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2017年9月21日 日銀総裁会見 ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。
わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増しています。この間、公共投資は増加しており、住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%台半ばとなっています。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。
日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、
長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います

Q&A

Q:いわゆる「イールドカーブ・コントロール」の導入から 1 年が経ちました。この間の総裁の評価とみえてきた課題を教えて下さい。


ご指摘のように、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入から 1 年が経つわけですが、導入以降、長期金利は、操作目標である 10 年物金利がゼロ%程度で安定的に推移し、そうしたもとで貸出金利や社債金利も極めて低い水準となっています。金融機関の貸出態度は引き続き積極的であり、貸出残高も拡大を続けています。「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、金融環境は、極めて緩和的な状態が続いている、あるいは実現していると言えると思います。この間、わが国の景気は、企業・家計両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが働き、緩やかに拡大しています。企業収益は過去最高水準で推移し、設備投資は緩やかな増加基調にあります。失業率が 3%を下回る水準まで低下し、賃金が緩やかに上昇する中、個人消費も底堅さを増しています。一方、生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価の前年比は、なおゼ
ロ%程度で推移し、中長期的な予想物価上昇率も弱含みの局面が続いています。このように、物価は依然弱めの動きとなっており、2%の「物価安定の目標」の実現までにはなお距離があります。日本銀行としては、これをできるだけ早期に実現するため、今後とも、強力な金融緩和を粘り強く進めていく方針です。

Q: 本日の決定会合では、片岡委員が反対票を投じました。公表文によりますと、「現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019 年度頃に 2%の物価上昇率を達成するには不十分である」とのことですが、委員の反対票の趣旨、並びに他の委員の反応について、もう少し詳しく、後日「主な意見」は熟読しますので、是非お願いします。


本日の金融政策決定会合において、片岡委員は、「現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019 年度頃に 2%の物価上昇率を達成するには不十分である」という理由から、これまでの金融市場調節方針を維持することについて反対しました。また、物価の前年比について、「来年以降、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低い」として、先行きの物価見通しに関する公表文の記述に反対されました。こうした意見も含めまして、9 名の政策委員による活発な議論の結果、これまでの金融市場調節方針を維持することが、8 対 1 の賛成多数で決定されました。また、片岡委員の反対理由を脚注に記載することとしたうえで、本日
の公表文を、全員一致で決定しました。ご承知の通り、これ以上の議論の内容は、主な意見、議事要旨および
議事録において開示することとなっていますので、この場で具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。

Q:2 点お願いします。1 点目は、「イールドカーブ・コントロール」から 1 年の中で、国債市場の機能低下といった副作用を指摘する声も多いのですが、そういった課題についてのご所見を改めてお伺いします。
2 点目は、片岡委員のご意見は、おそらく金融緩和についてより強固な必要性を指摘されたということだと思うのですが、足許の物価の弱さと 2019年度という目標の達成時期にかんがみると、正しい反対のようにもみえます。緩和強化の是非も含めて 2%目標への道筋を改めてご説明頂けますでしょうか。


まず国債市場の機能という問題につきましては、もとより私どもも常に関心をもってみています。様々な指標をみますと、このところむしろ国債市場の流動性が高まっておりまして、特に流動性が低下したり、板が薄くなった
りというようなことにはなっていません。ですから、客観的な指標でみると、むしろ国債市場の機能はこのところ改善しているようにもみえます。他方で、国債市場関係者のアンケート調査によると、機能が低下した状態が続いているというような意見が寄せられているようでして、客観的な指標と市場の関係者の考え方とに若干ずれがあるように思えます。いずれにしても、引き続き様々なチャネルを通じて、国債市場の状況については十分注視してまいりたいと思っていますが、今の時点で何か問題が生じているとは思われません。片岡委員の意見につきましては、先程申し上げた、公表文に示しているような意見を言われて反対票を投じられたわけですが、それ以上に詳しくどういった趣旨で、とか、他の委員の反応はどうだったか、とか、そういったことは主な意見、議事要旨、そして最終的には議事録という形で公表するルールになっていますので申し上げません。金融緩和自体は、引き続き粘り強く続けていって 2%の達成を図るということですし、公表文にもある通り、今後とも
経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う、ということですので、必要があれば更なる緩和も行うということを示しているということです。

