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2017年12月21日 日銀総裁会見 ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。
わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善する中で、増加基調を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加しています。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています、以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%台後半となっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

Q&A

Q:先日の短観等でも示されたように、このところ人手不足がより一段と 深刻になっているように思います。人手不足は、良い面、悪い面、両面あるか と思いますが、日本経済に与える影響について総裁のお考えをお聞かせ下さい。


ご指摘の通り、先日の日本銀行の短観でも示されたように、わが国では、景気の拡大とともに労働需給が一段と引き締まっているということは事実です。こうした中で、人手不足の深刻化が、労働集約的な業種を中心に、事業展開の制約となり得るとの声があることは承知しています。もっとも、多くの企業では、人手不足に対応して、女性や高齢者など多様な労働力の活用や勤務形態の見直しのほか、省力化投資などの様々な工夫を積極的に行っています。このため、経済全体としてみれば、人手不足が景気拡大の制約になるとは考えていません。もとより、やや長い目でみますと、生産年齢人口の急速な減少が続く中、より高い成長を持続的に実現していくためには、やはり生産性の向上に向 けた企業の継続的な取組みが不可欠であると考えています。最近の人手不足はこうした取組みを一段と後押しすることにもなると思われます。この点に関しては、政府も労働生産性の向上を企図した「働き方改革」などの様々な構造改革に取り組んでおられます。こうしたもとで、企業の前向きな努力が、日本 経済全体の供給力強化につながっていくことを期待しています。

Q:本日の決定会合は今年最後の金融政策決定会合です。金融政策という面では今年は現状維持が続いたかと思いますが、この1 年を振り返りますと、どういう年だったとお考えでしょうか。それと来年の日本経済および世界経済どのような年になると現時点でお考えをお持ちでしょうか。


2017年全体を振り返ると、海外経済については世界全体の貿易量がはっきりと増加して、グローバルに製造業の景況感も改善するなど、地域間のバランスの取れた成長がみられたと思います。こうした海外経済の成長にも後押しされて、この1年、わが国の経済は着実に改善したと思います。景気拡大の裾野も特定の業種や地域に限られず、幅広い経済主体に拡がっていると思います。先行きについては、海外経済は緩やかな成長を続けるとみています。  先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及あるいはそれぞれの国の政策効果によって、新興国経済の回復もしっかりとしたものになっていくと考えられます。わが国の経済もこうした海外経済の成長や極めて緩和的な金融環境などを背景にして、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続することから、緩やかな拡大を続けるとみています。

一方、物価面については、この1年、消費者物価の前年比は少しずつ上昇してきましたが、景気拡大や労働需給の引締まりに比べると弱めの動きが続いていることは確かです。もっとも、最近では、マクロ的な需給ギャップが着実に改善する中で、パート時給ははっきりとした上昇基調を続けていますし、既往の為替円安による仕入価格の上昇などもあり、企業のコスト面からみ た価格上昇圧力は着実に高まっているとみられます。また雇用・所得環境の改善が続く中で、消費者の値上げに対する許容度も、少しずつ増してきているように窺われます。

こうした状況のもとで、先行き、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化していくとみられます。また、実際に価格引上げの動きが拡がるにつれて、中長期的な予想物価上昇率も着実に上昇すると思われますので、消費者物価の前年比は、来年以降もプラス幅の拡大基調を続けていくと考えていま  す。今申し上げたものがメインシナリオだと思います。公表文にも示しているように、海外経済を中心としたいくつかのリスク要因もありますので、そうしたことはよく注視していく必要があると思いますが、基本的には2017年の着実な経済の回復が、2018年にも続いていくとみています。

