2018年3月9日 日銀総裁会見 ノート

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。
わが国の景気の現状については、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで緩やかに拡大していると判断しました。
やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば着実な成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が改善する中で増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。住宅投資は弱含んで推移しています。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。
先行きについては、わが国経済は緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は極めて緩和的な金融環境や政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も海外経済の着実な成長を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、1%程度となっています。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景にプラス幅の拡大基調を続け2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなどが挙げられます。
日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

 

Q&A

Q:今回の決定会合は今の任期としては最後の会合となりました。この5年間の評価、そして残された課題についてお伺いします。


A:ご案内の通り2013年当時、日本経済は長年のデフレにより経済の劣化が進んでおり、デフレからの早期脱却が最大の課題となっていました。そうした認識から、日本銀行は同年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、その後も経済・物価情勢の変化に応じて必要な政策対応を行ってまいりました。こうしたもとでこの5年間、日本経済は大きく改善しました。企業収益は、過去最高水準まで増加しているほか、労働市場はほぼ完全雇用となっています。賃金も緩やかながら着実に上昇しています。物価についてもエネルギーと生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、2013年秋以降、4年以上にわたってプラス基調を続けており、既にわが国は「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。
このように、経済・物価情勢は大幅に改善したものの、現時点で2%の物価安定の目標は、なお実現できていません。原油価格の大幅な下落なども影響しましたが、より大きな要因は長年にわたるデフレの経験から人々の間にデフレマインドが根付いてしまい、その転換に時間がかかっていることもあると思います。
もっとも、先行きについては、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化していくとみられるほか、中長期的な予想物価上昇率も既に弱含みの局面を脱し、今後、実際の価格引上げの動きが拡がるにつれて、着実に上昇すると考えられます。このように2%に向けたモメンタムはしっかりと維持されています。日本銀行としては、こうした前向きの動きが持続するよう、今後とも現在の強力な金融緩和を粘り強く進め、2%の物価安定の目標実現という課題にしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。

 

 

Q:前回の決定会合以降、金融市場ではアメリカの雇用統計の発表をきっ かけに世界的な株安が起こり、また足許でもトランプ政権の貿易政策を巡って、株価や為替相場が非常に大きく動いています。この金融市場で急速にボラティリティが高まっている状況をどう評価し、また実体経済への影響についてどのように考えておられるのかお伺いします。


A:最近の国際金融市場の不安定な動きについて、マーケットでは米国の経済・物価指標が予想を上回って、先行きの物価上昇ペースが速まるのではないかという警戒感が強まったことがきっかけであった、という指摘が多いようです。その結果、米国金利が上昇し、それまで史上最高値を更新し続けてきた米国株価の水準が調整され、これが投資家のリスク回避姿勢の強まりを通じて、わが国を含む各国の株価下落につながったといわれています。また、ご指摘のように最近では米国の貿易政策を巡る不確実性も先行きのリスク要因として意識されていると指摘がございます。
もっとも、わが国も米欧も、経済の良好なファンダメンタルズ(基礎的条件)に大きな変化はみられておらず、株価のベースとなる企業収益の見通しも、内外ともにしっかりとしていると考えています。こうした中で、各国の株式市場において、2月上旬に急上昇したボラティリティは、いったん低下した後も一頃に比べて高めの水準で推移していますが、これまでのところ他の金融市場や各国の実体経済への影響は限定的とみています。いずれにしても、内外の金融市場の動向や、それがわが国の経済・物価に与える影響については、引き続き注意深く点検していきたいと思っています。

 

 

Q:総裁ご自身は再任される見通しですが、岩田・中曽両副総裁は、今回が最後の会合となりました。お二人に何かお言葉があるかお聞かせ願います。また、何か思い出とかエピソードがあればお聞かせ下さい。


A:ご案内の通り、過去5年間、両副総裁とともに2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入、2014年10月の「量的・質的金融緩和」の拡充、2016 年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入、そして「総括的な検証」を踏まえて、2016年9月に、現在に至る「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入をともにやってきたわけです。その結果、先程申し上げたように経済状況は大きく改善していますが、残念ながら2%の物価安定の目標は、まだ実現していないということです。いずれにしましても、お二人の様々な経験・知識を活かした有益・建設的な議論が、金融政策の決定・運営に大きく貢献したと思っています。

 

 

Q:この5年間の評価は先程伺いましたが、金融政策の進め方やコミュニケーションのあり方についてもっとこうすればよかったとか、反省したり悔いたりしていることが、結果論も含めて何かおありかどうか教えて下さい。


