2017年7月20日 日銀総裁会見 ノート

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行います。 買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち保有残高の増加額年間約80兆円をメドとしつつ金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関してはこれまでの買入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。本日は展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。

 

 

展望レポート


わが国の景気の現状については「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が業種の拡がりを伴いつつ改善する中で、緩やかな増加基調にあります。個人消費は雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅さを増しています。この間、公共投資は増加に転じつつあり住宅 投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。 また、金融環境は極めて緩和した状態にあります
このように、企業部門、家計部門の双方において、所得から支出への前向きな循環メカニズムが強まり、マクロ的な需給ギャップのプラス基調は定着してきています。こうした状況を踏まえ、今回景気の総括判断をこれまでの「緩やかな拡大に転じつつある」から、一歩前進させることとしました。
先行きについては、わが国経済は海外経済の成長率が緩やかに高まるもとで、極めて緩和的な金融環境と政府の大型経済対策の効果を背景に、景気の拡大が続き2018年度までの期間を中心に、潜在成長率を上回る成長を維持するとみられます。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引上げの影響もあって成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれます。実質GDP成長率に関する今回の見通しを従来の見通しと比べますと幾分上振れています。
次に、物価面では、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景にエネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きとなっています。これに伴って、中長期的な予想物価上昇率の高まりもやや後ずれしています。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇するとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
今回の物価見通しを従来の見通しと比べますと、見通し期間の前半を中心に下振れています。なお、2%程度に達する時期は2019年度頃になる可能性が高いと考えています。
リスクバランスについては、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいとみています。物価面ではマクロ的な需給ギャップが改善を続け、中長期的な予想物価上昇率も次第に上昇するとみられるもとで、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており引き続き注意深く点検していく必要があります。
なお、展望レポートについては佐藤委員、木内委員から消費者物価が見通し期間中には2%程度に達しないことを前提とする記述案が提出され否決されました。
日本銀行は2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも経済・物価・金融情勢を踏まえ物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため必要な政策の調整を行います。

 

 

Q&A

Q:今回の展望レポートでは景気判断を前に進めましたが、物価目標の達成時期については後ろにずらすという形になりました。景気が改善もしくは拡大している一方で、物価の上昇が鈍いことの背景について総裁のご所見を改めて伺わせて下さい。


先程申し上げましたように、わが国の景気が緩やかに拡大している一方で消費者物価は弱めの動きとなっています。この背景としては、携帯電話機や通信料の値下げといった一時的要因 もありますが、やはり賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っていることも影響していると考えています。企業においては、人手不足に見合った賃金上昇をパート等にとどめる一方で、省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しにより、賃金コストの上昇を吸収するなどの動きがみられます。
このように、労働需給の着実な引き締まりや高水準の企業収益に比べ、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重なものにとどまっています。実際の物価上昇率の影響を強く受ける形で、中長期的な予想物価上昇率の高まりも、先程申し上げたようにやや後ずれしています。もっとも、こうした状況がいつまでも続くことは想定していません。 先行き、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、賃金コスト吸収のための対応にも自ずと限界があると考えられますので、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化していくとみられます。また、中長期的な予想物価上昇率についても、実際に価格引上げの動きが拡がるにつれて着実に上昇すると考えられます。このように物価安定の目標に向けたモメンタムがしっかりと維持されているもとで消費者物価の前年比はプラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。

 

 

Q:このところの九州での豪雨被害の状況ですが、九州地方ひいては国内経済への影響を現状でどのようにご覧になっているかお聞かせ下さい。


まず、このたびの九州北部豪雨によって犠牲となられた方に心より哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げたいと思います。 日本銀行としても地元の金融機関等に対して、災害被害者の被災状況に応じて弾力的かつ迅速な対応に努めるよう要請しており、今後ともできる限りの貢献を行っていきたいと考えております。今回の豪雨の経済への影響については、地元支店からのこれまでの報告によりますと、企業の生産設備は大きな被害は免れたものの、農林業に被害が出ているほか、多数の施設が浸水被害を受けているようです。また、鉄道インフラの毀損もあって、夏休みシーズンに向けた観光への影響を懸念する声も少なくないとのことです。いずれにしましても被害の全容が完全に明らかになっておらず、現在は情報収集に努めているところですが、日本銀行としては、今回の豪雨が地元経済や日本経済全体に与える影響について、引き続き丁寧に調査してまいりたいと考えています。