Q:2 点お願いします。1 点目は、米国のFRBが、量的金融緩和で膨らんだ保有資産を縮小すると決めました。これに対してのご所見と、日本経済もしくは日本銀行の金融政策に対する影響、例えば長期金利が世界的に上がって、国内でどうなるかという影響など、教えて頂ければと思います。もう 1 点は、ETFの買入れについて、総裁は、リスクプレミアムに働きかけるためとおっしゃっていますが、株価も足許をみるとかなり上がってきています。株価をみながらやっているわけではないと毎回おっしゃっているので、それは理解したうえで、現状と今後の考え方を教えて下さい。


まずFRBの政策運営につきましては、具体的にコメントするのは差し控えたいと思います。そのうえで申し上げますと、昨日のFOMCで、FRBはバランスシートの正常化プログラムを 10 月から開始することを示しています。従来からそうですし、今後ともそうだと思いますが、FRBは米国の経済・物価動向、あるいは世界経済・金融情勢を見極めながら、適切な金融政策運営を行ってこられましたし、今後とも行っていかれるものと考えていま
す。そのうえで、そうした場合のわが国の金利、為替、株などに対してどのような影響があるかというご質問ですが、金利につきましては、わが国では現在「イールドカーブ・コントロール」をしていますので、海外の金利が上がったから上げなければならないとか、そういったことではありません。あくまでも、わが国の経済・物価・金融情勢に応じて適切なイールドカーブを形成すべく行っていますので、ダイレクトに日本の金利に影響が出てくる、あるいは、米国の金利が上がったから日本の金利も上げなければならないということにはならないと思います。為替や株への影響等につきましては、コメントは差し控えたいと思います。
ETFの買入れにつきましては、従来から申し上げている通り、株価云々ではなくて、あくまでもリスクプレミアムに働きかけて、資本市場がより活発に機能し、経済が持続的に成長するもとで 2%の「物価安定の目標」の達成に資するよう、金融緩和政策の一環として行っているものです。株価が上がったから、下がったから、ということで、ETFについての政策を変えるということにはなりません。その点は是非ご理解を頂きたいと思います。

Q:2 点お願いします。まず、「物価安定の目標」の 2%についてです。これまでも、大きく 3 つの理由から日本銀行が 2%を掲げていることは重々認識していますが、7 月に審議委員を退任された木内氏は、最近の報道各社のインタビューで、現在の日本銀行は、2%達成の物価至上主義に陥っていると批判されています。当然ながら、異次元の緩和を長く続けることで副作用もその分膨らんでいくわけなので、何が何でも 2%にこだわるのではなく、金融緩和の軌道修正を図る道もあると思いますが如何でしょうか。
もう 1 点は、そうした軌道修正を求める声もある中で、今回の片岡委員のように、まだ緩和効果が不十分だと、逆に背中を押すような意見が出てき たことに不安も感じるのですが、このブレーキ不在の日本銀行という状況を、総裁はどのようにお考えでしょうか。


私は、前段のご質問については、全く意見を異にしています。2%の「物価安定の目標」は、2013 年 1 月の政策委員会で決定し、政府と日本銀行の共同声明にも盛り込まれています。2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することは、日本銀行法に定められている物価の安定という日本銀行の重要な目標の実現形態ですので、2%の目標を変えるとか、放棄するということは適切ではないと思っています。
今回の片岡委員の意見につきましては、先程ご紹介した通りですが、いずれにしても、9 名の政策委員が様々な意見を述べて活発な議論が行われることは大変結構なことです。これまでもそうでしたし、今後ともそうした議論を踏まえて、多数決によって金融市場調節方針を決定するということですので、ご指摘のような不安とかそういったものは全く感じていません。