Q:2点お願いします。1点は先日スイスのチューリッヒで「リバーサル・レート」という言葉を使われて、最近になって総裁、副総裁ともに地域金融機関等の金融仲介機能についての言及が増えていると思います。そこで、今になってそういう新しい言葉を使って言及をされた意図・背景を教えて頂きたいと思います。以前、「金融機関のために金融政策をしているわけではない」という趣旨の発言もあったかと思いますけれども、何がどう変わって今どういう環境だからこういうお言葉を出されたのか、この辺りの背景をもう一度説明して頂ければと思います。もう1点、それに付随して地域金融機関の収益はかなり悪くなっていますが、その点についてのコメントも頂ければと思います。


ご指摘の「リバーサル・レート」という考え方は金利が下がり過ぎると金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転してしまう可能性があるという学術的な分析の1つです。これ自体は興味深い分析ではありますが、現在、わが国の場合は、金融機関が充実した資本基盤を備えていますし、信用コストも大幅に低下している状況にあり、金融仲介機能に現段階で何か問題が生じていることはないと思います。短観など各種の調査をみても、低金利環境が続く中で、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であり、貸出残高も順調に増加しています。もともと、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでのイー  ルドカーブの形成に関する考え方は、昨年9月の「総括的な検証」で既に明確に示しています。貸出・社債金利への波及、あるいは経済への影響、金融機能への影響など、経済・物価・金融情勢を踏まえて、総合的に適切なイールドカー  ブの形状を判断していくことになっています。こうした考え方は、昨年9月の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入時から全く変わっていません。特に「リバーサル・レート」という学術的な分析を採り上げたからといっ  て、昨年9月以来の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」について見直しが必要だとか、変更が必要だということは全く意味していません。チューリッヒ大学で講演したこともあり、「総括的な検証」を踏まえて行った「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という金融政策の新しいフレームワークについて、外国の人に分かりやすく説明をするうえで、「リバーサル・レート」だけでなく色々な学者の方の理論を引用しながらご説明したのであり、何か変化があったわけではありません。

2番目の地域金融機関の問題については、先般日本銀行が公表した金融システムレポートでも詳しく示している通りです。地域金融機関では収益力について、最近の低金利環境もあると思いますが、それよりも実はかなり長い期間にわたって構造的に地域の人口や企業数が減少している中で、従業員数や店舗数に過剰感が生じている可能性があります。そうした中で、貸出取引に付随するいわゆる非金利サービスの提供が限定的であるため、どうしても貸出取引の差別化の度合いが低く、金利面での競争が激化しやすいといういわば日本の構造的な変化を反映した面があります。これに対応して、どのように  地域金融機関が引き続き適切な金融仲介機能を果たしていけばよいかについては、金融システムレポートの中でも触れている通り、やはりそれぞれの金融機関がその地域で持っている強みを更に活かして、金融サービスについて差別化を進めていくことが必要だと思います。他方で、効率性を様々な形で引き上げていくことも重要だと思います。いずれにしても、日本銀行としても引き続き、考査・モニタリングなどを通じて、金融機関の収益力強化や業務改革などの取組みを促し、サポートしていきたいと考えています。

Q:バーゼルⅢについてお伺いします。ソブリンの評価の問題も含めて銀行のリスク資産評価では、日本の主張がより認められる形で決着したかと思いますが、それについての評価を伺いたいことと、今回、総裁のご尽力があったかと思いますが、あのような国際交渉の場で日銀総裁の役割、あるいは求められる資質について、これは次期総裁の資質にもつながると思いますが、お考えをお聞かせ下さい。