 

 

Q:2%目標の達成時期の先送りは今回で6回目となります。総裁の任期切れを迎える2018年4月までの目標達成を断念することになりますが、その責任についてどうお考えでしょうか。前回先送りされた昨年11月の会見では、任期と物価の見通しは関係ないというご発言もありましたが、改めてお聞かせ下さい。2点目に、昨年9月の総括的な検証に伴う長短金利操作を柱とする新しい枠組みの中でも、今回の先送りは2回目となります。大量の国債保有といった大規模緩和リスクを抱えつつ、長期化への懸念が強まりつつある中で、金融政策の限界論も取りざたされている中で、現行政策について、今後の効果発現をどうみていらっしゃいますか。


ご案内のとおり、日本銀行は2013年4月に2%の物価安定の目標を2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現することを目指して量的・質的金融緩和を導入しました。その後、わが国の経済・物価は大きく好転しています。生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価の前年比は、量的・質的金融緩和導入前は-0.5%程度で推移していましたが、2013年秋にプラスに転じた後、3年半以上にわたってプラス基調で推移しています。 こうした状況は1990年代末以降初めてのことで、既にわが国は物価が持続的に下落するという状況ではなくなっていると思います。一方で、ご指摘のように2%の物価安定の目標は実現できていません。その背景としては、昨年9月に公表した総括的な検証でも示した通り、原油価格の下落を始めとする様々な逆風によって実際の物価上昇率が下落し、もともと過去の物価上昇率に引きずられやすい予想物価上昇率が横ばいから弱含みに転じたことが主な原因ではないかと思われます。
こうした中で、日本銀行としてはマイナス金利付き量的・質的金 融緩和、あるいは現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入するなど、その時々の経済・物価・金融情勢を踏まえて、政策面で必要な対応を実施してきました。今後とも2%の物価安定の目標を実現するため、強力な金融緩和を粘り強く推進していく所存です。
ご指摘のように、コミットメントの達成時期は先送りになり、展望レポートでも示している通り、消費者物価の前年比は見通し期間の前半を中心に下振れているわけですが、見通し期間の終盤にかけて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えています。展望レポートでも示している通り、まず第一にマクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化してくるとみられることに加えて、中長期的な予想物価上昇率も、下げ止まりから一部に上昇する指標もみられているもとで、先行きも、実際に価格引上げの動きが拡がるにつれて着実に上昇すると考えられます。従って、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されており、本日の金融政策決定会合では、現在の金融市場調節方針を維持することが適当と判断しました。この長短金利操作付き量的・質的金融緩和は、ある意味でフレキシブルに経済・物価・金融情勢に対応できる持続可能性が非常に高い金融緩和のフレームワークであり、実際に予想物価上昇率が上がっていくと、実質金利が更に下がっていきます。現在でもマイナスになっていますが更に実質金利が下がれば、金融緩和効果が拡大していきますので、モメンタムが維持されており、今後更に金融緩和の効果が強化されていくもとで、先程申し上げたような形で2%の物価安定の目標が達成されるという見通しになっています。

 

 

Q:2点お願いします。1点目は金融政策です。現在、想定よりも物価上昇が下振れしている中で、今回はそれとセットでより強力な金融緩和を進めていくという考え方もあったと思うのですが、それについてのご見解をお願いします。もう1点は、物価安定の目標の2%という数字です。近年、他の先進国でも物価上昇が鈍化しているという声が聞かれます。その中で2013年のアコードに書いてある2%という数字を現状維持するべきなのか、2%でなくてもいいのではないかという声もあるのですが、総裁のお考えを教えて下さい。