Q:現状での金融緩和効果は不十分という声が、片岡委員からもあがったということですが、2%の「物価安定の目標」を達成するために、現状の金融緩和策で本当に十分なのでしょうか。そういったことも踏まえまして、物価上昇を取り巻く環境について、黒田総裁が現状どのように認識しているのかということを教えて下さい。
もう 1 点、政府は財政健全化目標を先送りしましたが、これが日本経済に与える影響をどのように考えていらっしゃるでしょうか。


まず、第 1 の点につきましては、私自身を含む 8 人の委員が、現在の金融市場調節方針の維持に賛成しましたので、2%の「物価安定の目標」を達成するのに十分であると考えているということです。ただ、その中でも先程申し上げたように、2%の「物価安定の目標」を達成するという観点から、今後とも経済・物価・金融情勢を踏まえて、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために、必要な政策の調整は行います。
政府の財政見通しにつきましては、まだ現時点では、私は政府の健全化目標について云々ということを存じておりませんので、何か具体的なことを申し上げるのは差し控えたいと思います。いずれにしましても、財政健全化目 標を含めた具体的な財政運営につきましては、政府、国会の責任において行われるものと認識しています。日本銀行の金融政策は、経済・物価・金融情勢全てを勘案して、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムが維持されて、2%が達成されるように運営していく、という点に、全く変わりはありません。

Q:先程の質問に関連して、まだ財政健全化目標の先送りの話について確認をされていらっしゃらないということですが、もし財政規律が緩むような動きがあるとした場合に、それは金利を抑え込んでいる日本銀行の金融緩和の副作用なのではないかという意見もあるかと思いますが、それについてどのように思われるかということが 1 点。
もう 1 つは片岡委員のことですが、政権が決めた人事で、初回の会合から反対が起きるということは、政権と日本銀行との間で、金融緩和の手法だったり、あるいはその程度についての認識に齟齬があるのではないかと思うのですが、それについては如何でしょうか。


まず、前段の財政規律の問題は、非常に重要だと思っています。財政規律が守られることは、財政にとっても重要だと思いますが、金融情勢、あるいはそのもとで行われる金融政策へも当然影響がでうるわけですので、十分関心を持ってみているということは確かです。
片岡委員が今回反対投票されたことについては、そもそも政策委員は、国会の同意を得て内閣で任命され、そのうえで、日本銀行法にも書いてありますが、9 名の政策委員会のメンバーがそれぞれ独立の立場で議論をし、金融政策の決定に参画することになっていますので、何か異常なことが起こっているとは思いません。それぞれの委員が、それぞれの考え方に則って、独立の立場で色々な意見を述べ、活発な議論を経て多数決で金融政策を決定するという、正に法律の趣旨に沿った運営がこれまでも行われてきましたし、今後も行われ
ていくということだと思います。

Q: 片岡委員は、現行政策が 2019 年度頃に物価 2%を達成するには不十分、ということで反対されたわけですが、こうした 2019 年度という見通し時期に2%達成を目指すという時限を区切った考え方について、総裁はどのようにお考えなのかということを教えて下さい。これが 1 点目です。

2 点目は、本日の東京市場ですが、FOMCによる米利上げ観測の高まりを背景に円安株高が進行しました。これは日本経済、または 2%目標を目指す日銀にとってプラスであると思います。こうした背景として、「イールド
カーブ・コントロール」で長期金利をゼロ%程度に誘導していることが背景にあるのではないかと思うのですが、こうした効果は「イールドカーブ・コントロール」がそもそも内包しているものなのかどうかについて、総裁のご所見をお願いします。


