達しないことを前提とする記述の案が提出され否決されました。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメン タムを維持するため必要な政策の調整を行います。

Q&A

Q:今回初めてお示しになりました2019年度の物価見通しは消費税の影響を除くと1.9%、2017年度については下方修正をしています。一方で 2%の「物価安定の目標」の達成時期については「2018 年度頃」とこれまでの見通しを維持されているかと思います。物価目標達成へ向けた道筋について、特にその達成時期の考え方を含めて詳しくご説明下さい。


前回の展望レポートの後の消費者物価の動きをみますと、このところ携帯電話機など一部の耐久消費財やサービス価格が弱めの動きとなっていま す。もっとも2%に向けたモメンタムは維持されていると考えています。 すなわちマクロ的な需給ギャップは改善しており、昨年末にプラス転化しています。特に、労働需給の引き締まりが一段と明確になるもとで、多くの企業で4年連続のベースアップ(賃上げ)が実現する見通しになるなど、賃金は緩やかに上昇しています。先行きも需給ギャップがプラス幅を拡大していくもとで、賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環が作用 していくとみています。
中長期的な予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いていますが、先行きは、現実の物価上昇率が高まっていくもとで、いわゆる「適合的な期待形成」 の面からも、上昇傾向を辿っていくと予想されます。こうしたもとで、先行き、消費者物価の前年比は、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。2%程度に達する時期は、見通し期間の中盤である2018年度頃になる可能性が高いと考えられます。また、その後は2% 程度で安定的に推移していくものと見込んでいます。

Q:展望レポートでは、経済見通しの下振れリスクとして地政学リスクを挙げています。足許では北朝鮮情勢の緊迫が続いていますが、こちらの世界 経済および日本経済それから物価や金融市場への影響についてどうご覧になっていますでしょうか。


ご指摘の通り展望レポートではリスク要因の 1 つとして地政学リスクを指摘しています。地政学リスクが金融市場や世界経済、ひいてはわが国の経済・物価に与える影響については、今後とも十分注視していく所存です。なお、具体的な北朝鮮情勢そのものについては、コメントを差し控え たいと思います。

Q:国債の買入れペース、年間80兆円をめどという文言が今回も残っています。買入れ額は足許では減っていたり、振れ幅が大きくなっている状況だと思いますが、それでもこの80兆円という文言を残すのか、それとも現状に即した数字にしていくのか、そういうことを視野に入れていらっしゃるでしょうか。
もう1つ、自民党の行政改革推進本部で、日銀は今のうちから出口戦略についての考えを語り、市場との対話をすべきではないかという意見が出されました。日銀内で出口戦略についてのシミュレーションは行っているということですので、それを早い段階から公表していくというお考えはありますでしょうか。
そしてもう1点、物価目標2%を達成するために、今の金融政策を続けていくと出口の段階で日銀が債務超過に陥るという指摘がありますが、それについて総裁はどう考えていらっしゃるでしょうか。


まず80兆円のめどについては、昨年の9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを決めた際にも申し上げましたが、実際の国債買入れ額は、金融市場の状況に応じて、ある程度の幅をもって変動することになります。実際、昨年9月以降の毎月の買入れ額をみますと、計算上の年間買入れペースは80兆円を上回ったり下回ったりしているわけです。金融市場調節方針の具体的な内容は、もちろん毎回の金融政策決定会合で議論しますが、年間80兆円のめどについては、ゼロ%程度という長期金利の操作目標を実現するという点で、問題が生じているとは考えていません。
それから出口戦略につきましては、毎回申し上げている通り、物価は 2%に向けて上昇していくとみていますが、足許では0%程度に止まっています。今から出口戦略について具体的にお話しすることは、かえってマーケッ トに混乱を招くおそれがあると思っています。と申しますのは、具体的な出口戦略というのは、そのときの経済・物価・金融情勢如何によって、どのようなものが適当かが決まってくるわけです。「量的・質的金融緩和」を導入して以来4年になりますが、出口戦略を考えるときには、短期金利の水準をどうするか、拡大したバランスシートをどのように取り扱うか、という2つの点が議論になると思います。それらについてどのような具体的な戦略で進めていけばよいかは、あくまでもそのときの経済・物価・金融情勢如何によりますので、今から具体的なイメージをもってお話しするのは、やはり時期尚早であろうと思いす。
3点目のご質問についても同様です。必要な市場とのコミュニケー ションというのは常にありますし、出口戦略について、米国も出口にさしかかったときに説明しています。我々もそういう段階になれば適切なコミュ ニケーションをとることになると思います。