まず1点目については、マクロ的な需給ギャップが着実に改善していくもとで、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化していく、また、中長期的な予想物価上昇率も今後着実に上昇していくと考えられます。いずれも2%の物価安定の目標に向けたモメンタムがしっかり維持されているということで、今回の決定会合では、現在の金融市場調節方針を維持することが適 当だと判断しました。その上で実際に予想物価上昇率、あるいは足許の実際の物価上昇率が上昇するにつれて、実質金利が下がり、金融緩和の効果が更に強まっていくわけですので、現在の金融市場調節方針を維持することにより、しっかりとこうしたモメンタムを維持・強化していけると考えました。2%の物価安定の目標の必要性については、従来から申し上げているように、3つの理由があると思います。1番目は、ご承知のように消費者物価指数は、実態よりも高めに出てくるというクセがあります。これは5年毎のバスケットの見直しとか、新製品がその間にどんどん出てくるとか、あるいは新しいものについてむしろ価格が下がりがちなことが十分反映されないとか、その他色々な事情があり、物価指数がやや実態よりも高めに出てきてしまうということです。逆に言いますと、物価指数についてはある程度上昇していることが必要になります。2番目には、再びデフレに陥らないためにも、ある程度のプラスの物価上昇率を確保していくことが望ましいということです。中央銀行は、普通の場合は政策金利の操作によって対応できますが、デフレになると政策金利を大きくマイナスにすることは難しいことなどから、金融政策の対応余地が限られてしまいます。やはり再びデフレに陥らないためにも、ある程度のプラスの物価上昇率を確保する必要があります。3番目は、いわゆるグローバルスタンダードです。今申し上げたような2つの理由から、 各国とも実際のところ共通して2%の物価安定目標を採用しています。こうした中で、関係国が同じ物価上昇率を目指すことは、長い目でみた為替レートの安定にも資するのではないかと思っています。従いまして、2%の物価安定の目標は当然堅持していくわけですし、各国の中央銀行の中でも物価安定目標を下げようというところはありません。学者の方の議論では、むしろ2%よりもっと上げろという議論があるくらいです。

 

 

Q:2点あります。1点目は、物価上昇率見通しを下方修正したわけですが、今回6回目ということで繰り返し下方修正すること自体が日銀が戦っているはずのデフレマインドを更に強める結果にはならないでしょうか。もしくは日銀がやれることは今回政策が維持されたことで、手だても少ないという受け止めが世の中に広がるといったことについて総裁はどう思われるでしょうか。もう1点は、そうしたことも含めて昨年7月に総括的な検証をするとおっしゃったと思いますが、総裁の任期満了前に再び検証をなさるおつもりはないでしょうか。


物価安定の目標が達成される時期については、展望レポートでの見通し等に示してある通りですが、ご案内の通り、欧米各国の中央銀行の物価目標の達成見通しも何回も先送りになっています。これは色々な事情があると思います。原油価格の大幅な下落など、それぞれの中央銀行がコントロールできる範囲の外の予想が難しいことが大きく変わったこともあったと思い ます。もちろん見通しが何回も先送りになること自体は残念なことですが、見通しはあくまでも足許それから今後の経済動向を踏まえて適切に作っていくことが一番大事だと思っています。なお、今回、物価の見通しを特に2017年度、2018年度を中心に下振れさせました。これは足許の状況を踏まえてそうしたわけですが、そうしたもとで金融市場調節方針を維持したことについては先程申し上げた通り、モメンタムは維持されていること、更に付け加えて言えば、現在の長短金利操 作付き量的・質的金融緩和の中には、実際に予想物価上昇率が上昇していくにつれて実質金利が更に下がっていく形で、金融緩和が強化されていく仕組みが内在されていることが背景にあります。従いまして、手だてが少ないとかそういうことではなく、現在の仕組みを維持していくことによって、モメンタムを維持し、更に強化していけるということだと思います。
また、昨年秋の総括的な検証では、2013年4月に量的・質的金 融緩和を導入し、その後拡大し、昨年の1月にはマイナス金利を導入したことを踏まえて、量的・質的金融緩和やマイナス金利導入の効果など、全体を総括検証しました。それを踏まえて現在の長短金利操作付き量的・質的 金融緩和を実行しています。この枠組みのもとで、適切なイールドカーブが形成され、2%の実現に向けたモメンタムが維持されていますので、現時点で更なる総括的な検証を行う必要があるとは思っていません。いずれにせよ、随時様々な分析を行ってそれを公表するとともに、新しい状況が起これば、当然そうした状況について、また更に検証していくことになると思いますが、現時点で総括的な検証をもう1回行う必要があるとは思っていません。