まず、2019 年度頃に 2%程度に達する可能性が高いということは、前回の展望レポートで示したところでありまして、これは政策委員会の多数の委員の支持によってそのような文言になっていますし、後ろに添付されているグラフをご覧になると分かりますように、中央値は正に 2019 年度頃に 2%程度に達するという姿になっています。もちろん、下方リスクも示されています。いずれにしても、できるだけ早期に 2%の「物価安定の目標」を達成するということですので、いつになったらそうなるか分からないということでは済まないと思っていますが、2019 年度頃というのは、従来から申し上げています通り、展望レポートで年 4 回示している予測でありまして、その時点の内外経済、金融情勢を踏まえ、その時点で採用している金融政策によって、その頃に 2%に
達するという予測をしているということです。
次に、「イールドカーブ・コントロール」に内在しているメカニズムとして 1 番重要なのは、「総括的な検証」で示された通り、日本の場合は実際の物価上昇率に引きずられて予想物価上昇率が変動するという傾向があるの
で、実際の物価上昇率が今後上がっていく過程では予想物価上昇率も上がっていき、「イールドカーブ・コントロール」のもとで、現状のように例えば 10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度に置いていると、実質金利は更に低下していくという点です。実質金利は今でもマイナスになっていますが、更に低下していくことにより、金融緩和の効果が強化されていくメカニズムが内蔵されていると考えています。為替や株の動きは、特に外国からの影響など様々な要素で動きますので、何かそれを前提に「イールドカーブ・コントロール」をしているということではありません。

Q:2 点お伺いします。1 点目は、「総括的な検証」から 1 年経ちます。 もちろん、物価上昇率の達成はまだ遠いと先程おっしゃっていましたが、政策を変更されてから 1 年を振り返って、総裁自身が最大の誤算と受け止められた点、例えば賃上げがもう少し上がるはずだったとか、誤算という言い方がよいのか分かりませんが、どの辺りを一番、振り返って思われているのでしょうか。
2 点目は、北朝鮮情勢について、日本経済および世界経済に与える影響の見通しについてご認識をお聞かせ下さい。


昨年 9 月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」については、金融市場に与える影響は正に想定したようなことで、適切なイールドカーブが形成されてきました。外国の金利のかなり大きな変動にもかかわらず、わが国のイールドカーブが非常に安定して、経済にプラスになる形で維持されてきたという意味では、想定通りのことになっていると思います。また、実体経済に対する影響も、このところ実体経済の回復、成長は極めて順調で、6 四半期連続のプラス成長であり、内外需のバランスの取れた形で成長が続いています。そうしたもとで、企業収益も最高水準になり、失業率も極めて低い水準に達しているということで、実体経済も、私どもが考えていた通り、あるいは考えていた以上に改善していると思いますが、問題は賃金・物価、特に物価です。物価の上昇率が、依然として生鮮食品を除いたベースで+0.5%程度ですので、2%の目標にはまだまだ遠いという状況にあります。諸外国も経済が順調に成長し、雇用状況が改善しているわりに、賃金がそれほど上がっていないという状況はよく似ていますが、それに加えてわが国の場合は、名目賃金の上昇を価格に転嫁するのに慎重で、むしろ省力化投資、あるいは夜間営業を止める等々でビジネスモデルを変えて、賃金の上昇が価格の上昇に転嫁されるのを控えるような行動がとられている面もありますので、想定したよりも物価の上昇が遅れがちであることは事実だと思います。ただ、今申し上げたような省力化であるとか、ビジネスモデルの見直し等々は、一面で生産性を上げることになりますので、潜在成長率を引き上げる、あるいは成長期待を引き上げていくというプラスの面もあります。足許で賃金の上昇を価格の上昇に転嫁するという行為が遅れがちになるという面はあるとは思っていますが、これはいつまでも続けているわけにもいきません。現在のような潜在成長率を上回る成長が続いていく中で、需給ギャップも改善しますし、雇用状況も更に需給がタイトになり、賃金が上昇し、物価も 2%に向けて上昇していくとみていますが、昨年 導入した時の予想に比べると、物価の上昇がやや遅れていることは事実だと思います。
2 点目ですが、ご承知のように、北朝鮮情勢はこのところかなり急速に色々な変化をしていますが、金融市場に与える影響については、これまでのところ投資家によるリスク回避の動きは限定的で、株式市場や為替市場を含めて金融市場は総じて落ち着いているようにみえます。日本経済についても、現時点では貿易面や企業・家計のマインドに目立った変化はなく、大きな影響はみられないというのが現状だと思います。ただ、日本銀行としては、リスク要因の 1 つとして地政学的リスクを意識しており、北朝鮮情勢が金融市場や日本経済に与える影響についても、注意深く点検してきています。引き続きこうした点検を続けるとともに、必要な際には適時適切な対応を行っていく方針です。