Q:出口について今は時期尚早だというお話があり、経済・物価・金融の状況によるということでしたが具体的な条件としてはどういったものが挙げられるのでしょうか。それから、先程、地政学リスクについて注視していくというお話がありましたが、こうしたリスクに対しての日銀の対応策について教えて下さい。


まず、第1の出口云々については、経済・物価・金融情勢によって最も適切な出口戦略を採っていくことになりますので、具体的なイメージを持って出口戦略のあり方を今から議論するのはやはり時期尚早であろうと思います。どういう場合に出口になるかというと当然のことながら2%の「物価安定の目標」を実現するということが出口についての議論の始まりであろうと思っています。
地政学リスクにつきましては、先程申し上げたように展望レポー トでもリスク要因の1つとして挙げています。地政学的なリスクが金融市場や世界経済、ひいてはわが国の経済・物価に与える影響を注視していかなければならないということです。あくまでも地政学リスクそのものに対して中央銀行がどうこうするという話ではなくて、そのようなリスクが顕在化して金融市場や世界経済ひいてはわが国の経済・物価に影響が及ぶことになれば、それに対して中央銀行として適切に対応するということです。これは他のリスクによって金融市場、世界経済ひいてはわが国の経済・物価に影響が出てきた場合と同様です。

Q:本日の展望レポートの成長率をみると2017年度をピークに2019年度にかけて徐々に成長率が減速していく格好になっています。一方で物価上昇率については2019年度にかけて徐々に上昇率を高めるという格好になっ ています。経済が減速している中で物価上昇率が高まると考えられる根拠、特に需給ギャップをはじめとしてどのように推移していくとこのような状況が達成できるのか具体的にお願いします。


この見通しについてもっと強気だとかもっと弱気の見通しもあり得るとは思いますがロジックは非常に分かりやすくなっています。わが国の潜在成長率は、従来0%台前半かと思われていましたが最近のGDP統計の改定等により、中期的な潜在成長率は0%台の後半くらいではないかと思っています。いずれにしても2017年度、2018年度と潜在成長率をかなり上回るペースで経済が拡大していくと需給ギャップは改善し、労働需給は更にタイトになっていくということですから、そうしたもとで賃金や物価が上昇していくというのは極めて自然というか経済のロジックに合ったものであると考えています。

Q:イオンの岡田社長が「脱デフレは大いなるイリュージョンだ」という発言をされました。いわゆ期待インフレ率は弱い状況にあるかと思います。 総裁は当初、期待インフレ率が物価上昇の起点になると説明されていましたが、昨年9月の「総括的な検証」では、期待インフレ率は過去のCPIに引きずられやすいと整理をされていると思います。
お伺いしたいのは2点です。1点目は、今この状況でなかなか期待インフレ率が高まらない中で、金融政策の何が物価上昇の起点になっているとお考えでしょうか。もう1点は金融政策の中でも特に量的緩和、国債の買入れの増加と日銀のバランスシートの拡大が、足許で期待インフレ率に作用しているとお考えでしょうか。もしそうであれば、量的な増減、国債の買入れの増減は、期待インフレ率の低下や上昇、ひいては実質金利の上昇や低下を通じて、企業行動や為替にも影響が出てくるかと思いますが、その点をどうお考えかお願いします。


