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2017年10月31日 日銀総裁会見 ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース、すなわち、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って、先行きの経済・物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。
わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メ カニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が改善する中で、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増しています。この間、公共投資は増加しており、住宅投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境は、極めて緩和した状態にあります。
先行きについては、わが国経済は、海外経済が緩やかな成長を続ける もとで、極めて緩和的な金融環境と政府の大型経済対策の効果を背景に、景気の拡大が続き、2018年度までの期間を中心に、潜在成長率を上回る成長を維持するとみられます。2019年度は、設備投資の循環的な減速に加え、消費税率引上げの影響もあって、成長ペースは鈍化するものの、景気拡大が続くと見込まれます。実質GDP成長率に関する今回の見通しを、従来の見通しと比べますと、概ね不変です。
次に、物価面では、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっていることなどを背景に、エネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きが続いています。もっとも、マクロ的な需給ギャップが改善を続けるも とで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、中長期的な予想物価上昇率も上昇するとみられます。この結果、消費者物価の前年比は、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
今回の物価見通しを、従来の見通しと比べますと、2017年度について幾分下振れていますが、2018年度、2019年度については概ね不変です。リスクバランスについては、経済については概ね上下にバランスして いますが、物価については下振れリスクの方が大きいとみています。物価面で は、マクロ的な需給ギャップが改善を続け、中長期的な予想物価上昇率も次第 に上昇するとみられるもとで、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要があります。
なお、展望レポートについては、片岡委員が物価の前年比について、来年以降、2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして、先行きの物価見通しに関する記述に反対されました。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に 2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメン タムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

Q&A

Q:先日の衆院選で自民党が大勝し、大規模金融緩和を含むアベノミクスが信認された格好となっています。改めてデフレ脱却にどう取り組むのか、ま た、明日発足予定の新内閣に対し、何を期待されるのかお聞かせ下さい。


日本銀行としては、今後とも 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、強力な金融緩和を進めていく方針に変わりはありません。なお、新しい内閣におかれては、持続的な経済成長の実現を含め、様々な政策課題に対して、適切な施策を進めていかれることを期待しています。

Q:衆院選の争点の1つであった消費税増税の是非については、与党の勝利により増税が決まりました。一方、2020年度としていた財政健全化目標は先送りが決まり、財政規律の緩みも警戒されています。目標の再設定、健全化に 向けた取組みについてどうお考えになるか、改めてお聞かせ下さい。


財政運営については、政府・国会の責任において行なわれるものであり、具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。そのうえで一般論として申し上げますと、わが国の政府債務残高が極めて高い水準となっていることを踏まえると、政府が中長期的な財政健全化について市場の信認をしっ かりと確保することは重要であると考えています。2013年1月に公表した政府・日本銀行の「共同声明」においても、政府は、「持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」こととされています。なお、財政健全化目標については、安倍総理も、「プライマリーバラ ンスの黒字化を目指すという目標自体はしっかり堅持する」としたうえで、「今後、達成に向けた具体的な計画を策定する」と述べられていると承知しています。日本銀行としては、持続可能な財政構造の確立に向けて、こうした取組みが進められていくことを期待しています。

Q:ETF購入についてお伺いします。日銀は、ETFの購入を今月はまだ1度しかされていません。市場の中では日銀が、年間6兆円としているペースを本当に守っていくのかという見方もでています。もちろん日銀は 1 月から12 月にかけて6兆円買うと言ったことはありませんが、この 12 月にかけて約6兆円を買うべきなのかどうか、まずお伺いします。また、日本の株式市場は21年振りの高値や過去最長の連騰記録を今月記録しています。リスクプレミアムに働きかけるという観点から、まだ日銀 は6兆円ものETFを購入していく必要があるとお考えなのかどうか、改めてお伺いします。