Q: 2 点お伺いします。先程、財政規律が重要だという話に関連して、マーケットに財政規律が緩んだと受け止められてしまった場合に、金融市場にどのような影響が起こり得るか、そしてそれが今の日本銀行の金融政策に対してどのような影響、余波を起こす可能性があるとみているでしょうか。
2 点目は、米国のFOMCだけでなく欧州も今、金融政策の出口に向かおうとしていますが、世界の主要経済圏の中で、日本だけ方向性が違ってくること自体に、日本銀行の政策に何かやり難さなり何らかの影響が出てくるのでしょうか。


前段の点は、先程申し上げた通り、財政規律は財政自身にとって最も重要な点です。財政の持続性を確保することは、社会保障にしても、その他の公共サービスの提供が安定的に行われるためにも必要ですので、当然のことだと思います。他方で、財政規律が、国債に対する信認、観念的に言いますと国債のリスクに影響し得るわけですので、そうした面から金利が上昇するおそれがあるということだと思いますが、これは数量的にこうなると予見できるわけではありません。財政自体の問題については非常にはっきりしていると思いますが、金融市場に対する影響については様々な要因がありますので、具体的にこのようになったらこのように国債の金利が上がるということを申し上げるのは難しいと思います。
後者の点は、これはよくあることでして、各国の金融政策は、各国の経済・物価動向に応じて決まっています。欧米の経済・物価動向をみますと、経済が回復し成長しているという点では、日本、米国、欧州ともよく似ている
のですが、物価上昇率については、1 つは欧米と違って日本の場合、予想物価上昇率が物価安定目標の周りにアンカーされていないこともあり、原油価格の下落等から実際の物価が下がった時に予想物価上昇率自体も下がってしまって、まだ弱めの動きが続いています。そういうこともあり、米欧と違って、生鮮食品を除くところで+0.5%くらい、生鮮食品とエネルギーを除くと 0%に近いところにあります。それに対して、米欧の場合は、物価上昇率は 1%台の半ばくらいで動いています。日米欧とも 2%を物価安定目標としていますが、米欧の場合は 2%の目標にかなり近いところに来ていますし、また、予想物価上昇率が物価安定目標の周りによくアンカーされているところがあります。特に米国はその点が非常に顕著ですので、正常化を始められたのだと思いますが、わが国の場合はまだ物価上昇率は目標からは遠いところにありますので、金融緩和の状況が異なってくるのは自然なことであって、何らおかしいことでもないし、問題を含むということもないと思います。

Q: 財政規律についてもう 1 度お伺いします。総裁は財政規律が非常に重要であると指摘されています。具体的にどのような状況になれば財政規律がしっかりと維持されているのかという、具体的な行動や目標が重要だと思うのですが、現在、政府は 2020 年度のプライマリーバランス黒字化の目標を掲げています。この目標は、現状でもなかなか達成が困難とみられているのですが、総裁としては、やはりこの目標がきちんと守られるということが「財政規律が維持されている」という 1 つの証左として必要だとお考えになりますでしょうか。それがまず 1 点目です。
もう 1 点は、それに関連して 2019 年に消費税の増税が予定されています。消費税の増税を見送ったり、あるいは増税分を全額支出の拡大に回すようなことになれば、これもまた財政健全化が更に遠のくことにつながります。こういった観点からも、増税分についてきちんと一定程度国債の減額に充てるといったことが必要とお考えでしょうか。総裁のお考えをお聞かせ下さい。