 

 

Q:今回、物価2%達成の時期を先送りされましたが、日銀に追加緩和を求める声というのがそもそもない状況かと思います。理由は金融政策でこれ以上できることが限られている、あるいは副作用が心配といったことに加えて、足許の0%台のインフレについて、家計も企業もあまり不都合を感じていない状況が実際に長い景気回復の中で生じているのだと思います。つまり、 日銀に対してこれ以上あまり何もしてほしくないという声も結構多いだろうと思いますが、このことが今後物価上昇のモメンタムが崩れたときに、政策を縛るリスクについてどうお考えでしょうか。もう1点は、審議委員の佐藤さん、木内さんが今月で退任されますので、お二人のご功績についてコメントを頂ければと思います。特に今回の会合でも長短金利操作、ETFの買入れの規模に対して反対されたのはこのお二人だけでしたので、いずれの政策も未踏の領域でまだ世の中の評価も分かれている状況だと思いますが、そこで反対派の委員が抜けることで政策委員会での議論が活発でなくなってしまうのではないかという懸念もあると思います。この指摘についての反論もあわせてお願いします。


まず1点目につきましては、先程来申し上げている通り、経済については幾分上振れていますし、他方で物価については足許を中心に下振れているという状況を踏まえつつ、現在の成長見通しを踏まえますと、更に需給ギャップのプラスが拡大していき、そうしたもとで企業の賃金・価格設定行動も次第に積極化していく、そして、実際に物価が上昇していく中で、予想物価上昇率も上昇していくということです。追加緩和を求める声のあるなしとは別に、そもそも今の状況のもとでモメンタムが維持されており、更に付け加えればこの枠組みでは予想物価上昇率が上昇していく中で緩和の効果が更に強まっていきますので、今の時点で追加緩和が必要だとは考えていません。現在のものでよいということだと思います。なお、現在確かに経済が拡大しています。更に言いますと、企業収益が史上最高水準にあり、失業率も非常に低下し、有効求人倍率もバブル期を超えて1970年代以来の高さになっています。景気は非常にしっかりして拡大していることは事実ですが、やはり2%の物価安定の目標を安定的に持続するということは、経済の持続的な成長など色々な意味で必要であり、望ましいことであると思っています。私どもとしては引き続き2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するよう、金融政策を運営していきたいと 思っています。
佐藤委員、木内委員が退任されるわけですが、お二人は経済の実態や金融市場の動向について、大変な識見を持っておられて色々な意見を出して頂き、政策委員会でも活発な議論が行われました。これに対しては、大変評価をしているところです。今後新しい委員を2人お迎えするわけですが、そのもとでも引き続き活発な議論が行われて合議体という形で適切に金融政策が決定・運営されていくことを期待しています。

 

 

Q:景気が堅調でもなかなか物価が上がらない状況の大きな要因は企業の慎重姿勢にあるとみていらっしゃるということでしょうか。そうであれば賃金や価格の設定について企業に求めることは何でしょうか。また物価目標2%の達成時期、今回で先送りは6回目ということになりますが、総裁ご自身のお気持ちとしてこれをどのように受け止めていらっしゃるかお願いします。