A:中央銀行のコミュニケーションのあり方については、私自身も先頃ヨーロッパであったコンファレンスに参加して、当時のジャネット・イエレンFRB議長、マリオ・ドラギECB総裁、マーク・カーニーBOE総裁とともに中央銀行のあり方についてパネルディスカッションを行いました。皆さん、基本的に同じ意見で、市場あるいは国民一般とのコミュニケーションが、金融政策においては極めて重要であるという点は、一致していたと思います。というのは、財政政策の場合は、具体的に医療費の支出など、国民から政策がよくみえる形で分かるわけです。金融政策の場合は、中央銀行が様々な政策を行うことによって、金融市場を通じて経済全体に波及していくというメカニズムをとります。具体的な個々の支出項目がみえるのではないため、金融市場を通じてマクロ経済全体にどのように影響が及び、それがどのようにそれぞれの人の生活や経済状況に反映されていくかということが、やや間接的でみえにくいところがあります。ですから、できるだけ明瞭に、こういう波及経路で、こういうことを目標にして現在こういう政策を行っています、とコミュニケートすることが、経済政策としての金融政策の効果をしっかり発揮させるためにも重要だと思います。例えば2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するなど、金融政策全体の目標を提示し、それを目指して金融政策を行っていくことを明確にすることは非常にいいと思うのですが、具体的な金融政策の手段を将来について明示して、いわばフォワードガイダンスという形で市場を誘導していくことが有効かどうか、あるいは必要かどうか、適切かどうかについては色々な意見があると思います。基本的にはやはり中央銀行としての目標、そしてそれを実現するための政策、そしてその政策が目標に向かって波及していくチャネル(波及経路)といったものを明確にコミュニケートすることが、最も重要だと思っています。

 

 

Q:2点お伺いします。
1点は長期国債の買入れペースです。今80兆円をメドとされていますが、実際には、国会答弁でおっしゃっていたのは50兆円程度だとお伺いしています。結構乖離があるところで、市場関係者からはステルステーパリングだというような指摘もあります。乖離があること自体について、黒田総裁はどのようにご覧になっているのか、改めてお聞かせ下さい。
もう1点は、そういったところも含めて、出口戦略へ向かう日銀の姿勢が、いまいち分かりづらいというのもまた一方であるかと思います。今年2018年度ではその話をしないということを聴取でおっしゃっていたかと思いますけれども、出口を2019年度に議論すると言っただけで市場で金利が動いたりと、なかなか神経質に反応しているわけで、その辺りの日銀としての考え方を、これからどうやって市場との対話というところで進めていくのか、その辺りについてもお聞かせ下さい。


A:前段につきましては、2016年9月に現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みを決めた時に申し上げましたし、現在も申し上げていますが、金融政策の操作目標は、かつてのような国債の買入れ額ではなく、あくまで現時点でいえば短期金利が-0.1%、10年物国債金利がゼロ%程度という金利目標になっています。国債の買入れペースは、あくまでも「イールドカーブ・コントロール」の金利目標を達成するために必要にして十分なことを行っているということです。概ね現状程度の買入れのペースをメドとしつつということであって、目標は2つの点の金利を設定することによって、適切なイールドカーブを実現することです。目標自体が今は金利になっているということです。
後段につきましては、これも毎回同じことを申し上げているのですが、現時点で言いますと1月の展望レポートで示されている通り、消費者物価の前年比が2%程度に達する時期は2019年度頃になる可能性が高いとみています。これは物価に関する中心的な見通しで、展望レポートでは同時に、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクが大きく、不確実性があることもあわせて指摘しています。そのうえで、将来こうした見通しが実現したとしても、そのことが直ちに2019年度に出口を迎えるということを意味するわけではなく、まずは、いつどのような手法で出口を進めていくかといった点を検討していくことになるだろうということです。いずれにしましても、現在は2%の物価安定の目標の実現までにはなお距離がありますので、出口について具体的に検討する局面ではないということも、従来から申し上げている通りです。

 

 