財政規律の問題については先程申し上げた通り、財政にとって極めて重要であると思っています。政府、日本銀行の共同声明でも財政の持続可能性 を高めるということが示されているわけでして、財政規律を保つということは当然だと思います。そのうえで、具体的にプライマリーバランスの黒字化の目標であるとか、あるいは債務残高対GDP比率であるとか、具体的な財政再建目標、持続性を高めるために達成すべき目標というのは、政府がその時点で適切なものを決めていくということに尽きると思いますので、私から具体的に申し上げるのは差し控えたいと思います。

消費税につきましても、先程申し上げたように、財政政策、租税政策は政府、国会が決めることですので、私から具体的なことを申し上げるのは差し控えたいと思います。

Q:2 点お伺いします。先程、米欧に比べてもなかなか日本の予想物価上昇率が上がらないというお話をされていますが、日本が特に物価が上がりにくい背景について、総裁がお考えのところがあれば教えて下さい。それは例えば、長く染みついたデフレマインドということなのか、あるいは先程省力化投資のお話もされていましたが、日本にとっての労働市場の問題なのか、米欧との日本との違いです。
2 点目は、前の方の質問で、国債市場の流動性がむしろ活発化、活性化していると、市場関係者のアンケートとはちょっとギャップがあるようだとおっしゃっていました。具体的に、どのような指標からその活性化という点が
みてとれるのかお願いします。


前段につきましては様々な議論が行われているところですが、ご指摘のように、大きなバックグラウンドとして、1998 年から 2013 年頃まで 15 年にわたって続いたデフレによって、デフレマインドが企業や家計にかなり強く存在しています。つまり、企業としては景気が良くなった、収益が上がったといっても、ベースアップをどんどんやるというふうになかなかなりにくい、あるいは価格を引き上げるということに慎重であるし、他方で家計も、価格の引上げに対して強い抵抗を示すというような状況が続いてきたと思います。ただ、少しずつその状況が変わってきている面もありまして、企業も、ここまで労働市場がタイトになってくると、パートの賃金を最近 3%くらい上げていますが、単にそれだけでは済まず、非正規の人を正規化するとか、正規雇用の人材を今後確保していく観点から賃上げを容認するといった動きも一部に出ているようです。また、価格についても、一部外食やその他で引上げの動きも出ています。他方で、通信料などで引下げの動きもありますので、色々な状況があると
は思いますが、少しずつですが、企業による賃金や価格の引上げについても動きが出てきていることは事実だと思います。ご指摘の労働市場が正規と非正規に大きく分かれている状況も、先程申し上げたように、非正規は需給状況を反映して賃金がどんどん上がっているのに対して、正規はなかなか粘着的で上がっていかない状況が続いているわけですが、そこにも少し動きが出つつあるようです。色々な状況が重なり予想物価上昇率がなかなか上がっていかない状況、あるいは実際の物価が上がった時に予想物価上昇率も追いかけるように上がっていくという状況は、そう簡単に、一気に変わるとは思いませんが、そうしたことも含めて、少しずつ変化の兆しは出てきていると思います。

国債市場の流動性の問題については、様々な指標がありまして、スタッフに聞いてもらえれば、いくつかの指標の動きをお示しできると思います。

Q:近いタイミングに、衆議院の解散総選挙が行われる流れが出てきています。正式に決まった話ではないのでお聞きするのは恐縮ですが、今お聞きしないと、伝えられている選挙スケジュールを前提にすると、次の定例の総裁会見は選挙の後になってしまうのでお聞きします。この選挙では、アベノミクスの加速というのが 1 つの争点になると伝えられていまして、今の日本銀行の政策はアベノミクスの一部を成すとすると、日本銀行の政策というのも民意が問われる選挙になるのかなと思います。来春には総裁の人事も控える中、このタイミングで、日本銀行の政策の是非につき民意の審判を受けるというのは相応の意味を持つと思いますが、このタイミングでの衆議院の解散総選挙について、総裁はどのようにみておられるのか、差支えない範囲で教えて頂ければ幸いです。