1点目につきましては、色々な状況のもとで一時的な要因があることは事実ですが、やはり欧米と比べますと賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行、これが企業や家計に根強く残っている、俗にデフレマインドと言われるものかもしれませんが、そういうことが影響していると思われます。特に非製造業、サービス業において賃金が上がっても価格に転嫁せず、サービスの中身を見直すビジネス・プロセスを変えていくことによって対応するという動きがあります。また、非製造業でも製造業でも、省力化投資をすることによって、賃金コストの上昇を吸収しようという動きもあります。これらはある意味で省力化投資やビジネス・プロセスの改善で労働生産性が上がっていくということですので、長い目で見れば実質成長率を上げていく話になり、好ましいことです。ただ、当面そうした形で賃金上昇を価格に転嫁しない、あるいは賃金上昇を価格に転嫁するということを広く認めていくことをしないという慎重な姿勢が企業を中心にまだ残っていることが、賃金・物価の上昇を抑えている1つの要因であるということは間違いないと思います。
ただ、何度も申し上げていますように、こうした状況がずっと続くということはあり得ません。やはり、これだけ需給ギャップがプラスになり、有効求人倍率が上がり、失業率が下がってくるという中では、今申し上げた形で賃金コストの上昇を吸収する余地も徐々に減っていきますので、そうしますとやはり価格に転嫁していくということが起こってくると思います。そうしたことが起こってくるようになれば、より賃金上昇も認めやすくなります。そうした状況にならないということではなく、そうした状況が来るまで少し時間がかかっている、それはデフレが15年続いて慎重な姿勢が企業にまだ残っている、 あるいは家計にもそういう気持ちがあるからだと思いますが、これがいつまでも続くということではないと思っています。そうした意味では、先程申し上げたような形で物価上昇率が2%に向けて次第に上昇していく、そういうモメン タムはしっかりと維持されていると考えています。
2番目の点につきましては、先程来申し上げているように、残念なことではあるのですが、見通しはやはり足許、それから今後の動向を踏まえて、適切に作っていくことが大事であり、特に悲観的な見通しを作ったり、楽観的な見通しを作るということはおかしいと思います。適切な見通しというものを目指すということは当然だと思います。ただ、その中でも各国の中央銀行も2%に達する時期をずっと先送りしてきています。欧米でも労働市場が引き締まっている割には、賃金がかつてほど上がらないという状況が起こっていますので、ある程度共通の要素があるのかもしれませんが、日本の場合はそれが非常に強い、大きいということは事実だと思います。

 

 

Q:企業に求めることとしてはデフレマインドというものをなるべく早く変えてほしいということですか。


そこは物価だけ上がってしまえばよいということではなく、やはり賃金と物価が上がっていく、そして賃金の上昇率と物価の上昇率の間には労働生産性の上昇率も入ってきますので、賃金の上昇率が物価の上昇率に労働生産性の上昇率を加えたものになっていくことが、ある意味で言うと持続可能な中期的な均衡値です。そうした意味では物価だけ上がればよいということではなくて、賃金と物価が同時に上がっていくためには、私どもとしては緩和的な金融環境を粘り強く続けていくことによって需給ギャップがプラスになって更に拡大し、予想物価上昇率が上がっていくというモメンタムを維持・強化していきたい。そうすることによって2%の物価安定の目標が均衡の取れた形で達成されると思っています。

 

 

Q:長期金利についてお伺いします。先程、総裁からは今のイールド カーブ・コントロールは、景気が上向き、物価が上向く過程で緩和の効果を強めていくというお話を頂きました。先般発表された政府の「中長期の経済 財政に関する試算」を見ますと、大体2019年度から2020年度で2%の物価目標を達成する見通しになっていると思います。一方で、成長シナリオによりますと、その時点での名目成長率は大体4%くらいということですから、そのようにかなり景気が良い局面で、金融緩和の累積効果が高まるということは、実体経済をオーバーヒートさせる可能性をはらんでいるのかどうかという点をお伺いしたいと思います。
2点目の質問は、ポリティカル・インコレクトな質問をさせて頂きますが、政府の「中長期財政見通し」の中で、政府債務残高のGDP比が掲げられています。成長シナリオによりますと、足許で政府債務残高のGDP比は190%くらいですが、2025年になりますと、大体160%くらいに下がるという見通しになっていると思います。ここでは名目成長率が長期金利を上回るというプロセスが大体2022年度から2023年度まで続く見通しが前提になっていると思います。そうしますと、そういう前提で財政の運営がなされている時に、長短金利操作の長期金利は、どのような位置付けで考えればよいのかお伺いします。