Q:コミュニケーションのあり方について、先程の質問の延長でお伺いします。2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入された後にマーケットで起きたのは、国債の買入れの量が減ったことと、マイナスに行き過ぎてしまった長期金利が上がったことです。量が減る方向と金利が上がる方向ということで、どちらかといえば正常化の方向に向かったのだと思うのですが、当時は、金融緩和の強化という公表のされ方をされたと思います。この分かりにくさというのが、市場の正常化観測、日銀に対する疑心暗鬼につながっているという指摘もあると思います。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を緩和強化としたコミュニケーションが、本当に正しかったのか ということについて、どう思っていらっしゃいますか。
もう1点は、新日銀法の施行から4月で20年を迎えます。新日銀法は中央銀行に独立性を持たせるのが大きな特徴だったと思いますが、この独立性について、副総裁候補の若田部さんは、中央銀行が与えられた目標の中でいかに手段の独立性を確保するかということだと、手段の独立性という理解を国会の所信聴取の中でおっしゃっています。今、政府と日銀は共同声明を結んでいるわけですが、この2%の目標は、日銀が独立してその目標を定めて、それをもとに政府と共同声明を出したという理解なのか、日銀の独立性というのは目標も含めての独立性なのか、それとも手段のみの独立性なのか、総裁はどのようにお考えでしょうか。


A:まず、前段についてですが、強力な金融緩和を持続するという意味では、明らかに強い金融緩和だと思います。「総括的な検証」の中でもかなり詳しく示していますが、経済・物価、貸出や社債の金利などに非常に大きな影響を与えるのは、実は超長期の金利というよりは、むしろ短期・中期から長期にかけての金利です。他方で超長期の金利については、それが下がることによって、経済活動に大きくプラスに効くことはあまり期待できません。逆に、超長期の金利があまりにも下がってしまうと、年金や生保などの超長期の運用をしている投資家の利回りが下がって、将来の年金受給について心配するような声が出てきたりするなど、却ってマインド面でマイナスになるおそれもあります。
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」では、短期金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度と決めて、全体として適切なイールドカーブになるようにしており、それによって金融緩和は非常に強く効いていると思っています。また、予想物価上昇率が上がっていけば、名目金利から予想物価上昇率を引いた実質金利は更に下がっていきますので、金融の緩和効果は更に強まっていきます。このような点は「総括的な検証」を踏まえて「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した時にかなり詳しくご説明しました。名称が少し長くて、一言で言えないと言われたこともあるのですが、この名称はその内容をよく表していて、しかも金融緩和の強化であることは間違いないと思います。なお、操作目標が国債の買入れ額ではなく、金利になっているということは、重要な変更点だと思います。
2点目の独立性については、1998年の新日銀法の中で非常に明瞭にされています。日本銀行が金融政策の決定にあたって、政府から独立した政策委員会で決定するということは法律的に保障されています。2%物価安定の目標についても、2013年の1月に政策委員会で決定して、それが共同声明に盛り込まれました。そういう意味で、日本銀行は、具体的な目標についても手段についても、独立性を維持しているということだと思います。BOEなどの一部の中央銀行を除けば、殆どの先進国の中央銀行は、具体的な物価安定の目標とその手段について、政府から独立して決定することになっています。ただし、物価の安定をその第1の使命とすることは日本銀行法に書かれていますし、FRBの場合には、ご承知のように物価の安定と雇用の極大化が法律に書かれています。そういった基本的な使命は、まさに議会で決められているわけですが、そのもとでの具体的な政策目標やその目標を達成するための手段については、日本銀行も含めて中央銀行に任されているというのが、通常の姿ではないかと思います。

 

 

Q:素朴な疑問ですが、総裁続投ということですがどうして引き受けようと思われたのでしょうか。


A:個人的なことでお答えしにくいのですが、こうした重大な局面、5年間で経済はある意味で大幅に改善したことは事実ですが、残念ながら2%の物価安定の目標は実現されていないところで、政府として再任の意思があると聞きまして、私として、この際お引き受けして、国会の同意を得て内閣から任命された暁には、全力を挙げて2%の物価安定の目標の実現に邁進したいと思ったからです。

 

 

Q:これからの5年は2%の物価目標達成という課題に向けて、引き続き挑み続けることになると思うのですが、2019年の10月には消費税率の引上げも予定されていて、物価に影響を与え得るわけですが、それでも2019年度頃の2%目標達成の可能性が高いと確信しているのでしょうか。もし、物価上昇が鈍った際には、追加緩和も考えているのでしょうか。


A:展望レポートで示されている経済・物価の見通し、あるいは2%達成時期に関する記述等も政策委員会で議論して示しており、政策委員会の中央値の見通しとして、2019年度頃に2%が達成される可能性が高いと考えています。ただ、そのうえで、先程申し上げたようなダウンサイドリスクもあるので、十分慎重に状況をみて金融政策を運営してまいります。公表文にも毎回示している通り、今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うので、モメンタムが維持されていないようであれば、当然追加緩和を検討するということです。