従来から申し上げている通り、ETFの買入れは、全体の金融緩和の枠組みの中で株式市場におけるリスクプレミアムに働きかける観点から実施 していますが、実際の買入れ額は市場の状況に応じて変動することはあります。 従って金融政策決定会合において決定された資産買入れ方針においても、ETFの残高増加目標は「約 6兆円」と幅のある表現となっていますし、目標の達成期間について特定の時点を定めているわけではありません。いずれにしても日本銀行としてはETF買入れの趣旨や買入れ方針を踏まえつつ、今後とも適切に買入れを進めてまいりたいと思っています。2点目の株価の動向につきましては、今申し上げたように、あくまでもリスクプレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていくという観点から実施しています。特定の株価水準を念頭に置いて、 そうした水準を実現するために行っているわけではありませんので、あくまで もリスクプレミアムに働きかけるという趣旨を踏まえて、今後とも市場の状況に応じて買入れを進めていく所存です。なお、現在の株価の水準につきましては、色々な意見があると思いますが、そもそも株価は短期的には様々な要因で動くものですので、その時点その時点でどうこうというのは難しいのですが、基本的には、将来の企業収益の見通しを反映するものだと思っています。このところ、わが国企業の収益が業種の拡がりを伴いつつ改善しているほか、先行きも増益基調が見込まれていますので、そのようなことが最近の株価動向に反映されているのではないかと考えています。なお、こうした企業収益あるいは実体経済の動向を踏まえると、本日公表した展望レポートでも指摘している通り、これまでのところ株式市場において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていないと判断しています。いずれにしても金融・資本市場の動向については引き続き十分注視していきたいと思っています。

Q:2点お願いします。1点目は、先日、安倍首相が経済財政諮問会議でデフレ脱却に向けて 3%の賃上げ実現を期待するとおっしゃいました。足許では物価は弱いと思われるのですが、次の春闘に期待する気持ちもお持ちだと思いますので、その辺の考え方を教えて下さい。
2点目はETFについてですが、どういう場合にETF買入れを見直す可能性があるのでしょうか。パッケージというのは重々承知しているのですが、「イールドカーブ・コントロール」と切り離してETFだけを見直すことがあるのか、それとも見直す場合はパッケージを総括的に見直すのか、その辺のご見解をお願いします。


まず、来年の春闘で3%の賃上げが実現することについての期待が安倍総理から述べられたことは、私も経済財政諮問会議に出席していましたのでよく存じています。政府としても、賃金引上げの環境整備を進めていかれると思っています。日本銀行としては、現在の強力な金融緩和政策によって、企業収益の増加や賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が緩やかに高まっていく、という好循環を作り出していくことを目指しています。実際、企業収益は過去最高水準で推移しているほか、失業率も 2%台後半まで低下するなど、労働需給が一段と引き締まっていますので、賃金上昇圧力は着実に高まっています。従って、日本銀行としてはこうした経済環境を活かしながら、労使双方におい て、好循環の実現に向けた前向きの取組みが拡がっていくことを強く期待して います。ETFの買入れにつきましては、先程来申し上げている通りです。全体の金融緩和のパッケージの中にある一要素であることはその通りですし、今回も全体の検討の中で、ETFの買入れは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環として、「イールドカーブ・コントロール」とともに決定されま した。ただ、将来の時点で何らかの調整を行う場合に、全体の要素全てが同時に調整される必要はありません。ETFの買入れはリスクプレミアムに対する働きかけですので、それはそれとして全体のパッケージの中で必要性につ いて検討されていくことになると思います。全体のパッケージとして、常に毎 回の金融政策決定会合において議論され、決定されていくということに変わりはありません。

Q: 「イールドカーブ・コントロール」について2点お伺いします。昨年9月に「イールドカーブ・コントロール」を導入してから、かれこれ1年以上にわたって現在の金利操作目標を維持しているわけですが、この間、需給ギャップがプラスに転換するなど、着実に経済情勢は改善していると思います。 そこで改めて伺うのですが、日銀が今示しているような見通しに沿って経済・物価情勢が今後も改善を続ける場合、2%達成前にイールドカーブを調整する ということはあり得るのか、それとも物価2%の達成が確実になるまで0% というイールドカーブを維持しながら、緩和効果の強まりをとことん追求していくというお考えなのか、これが1点目です。
もう1点はそれと関連するのですが、この間、米国の利上げなど、海外金利が上昇した局面で国内金利が上昇する場合、それを抑制していくという姿勢を総裁は何度も繰り返されていましたが、現在のように日本のファンダメンタルズが改善している中で長期金利に上昇圧力がかかる場合には、0%程度の許容範囲またはイールドカーブの調整の必要性というものも考え方が変わるものなのかどうか教えて下さい。