まず、期待インフレ率につきましては、私どもは世界の中央銀行あるいは世界の経済学者達と違ったことを言っているわけではありません。物価 上昇率は、労働市場を含めた需給ギャップに影響されるとともに、中長期的な期待インフレ率にも影響されるということです。その場合の期待インフレ率がどのように形成されるかは、それぞれの国や局面で色々な分析がなされていますが、昨年9月の「総括的な検証」で示したように、わが国の場合は、「適合的期待形成」の要素が非常に強い、つまり足許の物価上昇率が上がると期待インフレ率も上がっていく、他方足許の物価上昇率が下がると期待インフレ率も下がっていく傾向があります。これとは対照的に米国の場合は2%程度の「物価安定の目標」に期待インフレ率が強くアンカーされている、という違いがはっきりしています。そうしたもとで、今後の期待インフレ率や実際の物価上昇率については、潜在成長率を上回る経済の拡大が当面続き、需給ギャップが更に改善していく中で、賃金の上昇を伴いつつ、物価が上昇するプロセスが起こってくるとみられます。他方で、エネルギー価格が非常に大きく下落し、それが実際の物価上昇率、ひいては一昨年の夏以来、期待インフレ率を適合的に下落させたような状況に今はなく、むしろエネルギー価格が戻ってきたことによって、実際の物価上昇率には引上げの方向で効いてくる可能性が高いわけです。いずれにしても、 需給ギャップの縮小が続く、あるいは需給ギャップの改善が続く中で、エネルギー価格の回復もあり実際の物価上昇率が上がっていく、その中で期待インフレ率も徐々に上昇していくとみられます。
それから、バランスシートの拡大が直接的に期待インフレ率であれ、 将来の金利であれ、為替レートであれ、そういうものに影響するかについては経済学者の間でも色々な議論があるところです。私どもが「量的・質的金融緩和」を始めて以来強調している通り「量的・質的金融緩和」は、一方で期待インフレ率にプラスの影響はありますが、何よりも長期金利を含めて、名目金利を大幅に引き下げて、その結果として実質金利を引き下げるというのが、実体経済にプラスの影響を与える主要なチャネルです。もちろん、期待に対する影響もあったとは思いますが、基本的な「量的・質的金融緩和」の実体経済に対する影響のチャネルは、先程申し上げたようなものです。現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では、金融調節の目標を直接的に短期の政策金利と長期国債の金利に定め、いわばより明確な形で金融緩和を進めています。そういった意味では操作目標は変わっていますが、金融緩和の目標や実体経済に与える影響のチャネルは、全く変わっていないということだと思います。

Q:先程からいくつか日銀の出口について質問があったのですが、いつも通り黒田総裁は時期尚早とお答えになっています。なぜここに関心が増えて いるかというと、やはり2013年に始まって2年でケリをつけると始まった異次元緩和が4年目から5年目になり、2%に達するのも2018年度頃とおっしゃっていますが、民間のエコノミストはそれも難しいだろうと言っています。今の異次元緩和を続ければ続けるほどバランスシートが膨らんでいき、バランスシートが膨らめば膨らむほど出口が難しくなるということは議論の余地がないと思います。だからこそ今どのようにお考えなのか私どもに示してほしいというのが色々な声だと思うのですが、それを時期尚早だというのは、やはり説明責任を果たしているのかどうか疑問があります。
いくら言っても時期尚早ということだと思いますので、具体的なことについてお聞きしたいのですが、日銀の財務が赤字になるかもしれない、あるいは債務超過になるかもしれないという一部の声に対して、黒田総裁は国会あるいは記者会見でも日銀にはシニョレッジ通貨発行益があるので大丈夫だということをおっしゃっているのですが、通貨発行益というのも裏付けになるのは日銀が無利子で発行できる日銀券があるからこそ、シニョレッジが発生するわけです。シニョレッジというのは金利が上昇していけば、日銀券というのはどうなるのか分かりません。今100兆円に水膨れしていますが、金利が上がっていくうちに何兆円に減るか増え続けるのかもしれませんがこれは未知です。このように大きく増減するかもしれないものを根拠に、シニョレッジがあるから大丈夫だというのは、やはりあまり説明になっていないのではないかと思います。この日銀券、シニョレッジについてどのようにお考えなのか、詳しいお考えをお聞かせ下さい。