バーゼルⅢの最終化は、非常に好ましいことと思っています。リーマンショックの後、非常に長い時間をかけて様々な金融規制が決定され、導入されてきましたが、最後に残った1つの部分について最終的な合意ができたことにより、国際金融規制の見直し作業は完了しました。すなわち、今後新たにどのような規制が行われるかについての不透明性がなくなったため、今回の合意は大変歓迎すべきものと思っています。今後は一定の移行期間がありますが、この合意をしっかり実施していくことが重要ですし、国際的にはそれを踏まえて実際に予期されたような適切な効果が上がっているかをチェックしていくフェーズに移っていくと思います。ソブリンについても、一定の議論がなされましたが、ソブリンに関する規制の見直しをすべきという国際的なコンセンサスは全くなく、検討作業を完了し、現在のソブリンの取扱いを変更しないという結論になりました。これは、わが国の考え方にも則したものです。いずれにしても、このような形で金融規制に関する不透明感が払拭されたことは大変好ましいことだと思っています。また、最終化されたバーゼルⅢのもとで、日本の金融機関は十分対応していけると思いますので、その意味でも好ましい結果だったと思います。後段のご質問については、日本銀行総裁の資質は私から何か申し上げるのも僭越ですし、ご承知のように日本銀行総裁は、国会の同意を得て内閣 が任命することになっていますので、私から何か言うのは適切ではないと思います。以前何度か申し上げましたが、それ以上に何か申し上げることは特にありません。

Q:先程の「リバーサル・レート」の質問のお答えの中で、現在は金融仲介機能に問題は生じていないというご発言がありましたが、金融緩和の長期化によって、今後懸念はないのかという点と、これに関連して一部では口座維持手数料に関する国民的な議論があってもいいのではないかという意見もありますが、この点に関してご見解を伺わせて下さい。2点目は、来週26日で安倍政権発足5年となりますが、改めてこの5年を振り返って頂くとともに、来年の安倍政権に期待することをお聞かせ下さい。


前段の点については、現時点で金融仲介機能に問題が生じているとは全く考えていないということです。金融機関が充実した資本基盤を備えていますし、信用コストも低下していますので、近い将来に何か問題が生じるとは考えていません。ただ、もちろん金融システムや金融仲介機能については、常に十分に注視しモニターしていく必要があると思います。それは金融システムレポートで半年毎に詳しく分析し、お示ししている通りです。

2番目のご質問については、中央銀行総裁が政権の評価をするというのは、あまり適当ではありませんので特に申し上げません。私どもの金融政策に引き付けて申し上げれば2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以降、必要に応じて調整はしてきたわけですが、一貫した金融緩和政策は一定の効果を上げ、功を奏して現在の経済状況になっているということはいえるのではないかと思います。金融政策だけでそのような成果が上がっているというつもりはありませんが、金融政策のプラスの効果もあったのではないかと思っています。特に、雇用が大幅に改善し、企業収益も史上最高の水準にあり、経済もこのところ7四半期連続でプラス成長となり、潜在成長率をかなり上回る成長が続いていて、そうした中で企業と家計の双方で、所得から支出への好循環が続いているということは好ましい状況であると思っています。デフレの状況ではなくなったとは思っていますが、2%の「物価安定の目標」との関係では、まだかなり距離がありますので、引き続き粘り強く金融緩和政策を続けていくということだと思います。

Q:ETFの関係で2点お願いします。今の株価水準を金融活動指標にあてますと7~9月の段階で既に過熱という警報が出そうなレベルにあると思うのですが、この株価水準をどうみていらして、ヒートマップがもし過熱の点灯をした場合は、今後、ETFの政策変更とかに対する影響みたいなものがあるのかどうかがまず1点です。もう1つは、今の状況になってもETFを買い続けていること自体、ある種、2%を目指すためバブルを許容するといいますか、市場の過熱を許容するようなところがあるのではないかという指摘があるのですが、この辺りを総裁としてどのように受け止めているかをお伺いします。


ETFの買入れは、ご案内の通り、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という金融緩和の枠組みの1つの要素であり、株式市場のいわゆるリスクプレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていく観点から実施しています。リスクプレミアムへの働きかけは、これまでのところ大きな役割を果たしてきていると思います。ETFの買入れは、特定の株価水準あるいは株価の引上げを狙った政策ではなく、今申し上げたように、「量的・質的金融緩和」全体の中の1つの要素として、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために実施していますので、当然、  経済・物価・金融情勢をみながら、政策について議論していくことになると思います。なお、ヒートマップは十数個の指標で、それぞれのトレンドからどのくらい乖離しているかで示しています。それが赤になったら直ちに過熱状況にあるとか、そのように決めつけることはできないと思いますが、各種の指標の動きもみながら、実体経済がどのように動いているかをみていくことになると思います。いずれにしても、現時点で金融的な行き過ぎが起こっているとか、バブルになっているという状況ではないと思っています。