中央銀行総裁は、政治的な話は差し控えることになっていますので、総選挙云々の話はコメントを差し控えたいと思います。ご承知のように各国ともそうですし、わが国の場合もそうですが、日本銀行は政府から一定の独立した地位にあり、政策委員会という合議体のもとで政策を議論し決定していくシステムになっています。選挙で選ばれた議員が首班を指名して内閣ができ、そのもとで政策が決定、遂行されるという重要な事項については、法律や予 算で国会の承認が必要なわけですが、そういうものとは少し離れた状況にあります。逆に言いますと、毎回の政策委員会で議論され決定されていくものが、常に、国民や市場から注視され、テストされていると思っています。

Q:ETFについて、非常に重要な政策のパーツであるという認識はあるのですけれども、少しでも減額すると 2%に向けたモメンタムは傷ついてしまうほど大切なものという理解でよろしいのでしょうか。
2 点目は、物価について、足許、生鮮食品が相当上がっておりまして、庶民感覚ではデフレどころではなくて、かなりインフレ感もでてきているところがあるのですが、コアの物価はこういう状況ですけれども、体感物価がこのように上昇している局面においては、金融緩和は少しブレーキをかけた方がよいようにも庶民的には思うのですが、総裁のご見解をお願いします。


ETFにつきましては、従来から申し上げているように、リスクプレミアムに働きかけ、株式市場の活発な取引を通じて、企業の投資であるとか、その他経済に対してプラスの影響を及ぼし、それがひいては 2%の「物価安定
の目標」の達成に貢献するということであると思います。もちろん現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の最も重要な要素は「イールドカーブ・コントロール」ですので、そうしたものと全く同じ程度の重要性があるとは申しませんが、日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために、現時点では引き続き、このETFの買入れも必要な措置であると考えています。
2 番目の生鮮食品が上昇しているという点は私どもも認識しており、実感として云々という議論は分かるのですが、生鮮食品を含んだ総合指数でも相変わらず 0%台の半ばです。なお、生鮮食品を除くという指標を特に使っているのはわが国の独自のものだと思いますが、生鮮食品は気候によって非常に大きく価格が変動します。生鮮食品でないものは輸入ができますので、わが国の気候だけで大きく変動するということはないのかもしれませんが、生鮮食品はどうしても殆ど国内で供給されており、天候によって大きく価格変動するという傾向がありますので、それを除いたところで物価の動向をみることにしています。もちろん総合指数もみていますが、傾向をみるためにはやはり生鮮食品を除く物価指数でみていくというのが正しいと思いますし、エネルギー価格 が非常に大きく変動したような際には、エネルギー価格を除いた指標もみていく必要があると思っています。

Q:先程から何度か財政規律の話が出ていますが、基本的に政府の責任であるというのは当然そういうことだと思いますが、どうしても出口の時に、金利が上がってしまうことを避けるために、止められなくなると、どうしてもそ
このところの不安を持つ人が多いと思います。財政規律の緩みというものが、出口戦略に与える影響についてどのように考えていらっしゃるか伺えますか。


私どもの出口戦略は、あくまでも 2%の「物価安定の目標」の達成および維持という観点から行うものです。国債の債務負担を小さくするとか、そうした観点でやっているわけではありませんので、「物価安定の目標」が達成され維持される状況になれば、当然、出口の議論は行われ、実行されていくことになると思います。財政規律が財政自身に与える影響と、金融市場に与える影響があると申し上げましたが、金融市場に与える影響があり得るからといって、「物価安定の目標」という日本銀行として最も重要な目標を、英語で言うコンプロマイズ(妥協)することはあり得ません。それは日本銀行法できちんと書いてある通りです。その意味では、出口戦略に何か重大な影響が出るとは考えていませんが、財政規律は財政規律として、非常に重要であると思ってい
ます。