従来から申し上げている通り、この場は金融政策および今回は展望レポートも含めてですが、ご質問にお答えする場でありまして、演説をして頂く場ではありませんので、それに対してコメントをするつもりはありません。
なお、出口戦略については何回も申し上げている通りです。米国のFRBも2008年のリーマンショック以降、量的緩和を3度にわたって拡大してきて、そうした中で出口戦略をかなり前に語りましたが、それは実際に現在行っている出口戦略とは違ったものでした。ですから、あまり時期尚早に出口戦略を語っても、実際にそうなるわけではない話をするのは、あまり市場にとっても適切でないと思いますので、私どもとしてはまさに適切に説明責任を果たしていく、ということに尽きます。

Q:労働需給も逼迫してきて、賃金も4年連続でベア(賃上げ)が達成されたということですが、一方で4月に入って小売業界では値下げという話も出てきていま す。このように企業がなかなか値上げを出来ない理由はどのような所にあると思っていらっしゃるのかを教えて下さい。
もう1点、その背景に個人の節約志向というようなことがあるとすれば、2019年10月にはまた消費増税があります。2%にようやく行きそうな所で、消費税をまた引き上げることが果たしてよいのかどうかご見解をお願い致します。


まず需給ギャップが縮小してプラスになり更に改善していく、あるいは労働需給が更にタイトになっていく中で、当然、賃金は上昇していくと思っています。足許でも4年連続のベアが実現しています。特に今年は中小企業も賃上げが昨年より高いようでありますし、ご承知のようにパートの賃金は、現在、前年比で2%台の半ばぐらいの上昇を示しています。そういう意味で、賃金は今後更に上昇していくと考えています。
物価については、財とサービスで色々違いはあるとは思います。財の場合はどうしても、国際競争に晒されていますので、その影響はある程度大きくあります。サービスは多くが国内向けであって、しかもいわゆる非貿易財の場合が多いため、そういったものの価格は主としてその国内の需給で決まってくると思いますので、全体としての物価も徐々に上がっていくとみています。ただ、サービスの中でも、統計上、家賃が下がっている状況がずっと続いています。家賃については、以前から品質調整がされていないので、ずっと下がっているようになっているとか議論が色々とあるわけです。財の方は中身をみてみると、比較的上昇の要素がみえてくるのですが、サービスの中には、今申し上げたものですとか、公共料金等は別のシステムで決まってきますので、その辺りはもう少しよくみていかなくてはならないと思います。従って、賃金については労働需給が更にタイト化していく中で、色々な形で上昇していくとみていますが、物価については今申し上げたような色々な要素がありますし、特に期待インフレ率の弱めの状況というのが、まだ続いているわけです。ずっと期待インフレ率が下がってくる状況が昨年以来止まって、一部に上昇しているものもあるのですが、まだ具体的に明確に期待インフレ率が上昇するところまで至っておらず、下げ止まってフラットに推移している状況ですので、物価については先程来申し上げているように、期待インフレ率の動きをよくみていきたいと思っています。
消費税については、これは政府・国会が決められることですので、私から何か申し上げることは差し控えたいと思いますが、今回の展望レポートに示している通り、2019年の10月に消費税が2%引き上げられるということを前提に、経済の見通し、物価の見通しを作成しているということだけは申し添えます。

Q:春の賃上げについては4年連続のベアということですが、水準的にみてご所見を頂けますでしょうか。仮に十分ではないと受け止められているの であれば、それをどのように分析されているかを教えて下さい。
2点目は、地政学リスクが経済・物価に影響するのであれば、中央銀行としての対応を考えるということですが、今の「イールドカーブコント ロール」のもとでは、対応されるときには金利もしくは量を動かすということだと思うのですが、地政学リスクに対応するときも、基本的には金利を動かすということなのか、それとも影響が甚大な局面では量も優先するということなのか教えて頂けますでしょうか。