Q:総裁が先程もおっしゃったように、日銀は経済・物価・金融情勢をみて最適なイールドカーブを形成していくということですが、景気回復がこのまま続いていく場合、今のイールドカーブを維持しているだけで実質金利は下がり、緩和の度合いは強まるということになっていくと思います。その場合、もちろんマネタリーベースについては2%を安定的に超えるまで拡大させていくということですが、長期金利目標については緩和度合いの調整のために引き上げるという選択肢もあるのでしょうか。それとも、景気がよくても物価までの距離がまだある場合、2%の「物価安定の目標」の達成が確信できない場合は、強力な緩和を続けていく必要があるというお考えなのでしょうか。その点についてお願いします。


基本的には、まさに2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成することが、日本銀行の金融政策の最大の目標であり、そのために「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を行っています。従って、金利についても景気がよいからそろそろ金利を上げるかとか、そうした考えはなく2%の「物価安定の目標」を達成することとの関連でみていくということになります。もちろん、従来から申し上げているように、モメンタムが維持されている限りは現状を維持するわけですが、モメンタムが維持されないおそれがある場合には更なる緩和を考えますし、他方で2%がもう達成される、あるいはそうした状況になっている時に、全く「イールドカーブ・コントロール」を変えないとい うことはないと思いますが、あくまでも2%の「物価安定の目標」が達成されるかどうかということとの関連でみていきます。景気がよいからそろそろとか、  そういうことではなくて、やはり粘り強く金融緩和を続けていき2%の「物価安定の目標」を安定的に持続できる状況を実現するということが必要だと考えています。

Q:今の質問の関連でお伺いします。日銀では「イールドカーブ・コントロール」政策の運営にあたって、均衡イールドカーブを計測して緩和度合いを評価していると思います。昨年9月の導入以降、経済・物価情勢は改善基調にありますが、均衡イールドカーブについては、総裁は上昇していると考えているのか、その場合はどの程度上昇しているとみているのか、この点についてお伺いします。もう1点ですが、適切なイールドカーブを形成するにあたっては、経済・物価・金融情勢の3つの基準で判断するということですが、金融情勢に変化が生じた場合に、経済・物価に対する見方に変化がなくても金融仲介機能に  配慮して金利を引き上げることはあり得るのか、物価と金融情勢との関係について教えて下さい。


まず第1点ですが、「イールドカーブ・コントロール」は、おそらく世界の中央銀行の政策としても初めて行われています。これはそれまでの「量的・質的金融緩和」の経験、そしてマイナス金利の導入を通じて、中央銀行がイールドカーブ全体に影響を与えられることがかなりはっきりしてきたことを踏まえて、それではどういったイールドカーブが経済に対して最も有効かという点を、「総括的な検証」の中で色々議論しました。そうした中で、「総括的な検証」を行った当時は、イールドカーブがかなりフラット化していました。  超長期の金利が相当低下しており、それは必ずしも経済に対して大きなプラスをもたらすものではなく、むしろ年金や生保の運用に対する影響、それ自体というよりも、それが消費者のマインドに影響するおそれがあることも指摘されました。他方で、経済の拡大、設備投資、住宅投資等に大きな影響を与えるのは、むしろ短中期、それから10年以下の長期の金利であることも分かりました。これらを踏まえて、今の「イールドカーブ・コントロール」を導入しました。もっとイールドカーブを下げたらどうか、あるいはもっと上げたらどうか、という議論は、理論的にはあるとしても、私どものこの1年3か月の経験からいって、今のイールドカーブは最も適切な効果を発揮していると思っています。