1点目も2点目もご質問が関係していると思います。長短金利操作付き量的・質的金融緩和のもとで、今の金融市場調節方針では短期の政策金利を-0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とすることにより、 適切なイールドカーブが形成されているとみています。もとより、仮に経済がオーバーヒートするような状況になれば、長期金利も上がるし、上がることを容認することになると思いますが、経済は上振れていますが物価は足許を中心に下振れているという状況で、2%の物価安定の目標の達成時期も、2019年度頃に先送りになっていますので、今の時点で何か具体的にオーバーヒートのリスクが大きいとか、懸念しなければならないということはないと思います。 現在の非常に持続性の高いフレキシブルなフレームワークのもとで、予想物価上昇率が次第に上がっていく中で、金融緩和効果が更に強化されていき、2%の物価安定の目標に向けて近づいていけると思っています。なお、政府の「中長期の経済財政に関する試算」は、発表されている注釈にもありますように、特定の前提のもとであのようになっていくということです。ベースラインケースと経済再生ケースでだいぶ違っていますので、政府としては勿論、経済再生シナリオを目指してやっていくということです。そうした中で、長期金利がどのようになっていくかは、成長率や物価も関係しますし、それ以外に当然のことながら日本銀行の金融政策も関係してきます。あのような試算自体は非常に有益なものだと思いますが、ご承知の通り長期金利の長期見通しは大変難しいことです。2つのシナリオとも十分リーズナブルなものだと思いますが、その中で金利がどのようになり、政府債務のGDP比がどのような影響を受けるかというのは、色々なファクターが絡んでくると思います。IMFにしてもOECDにしても、財政収支の見通しにおいて財政収支の改善のために、まずはプライマリーバランスを改善していかないと債務のGDP比が発散してしまうおそれがあるとしています。ですから、まずはプライマリーバランスを改善し、そのうえで債務のGDP比を着実に減らしていくということになるわけですが、まさに政府の今の中長期の経済財政に関する考え方も、2020年までにプライマリーバランスを黒字化する、そして政府債務のGDP比を次第に下げていくということになっていますので、そういう意味ではリーズナブルなものではないかと思っています。

 

 

Q:先程来、物価の目標達成時期を先送りする一方で、金融政策を現状維持とした理由について、2%に向けたモメンタムが維持されているからという説明をされています。これはつまるところ、需給ギャップやインフレ期待が改善を続けている限り、物価が方向として2%に向かっているのであれば、今後も更に物価目標が先送りされるような状況になったとしても、追加緩和は必要ない、あまり達成時期にはこだわらないと理解してよろしいかどうか教えて下さい。


そういうことではありません。今回の公表文でも金融政策の先行きについては3つのことを言っています。1番目は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続すること、2番目に、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続すること、3番目に、今後とも経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行うということです。更なる緩和もあり得ますし、様々な調整は十分考えられると思いますが、今の時点では2%の物価安定の目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されていますので、足許の金融市場調節方針につ いては現状維持としました。また、現状維持の中でも予想物価上昇率が上昇していくにつれ、実質金利が下がっていき、更に金融緩和効果が強化されていくことがビルトインされていますので、その意味では十分物価安定の目標の早期達成のための政策として適切であると思います。ただ、だからと言って何があっても今後更なる緩和は考えないということではないということです。

 

 

Q:先程からなかなか物価の上昇が鈍いというお話をされていますが、最近ではやはり消費者への距離という意味で「川下デフレ」のような言葉も出てきています。デフレマインドが先程から話題になっていますが、このワードが出てきていることについて総裁のご所見をお伺いしたいと思います。


賃金にしても、物価にしても、企業が一方的に決めているように思われるかもしれませんが、常に家計や消費者側の動きと対応して賃金や物価の設定がなされています。もちろん、具体的に価格を設定するのは企業ですし、具体的に賃金を決めるのは企業ですが、常に家計、消費者側の価格に対する反応、あるいは賃金に対する要求というものがあり、それを踏まえて企業としては価格設定行動をし、賃金の設定行動をしているという意味では、消費者の意向、家計の動向を無視して企業が賃金や価格を決めているわけではないと思います。他方で、確かに企業は史上空前とも言えるような収益をあげていますし、金融資産もまた史上空前の規模で蓄積しています。そうしたもとで企業が賃金や価格の設定についてかなり慎重であることは、企業側のデフレマインドというか、慎重姿勢もあると思いますし、やはりカウンターパートである家計、消費者側の慎重な姿勢もあって、両者が相俟ってこうなっているのだと思いま す。そうした意味で物価が上昇していくためには、やはり賃金も上がっていく必要があります。物価だけ上がって賃金が上がらないのは、家計、消費者側として受け入れ難いと思いますので、そのようにはなりません。これは別に最近そうなっているというわけではなく、常にそういうものだと思っています。