春闘はまだ最終的な数字までは出てきていないと思いますので、もう少しみていく必要があると思いますが、現時点で公表されているデータをみますと昨年並みで、中小企業については昨年を上回っている状況だと思います。 今回の春闘に際しては、労使とも単に過去12か月の物価上昇率だけではなく、今後の物価の動向についても交渉の際には勘案しようではないか、というようなことをおっしゃっていました。
そういった面からみますと、過去12か月の物価上昇率は若干マイナスでしたので、そうした中で昨年並みないし昨年を上回るようなベアになっていることは評価できるのではないかと思います。引き続き需給ギャップの改善、労働市場のタイト化が進む中で、更に賃金が上昇していくことが望ましいのは、その通りだと思います。
地政学リスクについては、地政学リスクそのものに対してどうこうということではなくて、その結果起こり得る金融市場、世界経済、ひいてはわが国の経済・物価に与える影響にどう対応するかということです。これは一般的な今後の対応そのものでありますので、まさにそのときの経済・物価・ 金融情勢に合わせて、適切な調整を行うということに尽きます。どのような方法になるかは、あくまでも経済・物価・金融情勢次第ですので、先験的に何か具体的なことを申し上げるのは適切ではありませんし難しいと思います。

Q:何度も質問が出ていますが、今回景気判断について「拡大」という言葉を使っています。物価上昇にとってプラスの要因は結構あると思うのです が、その中でも足許の物価がなかなか上がってこない、弱いという状況です。 これはなぜなのか色々な分析があると思うのですが、総裁がおっしゃったような「適合的な期待形成」の要因もあるのかもしれませんが、もっと構造的な要因といいますか、格差ですとか、節約志向の高まりとか、消費者の考え方と日銀の今の理論との間にギャップがあるのではないかとか、その辺りについてどのようにお考えなのかをお聞かせ下さい。
もう1点は、今日本経済は深刻な人手不足に直面していますが、この中でサービスの提供を抑えていくとか、その供給の壁になんとか対処するために、ヤマト運輸のような動きも出ています。これが日本経済にとって将来的にマイナスになる可能性についてどのようにお考えでしょうか。


まず第1の点につきましては、これは日本についてのみならず、米国や欧州でも色々な議論がありますが、通常の議論では物価上昇率は主として需給ギャップと予想物価上昇率で決まってくるものです。ご指摘のような格差とか節約志向といわれるものが影響することもあり得ると思うのですが、 やはり予想物価上昇率の動きや需給ギャップの動きを分析し予想していくということに尽きると思います。そういった面では、需給ギャップの改善が続いていくということは、ほぼ意見が一致していると思いますが、予想物価上昇率 については、なかなか上がってこないというのは事実ですし、現在もまだ弱めの動きだということも事実ですので、この辺りについては今後ともよく注視していく必要があると思っています。
2番目の人手不足による供給制約が成長にマイナスになるというようなことは、私はマクロ的にはないと思います。個別の企業や産業で人手が不足してビジネスの拡張ができないとか、そういうことはあり得ると思いますが、 基本的には人手が不足するということは、労働需給が逼迫して賃金も上がるわけですし、そういう状況に応じて省力化投資や省人投資も活発になってきます。労働需給がタイトになって人手不足になってきたら、成長率が下がると いうよりは、むしろ高まり得るのではないかと思います。ただし、こういった人手不足の状況の中で、各産業や企業がどのように自らのビジネスを拡大していくか、いけるかということについては、その企業・産業毎の人材確保であれ、省力化投資であれ、技術開発、新製品の開発など、色々な戦略はあり得ると思いますが、経済全体でマクロ的に需給がタイトになって人手不足になってくると経済が成長できなくなるということはないと思います。

Q:自民党の行革推進本部の話なのですが、行革推進本部という一見中央銀行と関係ないような組織が日銀を取り上げるというのは、国民の負担になり得る、赤字になったときにそれを埋めなくてはいけないというところを先に説明しておいた方がよいのではないかと、そういう趣旨なようです。具体的に市場を混乱させないためにどういう出口の出方をするとか、詳細な収支予測を出せとか、そういうことは言っていないようでして、少なくとも国民負担が生じ得るというところだけでも早めに言うべきではないかという見方について、どう思われるかお願いします。