 

 

Q:先程の質問とも重なるのですが、出口戦略の中で総裁が先程おっしゃった通り「イールドカーブ・コントロール」自体は、緩和引締め両方の方向性を内包していると考えています。その中で、例えば予想物価上昇率が上がれば、名目の誘導目標を上げたとしても緩和効果は変わらないということになると思うのですが、例えば、金利の誘導目標を多少微修正して、上げたからといって、緩和効果は変わらないので出口ではないというようなロジックや考え方は成り立つのかどうか、総裁のお考えをお願いします。


A:それは理屈としては成り立つとは思うのですが、今そのようなことを考えているわけではありません。これまでも申し上げている通り、予想物価上昇率が上がっていけば、むしろ緩和効果が更に強化され、それによって2%に向けた道筋をより確実なものにするということを狙っていますので、今の時点でそのようなことは全く考えていません。

 

 

Q:春闘についてお伺いします。今春闘の結果はまだ出揃ってはいないのですが、2%の目標に対して大きな要素になると思います。総裁自身、今春闘に対する期待というか思いがあれば教えて下さい。


A:現在、労使で交渉中ですので、あまり具体的なことを私から申し上げるのは適切ではないと思いますが、一般論としては、日本銀行は、単に物価が上がればよいということを言っているのではなく、あくまでも企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていく、という好循環を作り出すことを目指しています。実際、企業収益は過去最高水準で推移していますし、労働需給が一段と引き締まり、生鮮食品を除いた消費者物価の前 年比も 1%程度まで上昇してきていますので、賃金上昇圧力は着実に高まっているのではないかと思っています。また、政府も税制面での措置を含めて各種の施策を打ち出して、企業による力強い賃金アップを後押しする姿勢を示しています。日本銀行としては、こうした経済環境を活かして、労使において好循環の実現に向けた取組みが拡がっていくことを強く期待しています。

 

 

Q:最初に政策を導入した時に、マネタリーベースを2倍、長期国債の保有残高を2倍、ETFの保有残高を2倍という形で出されました。政策の規模を称して次元が違うという言葉をおっしゃったと思うのですが、現在では5年間経って長期国債は5倍近い、ETFに関しては10倍を超えているという状況です。2倍でさえ次元が違うという言葉でおっしゃって、今の状況は端的に言ってどういう言葉で表現できるのかをお伺いします。


A:異次元というのはそのまま適用できると思います。私どもが行っている金融政策については、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入し、その具体的な中身をお示ししました。それから、2016年1月には「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入し、その内容をお示ししました。更に2016年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と、フレームワークをかなり大きく変えたわけですが、その際にも具体的に調節方針等をお示ししました。政策のフレームワークとしては「量的・質的金融緩和」あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という名称ですが、「大胆な金融緩和」とか「強力な金融緩和」とか「異次元の金融緩和」というのは、ふわっと、全体として非常に強力な金融緩和をしていることを示すために使った言葉です。現在でも、「大胆な」と言ったり、「強力な」と言ったりもしていますが、具体的な金融政策については、若干長いですが中身を示す「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」ということで、金融緩和政策のフレームワークを示しています。

 

 

Q:所信聴取の中でも再三出た財政ファイナンスを巡る考え方についてですが、総裁の見解として、財政ファイナンスを目的としたものではないという動機は必ず伺うのですが、現実として国債の保有比率が4割を超えているということ自体が物価を上げるという役割から政府の財政を支えるという役割の方に、徐々に金融政策の役割が移行しているのではないかという指摘が非常に多いと思うのですが、そういうことは一切ないと言い切れるものでしょうか。


A:それは一切ありません。財政ファイナンスの定義がはっきりしませんが、通常は中央銀行の通貨発行権を背景にして、政府の財政赤字のファイナンスを容易にする目的で中央銀行が政府の発行する国債の引受け等を行うことを指しているのだと思います。私どもは、あくまでも、金融緩和をするために市場にある国債を買っています。例えば、社債やCPも買っていますが、特定の会社のファイナンスを助けようとしているわけではありません。国債の場合はいわばリスクフリーの金利で、民間の社債の場合は民間のリスク付きの金利になりますが、そのような市場の金利を下げて、予想物価上昇率の上昇と組み合わせて実質金利を下げていくという目的のためにそのようなものを買っています。社債の発行体や国のファイナンスを容易にするために行っているわけでは全くありません。

 

 