3つの基準につきましては、今申し上げたように、経済・物価・金融情勢を踏まえて適切なイールドカーブを形成するということですので、当然、それら3つの考慮から、適正なイールドカーブが現状と違うとなれば、そうしたイールドカーブが形成されるように「イールドカーブ・コントロール」を変えていくことになると思いますが、現時点では、今のイールドカーブを変える必要があるとは思っていません。3つの基準といいましても、それぞれに意味があると同時に、相互に関連している面もありますので、3つの要素を総合的に勘案して決めていくと思います。1年3か月の経験の中で、「イールドカーブ・コントロール」が十分機能することはよく分かってきましたが、どの辺りのイールドカーブが最適かはいわば実際の経験の中でよりはっきりしてくると思います。これまでの1年3か月は、まさに適切なイールドカーブとなっており、その意味で、経済・物価・金融情勢にポジティブな影響を与えてきたと思っています。

Q:金融政策から離れてビットコインについてお伺いします。先月から価格が急上昇していまして、足許でも乱高下しています。かつてこの会見の場で総裁も大いに関心があるとはおっしゃっていたのですが、現在の状況というのがバブルかどうかも含めてどうみていらっしゃるのか教えて下さい。また、今後市場規模が拡大してきた場合に、日銀の役割に対しても影響を与えることがあるのかどうか、お願いします。


ビットコインにつきましては、今ご指摘のように、価格が非常に大きく変動し最近は非常に上昇しているということは事実なのですが、やはりこれが支払手段、決済手段として通貨と同じように機能しているかというと、そういうものではないと思います。今のビットコインというのは、要するに投資ないし投機の対象として取引が行われており、日本銀行が行っている金融政策、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を通じて適切なイールドカーブを実現し、それによって経済に好影響をもたらしていく政策に対して、今の段階で障害になっているとか、問題が生じているということはないと思います。今は支払・決済手段でもなく、単なる金融的な投資や投機の対象になっているということですので、金融庁はそうしたものが消費者や金融資産の投資家に不測の影響を及ぼすことがないかどうかを当然監視しておられると思いますが、私どもの金融政策に影響があるというものではないと思っています。

Q:バブルかどうかというところはどうお考えですか。


私が決める話でもないのですが、グラフを描いてみると異常な高騰であることは事実だと思います。

Q:2017年は、黒田総裁が就任して初めて年間にわたって新たな緩和策であるとか引締め策がなかった年だと思いますが、この点についての受止めをお伺いします。また2018年の春闘についてお伺いしたいのですが、連合が4%の賃上げ要求、経団連が3%アップを会員企業に求める方針を示していますが、物価上昇の好循環を描くために欠かせないこの賃金アップというところに、どういう期待を持たれているのか教えて下さい。


金融政策は、毎回の金融政策決定会合で、それまでのデータを十分に分析し、今後の経済・物価・金融情勢を展望して、適切な金融市場調節方針を決めていくものですので、結果に2017年は変更がなかったということであろうと思います。賃金の問題については、私どもの金融緩和政策も、企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環をつくりだすことを目指しています。最近では、企業収益は過去最高水準、労働需給も一段と引き締まっていることで、消費者物価の前年比もプラスの領域で少しずつ上昇してきており、賃金上昇圧力は着実に高まっていると思います。また、政府も先日閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」において、税制面での措置を含む各種の政策を打ち出し、企業による力強い賃金アップを後押しする姿勢を示しておられます。私から具体的な賃上げ率などについてコメントするのは差し控えたいと思いますが、日本銀行としても、現在のこうした経済環境を活かして、労使双方において前向きの取組みが拡がっていくことを期待しています。

Q:2点お伺いします。1点目は、地銀の経営統合に関する競争政策なのですけれども、総裁の立場から公取の判断にはメンションされないとは思うのですが、地銀の経営統合に関して、独占に対して考える場合に、他の業種と違って地方銀行は地域のインフラなのであると、これが統合が阻まれて経営が悪化した時に地域経済全体に影響が及ぶことにも配慮すべきだという意見があるのですけれども、総裁はこれについてどう思いますか。