これは基本的には出口戦略の問題であり、出口戦略のあり方、あるいはそのときの経済・物価・金融情勢の状況如何で色々なシナリオが描けると思いますが、今の段階でそういったことを具体的に申し上げるとかえって混乱させるので時期尚早である思っています。なお、ご指摘の行革推進本部の論考につきましては、これが公表されたことは承知しており、その内容もデフレ脱却を確実にするためにも大胆な金融緩和に求められる役割は引き続き大きいとしたうえで、その出口の際には、日本銀行の財務や金融市場への影響などの面でリスクを伴うため、日本銀行に対して市場との対話をより一層円滑に行うよう提言していると認識しています。なお、先日ワシントンでありました国際会議で、G20はバーデンバーデンの会議から1か月程度しか経っていなかったのでコミュニケ(公式声明)を出しませんでしたが、IMFCはコミュニケを出しています。金融政策についても記述があり、金融政策の正常化が正当化される場合に、そのもとでの金融政策のあり方について、コミュニケーションをよくとる必要があると書かれています。これは、おそらく現に出口にさしかかって出口政策を実行しつつある米国に関して言っているセンテンスだと思いますけれども、そういうことが言われています。

Q:今日の声明文でも書いてある通り、日銀はかねてマネタリーベースの拡大を止めるための必要条件は2%の物価上昇率が実績値として安定的に実現することと述べています。一方で、今回初めて2019 年度の物価見通しを出して、その数値が1.9%ですから、これは 2%を超えていないということですから、常識的に判断すれば2019年度になってもマネタリーベースの拡大、すなわち日銀のバランスシートの拡大は続くというように解釈するのが常識的か と思いますけれども、そのように考えてよろしいでしょうか。


ご指摘の通り今回の展望レポートの中心的な見通しでは、消費者物価の前年比が2%程度に達する時期は、見通し期間の中盤である2018年度頃に なる可能性が高いとみていますけれども「オーバーシュート型コミットメン ト」でいう安定的に2%程度を超える時期というのは、それよりも先になる可能性が高いと考えています。

Q:物価に関して2点なのですけれども、足許の物価が想定よりも下がっている、あるいは弱い理由は今日のお話からすると携帯電話、家賃それから国民の予想物価上昇率が想定より低いという整理でよいのかどうかというのが1点です。
もう1つは、昨年9月の時点で日本人の予想物価上昇率というのは適合的だというのは、もう分かっていたことだと思うのですけれども、その9月以降の見通しに比べても、足許の物価というのは弱まっているのではないか、なかなか伸びてきていないのではないかと見受けられるのですけれども、更に予想物価上昇率が上がってこない理由について何かお考えがあればあわせて 教えて下さい。


第1点は、基本的には帰属家賃のマイナスはずっと続いており、最近マイナス幅が特に大きくなったというわけではありません。それから予想物価上昇率についても、原油価格が大幅に下落する中で実際の物価も下落し、 一昨年の夏以降、予想物価上昇率も下がっていったわけですけれども、昨年の前半か中頃から予想物価上昇率自体もどんどん下がるという状況ではなくなって安定していますので、足許の物価上昇率が1月にみていたよりも弱いと いっても、予想物価上昇率が更に弱くなったわけではありません。従って、足許の物価上昇率が1月にみていたよりも弱いのは、主として携帯電話機とか、その通話料等の値下げが相当効いていると思いますので、それ自体としては一時的な水準の引下げである可能性は高いと思います。ただ、足許が下がるとその後にもある程度の影響は出てくる可能性はあると思います。基本的には、前回の展望レポートと比べて下がったのは、携帯などの一時的な要因であると思っています。
予想物価上昇率について、適合的な要素が非常に大きいということは、9月の「総括的な検証」で詳しく分析した通りであり、そこが特に変わったとは思っていませんが、色々な事情で足許の物価上昇率が下がると予想物価上昇率にも影響するおそれがあるという点は変わっていないと思います。ただ、実 際の物価上昇率は大きく分けて、需給ギャップと予想物価上昇率の動きで説明できるわけですが、需給ギャップ自体は改善が続いていますし、2017年度、2018年度と潜在成長率をかなり上回る成長が続くと見込まれますので、実際の物価上昇率も上昇していき、そうしたもとで適合的に予想物価上昇率も上昇していくとみています。