Q:所信聴取の中で2%の物価安定の目標が達成される前に金融緩和を弱めることは考えられない、粘り強く今の緩和をやっていくと明確におっしゃっていましたが、その一方で2%が達成するまで何も変えないというわけではない、ともおっしゃっていたと思います。それは先程の実質金利の話を考えればおかしくはないのですが、総裁が出口の議論を始める段階ではないなどと出口という言葉を使われる時には、例えば長期金利を上げるといったイールドカーブの調整も含んでおっしゃっているのでしょうか。


A:そこは抽象的に定義することはできないと思います。むしろ、この公表文でも日本銀行は2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続すると言っています。更に、消費者物価指数(除く生鮮食品)の 前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する、と言っています。いずれも、2%が実現される前から、もう2%に近づいてきているから緩和を緩めようとか、そういうことは意味していないとお考えになってよいと思います。細部の色々なことについては、これまでも変えてきているわけですが、本質的な「イールドカーブ・コントロール」あるいは「オーバーシュート型コミットメント」という現在の金融緩和政策のフレームワークを2%が達成される前に変えるとか、緩和の程度を弱めていくといったことは全く考えていません。

 

 

Q:米国の関税政策によってトレードウォー(貿易戦争)の懸念が世界的に拡がっています。総裁は以前財務省にいらっしゃった時も関税政策等に携わっていらっしゃいましたが、今のこの状況についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。経済に与えるインパクトということについてもお願いします。


A:最近、米国政府が通商拡大法第232条を適用して、鉄鋼とアルミニウムに対して輸入制限措置を発動することを打ち出しました。中央銀行の立場から特定国の通商政策について何か具体的にコメントするのは差し控えますが、やはりG7G20WTOIMFをはじめ、国際社会では自由貿易の重要性が共有されています。また、保護主義的な政策は自国に必要な輸入も妨げる等のデメリットもあります。こうしたことを踏まえると、保護主義的な動きが世界的に大きく進むとは考えていません。ただし、やはり各国の通商政策は当該国だけではなく、世界経済や国際金融市場に大きな影響を及ぼし得るので通商政策を巡る動向は引き続きよくみていきたいと思っています。

 

 

Q:5年間の振返りに関連してお伺いしますが、総裁は財務官やアジア開発銀行総裁といった国際的な場での豊富なご経験を受けて、総裁に就任されたかと思います。そうしたキャリアを持った方が日銀のトップに就いたことは、相応の意味があるものと理解はしていますが、実際、当時の安倍内閣が黒田さんを総裁に起用した時も、大胆な金融緩和は海外から円安誘導という批判を受けかねないので、それに対して説得力ある言葉で、自分の言葉で反論できるような能力の人を起用したいというようなことをおっしゃっていたと思います。実際、総裁に就かれてから非常に活発に海外に足を運び、色々な場面で確か国会での所信聴取でもバーゼルⅢの交渉についても言及されていたかと思いますが、そのような国際的なキャリアを持った方が、日銀のトップを務めたこの5年を振り返っての意味や、どういう成果があったかをどのようにご覧になっているか教えて下さい。


A:もちろん、各国の総裁方はそれぞれのキャラクターやバックグラウンドをお持ちなので、国際的なことをやった経験がなければなれないという話ではないと思います。ただ、これだけ経済や金融が国際化しているもとでは、中央銀行の政策はあくまでも国内政策目的、物価の安定のために行われる、あるいは行われるべきということは、G20その他で常に言われていますが、他方でスピルオーバーというか、スピルバックというか、色々な形で特定の国の金融政策が他の国の経済や金融に影響を与え、それがまた逆流して自国の経済や金融にも影響が出てくるという意味で、国際的なリパーカッション、相互作用は非常に重要になってきています。それについて様々な場で議論や意見交換をすることは殆ど不可欠になっていると思います。バーゼルの話は、金融政策よりむしろ金融規制の話ですので、わが国の場合は金融庁が所管していますが、日本銀行もバーゼル委員会のメンバーですので、金融規制についての意見も申し上げるし、交渉もしてきました。また、BISの総裁会議が年に6回あり、中央銀行の総裁だけで、金融政策の波及効果や相互作用など様々なことを議論します。自国の金融政策を行っていくうえで非常に参考になると同時に、こちらからこういう趣旨でこういうことをやっていて、こういう効果を持っているとか、あるいは国際的な影響があり得るとか、そうしたこともかなり率直に議論できて、非常に有益であったと思います。

 

 