 

 

Q:物価の見通しを下方修正したり、今回は先送りもしたわけですが、こうしたことによって日銀の言うことが信用されなくなる、あるいは信用されなくなっているという認識はお持ちでないでしょうか。もう1点、足許で企業や家計に物価が上がりにくいという考えや慣行があるということですが、それは金融緩和によって期待を高める効果が働いていない、あるいはなかなか効いていないということにはならないでしょうか。


1点目については、先程来申し上げている通り、成長率あるいは物価の見通しについては、意図的に悲観的あるいは楽観的に作るということはあり得ません。あくまでも足許と先行きの経済動向を踏まえて見通しを作っています。その上で、そうした努力にもかかわらず、物価の見通しが外れ、2%に達する時期が先送りされていること自体は見通しの誤りであることは事実ですが、欧米の中央銀行も含めて、あるいはIMFやOECDも含めて、このところずっとそういう状況になっており、ある意味で共通のファクターもあったのかと思います。ただ、日本の場合は特に予想物価上昇率が足許の物価上昇率に適合的な形で引きずられる傾向が非常に強いことが総括的な検証の中で明らかになりました。そこは私どもとしても十分勘案していなかったと言わざるを得ないと思います。ただ、見通しが外れたから信用がなくなるということではないと思います。
2点目ですが、おっしゃりたいことは中央銀行の政策のコミットメントやフォワードガイダンスが強く信認されているのであれば、そういうことを言うことだけで企業や家計の賃金や価格の設定行動が変わってくるのではないかということだと思いますが、米国のように予想物価上昇率が2%の物価安定目標にアンカーされている、それは長い歴史の中でそうなっている国と、わが国のようにアンカーされていない国とでは、ある程度違いが出てきます。その意味では、実際に物価が上昇し、それを踏まえた予想物価上昇率の上昇が起こってくることが、より金融政策の効果を高める、より信認を高めることになるのではないかと思います。予想物価上昇率が十分アンカーされていないことは事実であり、そこがまさに総括的な検証の中で明らかになった点だと思いますので、今後ともしっかり努力していくことによって、予想物価上昇率をできるだけ2%の周辺にアンカーしていくことが必要であると思います。

 

 

Q:ETF購入政策の政策効果と弊害について2点お伺いします。午前中の株式相場で一定の下落幅がみられたときに買いに入るという経験則をある意味、市場関係者は皆共有していますが、そうしたことによって、いわゆる押目買い、下がったときに株を買う機会を失わせているのではないかという批判があります。下がないから買えないという話ですが、こういった批判 にはどうお答えになりますか。もう1点、ETFの関係で、日銀の購入額が増えてくることで、実質的に大企業の大株主になるケースが増えているという試算があります。ガバナンスの重要性が問われている中で、ガバナンス上の空白を生んではいないかという意見にはどうお答えになりますか。公的年金のように、資産のオーナーとして積極的に働きかけるという考えはないでしょうか。


前段のお話は債券でも株でも、値が大きく動かないとそこで売ったり買ったりしている人に利益が出ないということですが、逆にいうと利益が出るということは裏で損が出ている人もいることになります。株式市場は、そのような形で押目買いがよりできるようになればよいというものでもありません。実際にETFの買入れがそうした副作用を生んでいるとも思いませんがあまり意義のある話ではないと思っています。いずれにしても、ETFの買入れは、あくまでも長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みの中で、1つの要素として株式市場のリスクプレミアムに働きかけるために行っていま す。株価の水準や変動にコミットしているのではないことはご理解頂きたいと思います。
なお、ETFを買っていますが、ご承知のように東証の時価総額などと比べますと非常に小さなものですし、いずれにしてもETFについては信託銀行等を通じて買っており、信託銀行等が適切なコーポレートガバナンスの行動をしています。日本銀行が直接に当該企業の株主総会で発言したり、何か特定の働きをすることはありませんが、いずれにしても企業のコーポレート ガバナンスを阻害するようなことは全く考えていませんし、そうなってもいないと考えています。

 

 

日銀総裁会見


 

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