もう1点は先程から総裁もおっしゃっているように、物価の上昇率が徐々に上がってきていると、もはやデフレではないということは総裁も前からおっしゃっていますけれども、政府の方もこの間の月例経済報告でデフレ脱却に向けて変化がみられるというような表現がありまして、デフレ脱却宣言というのはまだ政府はしていないわけです。これをするかどうかというのは、これも総裁のメンションするところではないという話になると思うのですけれども、ただ、総裁が再三にわたっておっしゃっている日本の長きにわたって染みついたデフレマインドの払拭に向けて、そのデフレ脱却宣言というものがなんらかのプラスの効果があるのか、特別期待していないのか、その辺りをお伺いしたいと思います。


公正取引委員会の判断については、私どもがコメントする立場にありませんが、地域金融機関は、その地域のコミュニティの貯蓄者あるいは企業に対して金融サービスを提供しているという意味で、地域密着であるということは事実だと思います。他方で、金融というのは、お金という自由自在に動き回れるものを相手にしているビジネスですので、地域密着といいながらも、それぞれの地銀は地域を越えたビジネスも行っています。そうしたことからいいますと、地域金融機関のビジネスを県単位で必ずみていかなければならないというものでも必ずしもないようにも思います。そうした意味で、それぞれの地域あるいは地域の金融機関の特性をみながら、それぞれの金融機関によるご判断で適切な経営統合等を進められるというのは、それが効率を上げ、かつそれぞれの地域における金融サービスを改善させるということであれば、好ましいことではないかと思っています。

後者の点ですが、政府のデフレ脱却宣言というのは、政府がお考えになることだと思います。すでに、持続的に物価が下落するという意味でのデフレではなくなっていることは事実なのですが、私ども日本銀行は他の中央銀行と同様に2%の「物価安定の目標」というものを実現する、それを安定的に維持するということを目標にしています。従って、政府のご判断でデフレ脱却宣言をされるということはあり得ると思いますし、それ自体としてご指摘のようなデフレマインドを払拭する上でプラスになる可能性もあると思いますが、いずれにしても、私どもとしては従来から申し上げている通り、共同声明でもコミットしていますように2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するということを目指して金融緩和を粘り強く続けていくということになると思います。

Q:米国の長期金利がFRBの明確な利上げ方針にもかかわらず、あまり上がっておらず、むしろ下落トレンドが明確だと思います。これについて総裁  としてどうご覧になっているかお願いします。2つ目は、地政学的リスクについてですが、北朝鮮を巡る動向について、来年に向けて緊張が高まることはあっても緩和することはないということ  なのか、逆に大きく緩和する可能性もあってそちらを期待すべきなのか、総裁のご見解をお願いします。


前者については、米国の経済・金融のことですので、私が何か断定的に言えることはないと思いますが、米国の市場関係者の人たちは、近い将来の短期金利の動きについてFOMCドットチャートよりもかなり低いところをみているのだと思います。その延長でみれば、長期金利はそれほど上がらないというのがマーケットの見方であろうと思います。他方でFOMCの方は、ドットチャートでみる限りは、短期金利は一定のペースで上がっていくとみていますので、そこは市場とFOMCの金利の見方が異なっているということだと思いますが、それが何か重大なことをもたらしているということではないと思います。現実問題として、市場の見方とFOMCの見方とが若干離れているということだと思います。

北朝鮮を巡る地政学的リスクについては、私に特別な知見があるわけではありませんし、申し上げることはありませんが、地政学的リスクというものは、定義により、経済的なことの外で起こり、経済的な影響をもたらすおそれのあるリスクですので、私どもとしても十分注意してみていくということに尽きると思います。リスクが減るか、増えるかについては、特別な意見はありません。

日銀総裁会見

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