Q:先程来、地政学リスクという質問が出ていますが、私は抽象的な質問が嫌いですので具体的にお伺いします。今認識されているのは朝鮮半島の有事の問題だと思います。それについての具体的なコメントはお伺いしようと思いませんが、仮に有事、つまり戦端が開かれるような場合に、日本の銀行の内外の決済の問題や資金繰りの問題が出てくると思います。リーマンショックの後では、例えばドル資金供給のためのスワップを作ったりして対応してきたと思いますが、そういう在来的な手法で今想定されている地政学リスクに対処可能だとお考えでしょうか。
もう1点は、韓国との通貨スワップについてです。今、財務省も日本銀行も韓国との間では通貨スワップはない状態だと思います。現状において韓国との通貨スワップを何らかの形で復活させるという議論は存在するのでしょうかしないのでしょうか。


まず第1点については、地政学リスクという場合には一般に中東や北東アジアなど色々な所が指摘されているわけですが、その他にもあり得る とは思っています。そうしたうえで、地政学リスクが顕現化した場合の対応については、その事態がどういうものかによるわけですので、一概に何とも申し上げかねるということに尽きます。ただ、中央銀行というのは常にいかなる事態にも対応し得るように頭の体操をしているということです。リーマンショック後のドルスワップの件については、ご承知のように現時点で大幅なスワップが結ばれています。これはリーマンショックの教訓にかんがみてそういうことになっているわけです。
韓国とのスワップについては基本的には財務省が主導するものです。中央銀行間のスワップであっても、いわゆる金融協力としてのスワップは、あくまでも財務省の政策によって決まってきますので、私から現時点で何か申し上げることはありませんが、スワップ自体は必要があればいつでも結ぶことは可能だと思っています。

Q:総裁の先程の発言についてもう少し詳しく教えて下さい。出口の議論は2%の「物価安定の目標」を達成・実現することが議論の始まり、ということなのですが、日銀は「オーバーシュート型コミットメント」を採用して います。通常の中央銀行であれば、そのゴールが見えてきた時点で出口の議論を始めるのだと思います。この点について、日銀はやはり 2%の「物価安定の目標」を達成してから出口の議論が始まるという考えなのでしょうか。 また、今回「拡大」という言葉が景気判断について使われましたが、景気が拡大し、これだけ雇用、労働需給というのが逼迫している中でも、日銀が物価の先行きについて下方修正もやむを得ないというところまできています。確かに携帯電話などで部分的な弱さはあるのですが、大きくみて日本の物価が上昇してくる強さについて、総裁は懸念をお持ちではないのでしょうか。


まず、出口については先程来申し上げている通り、経済・物価・金融情勢等を勘案して最適な出口戦略を立てるということですので、まさに出 口にさしかかった状況で議論するということになりますが、2%の「物価安定の目標」をどの程度達成したらどうなって、というような機械的なルールはないと思います。
経済に関して緩やかな拡大に転じつつあると景気の総括判断を一歩前進させることにしたのは、展望レポートにも詳しく記載している通り、輸出・生産を起点とする前向きの循環が強まる中、労働需給が着実に引き締まり、 経済活動の水準を示す需給ギャップのプラス基調が定着しつつあることに基づいて判断したものです。物価については、足許少し弱めの数字が出ていますので、そういったことを踏まえて、足許の見通しについては小幅に下方修正しました。他方、先行きの物価の見通しについては、景気判断を一歩前進させましたし、従来通りの見通しを政策委員の中央値として維持したということです。

日銀総裁会見

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