Q:先程選挙のお話が出たと思いますが、実際、アベノミクスが 1 つの争点になると、金融緩和のことも話題にならざるを得ないというのはしかたがないことだと思います。一般の方にとって、金融緩和の効果という面では、総裁から先程何度もお話し頂いているところにもつながりますが、どうしても不安を持つのは出口の話であり、そのことも含めて総合的に判断したいと思うのが国民の考え方だと思います。ですので、国民に働きかけるという意味で、ある種大枠でも出口の時期とか手法とか、市場に影響を与えることを除いて、出口というのはどういうものであるか、総裁にお話し頂けないでしょうか。


従来から申し上げていますが、出口の際に論点になるのは、1 つは拡大したバランスシートをどのようにするかという問題と、政策金利短期金利をどのように引き上げていくかという 2 つです。これはFRBの場合も同じで
すし、まだ出口に差し掛かっていませんがECBにしても日本銀行にしても同じことだと思います。ただ、具体的にそれがどのような影響、例えば、日本銀行の財務に影響するか、あるいは金融機関の収益にどう影響するかということは、そのときの経済・物価・金融情勢如何によって様々なことがあり得ますので、具体的な形で示すのは難しいと思います。ただ、ご指摘のように、出口で何か異常なことが起こることはないということは、十分ご説明していきたいと思っています。

Q:先程の財政規律の問題で、国会が決めていくことといった指摘がありましたけれども、最近の風潮をみていますと、やはり教育の無償化も含めて支出がどんどん拡大していくような話がかなりでてきているような感じがします。一方で、社会保障の見直しなど、削減の方の話はなかなか進まないという風潮について総裁はどのようにみていらっしゃいますでしょうか。


日本銀行総裁として、財政のあり方とか、今言われた社会保障の見直しとか、教育無償化の話とか、そのようなことについて何か申し上げるというのは僭越かと思いますので、ご指摘の点についてコメントは差し控えたいと思いますが、財政規律が非常に重要だという点は、政府、国会においても認識されているのではないかと思っています。

Q:財政規律に関連して、共同声明について、4 年以上経って日本銀行の物価目標もそうですけれども、同時に政府が持続的な財政構造の確立を推進するという取組みないしは規制緩和を含めて十分ではないのではないかと映るのですが、その点は総裁はどのようにお考えでしょうか。同時に、日本銀行の金融緩和が財政再建を遅らせているとか、あるいは財政規律の緩みをもたらしているという批判もありますが、その点もあわせて総裁の考えを教えて下さい。

共同声明は、現在でも生きていると思っています。そのうえで、日本銀行としてできる限りの金融緩和を行ってきました。「総括的な検証」でも示しているような色々な状況のもとで、実際の物価上昇率が一時、+1.5%くら いまで上昇した後、特に原油価格が 70%以上下落して、物価上昇率も下落し一時マイナスに落ち、予想物価上昇率もそれに引きずられて下落したということで、その影響がかなりありました。そうしたもとで、まだ 2%の「物価安定の目標」が達成されていないのは事実です。
他方、政府の財政についてのコミットメントは、短期的には必要な景気刺激を行いつつ、中長期的に財政の持続可能性を高めるということです。この点は、色々な経済学者の人に聞かれた方がよいと思いますが、かなり政府はその線に沿ってやってきたと思います。財政赤字もずっと減ってきていますし、他方で、必要に応じて短期的な景気刺激策も採ってきています。成長戦略についても、女性の参画であるとか、色々な面で一定の効果が得られていると思いますが、確かに構造改革や規制緩和の面で、更に必要な改革が残っていることは事実だと思います。よく言われる点としては、労働市場改革と社会保障政策の改革といったことは、まだ必要なものが残っているとは思いますが、共同声明自体は今でも有効なものであると思っています。

日銀総裁会見

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