Q:金融政策決定会合の表決についてお伺いしたいのですが、意見聴取で2人の副総裁候補、雨宮さんと若田部さんの見解は、追加金融緩和の方向性の問題とか、副作用について、多少というかかなり食い違っていたように見受けられます。そのことを聞くと答えて頂けないので、あくまで一般論としてお伺いしますけれども、執行部、総裁、副総裁の表決行動というのは、なるべく一 致した方が良いと考えられるかどうかということです。10年ちょっと前、実際に総裁と副総裁の表決が違って、その際に福井元総裁が、これが違うというのはあまりいいことではないと、正確な言葉はともかくとして、そういう指摘があったものですから、今後そういうような事態が生じることは日銀のガバナンスとして、つまり日銀法にある副総裁は総裁を補佐するという意味において良くないと考えるのか、それともBOEのように、総裁の提案を否決するみたいな非常に言論の自由が確保されているのが良いのか、そこについて日銀のこれからのあり方に大きく関わってくるかと思いますので、お考えを伺いたいと思います。


A:これは、現在の日銀法自体にはっきり書いてありまして、金融政策等の決定について、政策委員会には9人のメンバーがおり、そのうち 3人は総裁と2人の副総裁、6人が審議委員なのですが、総裁、副総裁も含めて、独立というか個人として議論をして決定に臨むことになっています。9人のメンバーの間で意見が異なり、3人の間でも意見が異なって、議決の場合に違った投票をすることもあり得るということについては、むしろ法律がそれを保障しているわけです。他方で、ご指摘のように2人の副総裁は総裁を補佐することになっています。5,000人近くいる日銀職員の大多数は、発券、業務、決済その他の中央銀行としての業務を行っており、企画局、金融市場局、調査統計局といった金融政策に関連する部署の人よりもむしろ多いわけですが、金融政策の決定、執行、更にはそういった決定、執行を支える中央銀行としての機能を果たす全体として、副総裁は総裁を補佐するということになっています。ですから、総裁と副総裁とが同じ決定に参加する、同じ方向に向いているというのが望ましいとは思うのですけれども、法律は違った意見、違った決定に参加することを妨げないことになっています。

 

 

Q:2つお願いします。所信聴取の中で、総裁は失業率について2.4%に驚いたとおっしゃっていると思います。リフレ派の委員は別として、総裁は多分、完全雇用以下の水準との見方かと思いますが、もしかすると、驚いたというのは若干インフレリスクを感じているということなのか、解説をお願いします。
2点目は、予想物価上昇率についてですが2%には道半ばでも、1%にはアンカーされているようにも見受けられますが、少なくともゼロ以下になるリスクは相当低くなっているような気もしますが、その辺りについてどう評価されていますか。


A:2.4%は前月の失業率が2.7%でしたので、非常に大きな低下で驚いたということです。2.7%の時でも、ほぼ完全雇用状態にあったと思いますが、非常に大幅な低下だったので驚いたということです。もちろん好ましいことではありますが、今後の動向はよくみておきたいと思っています。
2点目については、米国も欧州もそうですし、私どももそうですが、2% の物価安定の目標を安定的に達成するためには1つの要素として、予想物価上昇率が2%程度にアンカーされていることが重要です。もちろん、ゼロやマイナスよりよいではないかと言われればそうですが、2%を達成するうえでは2%より下の1%にアンカーされているのはよいこととは言えないと思います。

 

 

Q:最近どこでとは言わないですが、金融政策の限界について議論がありまして、総裁は日頃から限界はないという派だったと思うのですが、国債も400兆円買っているが500兆円残っているといった発言が記憶に残っています。あらためて金融政策に限界はあるのでしょうか。


A:金融政策でも財政政策でも事前に特定の数字で色々と言うのはあまり生産的でないと思います。政策論では実現可能でないような政策と比較しても意味がないので、常にある政策を採る場合に代替的に可能な政策と比較して、どういう点にプラスがあり、どういう点にマイナスがあるかを議論します。その意味では、野放図に無制限にできるわけではないですが、例えば、国債の買入れ額についてここまでしか駄目とか、金利もここまでしか下げられないとか、あまり意味のない限界を事前に設定して議論するよりも、常に代替的に可能な政策との比較で、どういうプラスがあり、どういうマイナスがあるか、いわばコストパフォーマンスをよくみて議論していくことが重要です。経済的に意味のある限界であればいいのですが、これはできない、あれはできないといって政策を議論するのはあまり建設的でないと思います。

 

日銀総裁会見

 

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