ご指摘の通り、昨年の9月に現在のような「イールドカーブ・コントロール」、そのもとでの政策金利-0.1%、そして10年物国債金利の操作目標0%程度というものを決めて1年以上経っています。その間、経済が順調に改善してきたということは様々な指標が示している通りです。ただ、残念ながら物価の方は、もちろん1年前に比べるとかなりよくなってはいますが、まだ生鮮食品を除くベースでみると+0.7%程度、更にエネルギー品目も除くと+0.2%程度ということで、2%の「物価安定の目標」にまだまだ遠いところにありますので、現時点で今の「イールドカーブ・コントロール」を変更する必要があるとは思っていません。0%程度あるいは政策金利の-0.1%を 2%の「物価安定の目標」を達成する前に調整するのか、達成した後に調整するのかについては、その時の経済・物価・金融情勢によると思います。目標はあくまでも2%の「物価安定の目標」を達成し、これを安定的に維持することであり、これとの関係で常に金融政策を考えていくということに全く変わりはありません。
2点目は、各国はそれぞれの国の経済・物価、特に物価動向にあわせて金融政策を行っています。米国は経済が順調に成長していますし、物価上昇 率もまだ2%に達していないとはいえ1%台半ばから後半で推移しています。そうしたもとで、FRBは金融政策の正常化を始めており、その結果、金利も若干上昇しています。一方で、日本経済の状況は先程申し上げたように、実体経済は順調に成長していますが、物価はまだ弱めの状況が続いており、予想物価上昇率も弱めの状況が続いています。そうしたファンダメンタルズの違いからみて、現時点で日本の金利が上昇する、あるいは上昇させる必要があるとは全く考えていません。物価について2%が達成される前か、達成された後かなど色々議論はあると思いますが、物価動向が改善していく中で、金利についてどう考えるかというのは、先程来申し上げているように考慮に値すると思います。ただ、現時点では 2%の「物価安定の目標」は遠い段階であり、それについて具体的に議論する必要があるとはまだ考えていません。

Q:少々昔の話になるのですが、今日はいわゆるハロウィン緩和をしてからちょうど3年という日です。今に至る出口の不安や副作用の問題、それを積み重ねる大きなきっかけになったのがあの時の緩和決定ではなかったのか、という記者の意見が結構あるのですが、この点について総裁は今振り返ってどう評価されていますか。また、あの時の追加緩和が出口をより一層困難にしたのではないかという指摘に対しても、あわせてお答え頂ければと思います。


私は今指摘されたような考えは持っていません。「量的・質的金融緩和」を2013年4月に始めて、その結果、経済が改善し、一時は物価上昇率も1.5%近くまで上昇しましたが、2014年4月の消費税率の3%引上げの後、消費がやや低迷しました。そしてそれ以上に、その年の夏秋頃から原油価格が下落し始め、最終的には1バレル110~120 ドルだったものが30 ドルを割るくらいまで、1 年半以上かけて低下していきました。そうしたもとで、「量的・質的金融緩和」を拡大する必要があると判断したわけです。そして、昨年1月には、政策金利について、政策金利残高という20 兆円前後くらいに-0.1%のマイナス金利を導入するということを決めました。あの時は、原油価格が低下する中で、更に中国を含めた新興国の経済成長が相当減速するのではないか、世界経済全体として相当落ち込むのではないかという懸念もあり、市場も相当荒れていました。そうしたもとで、-0.1%のマイナス金利を導入し、そして 昨年9月には現在の「イールドカーブ・コントロール」という新しい枠組みにしました。それぞれ、その時の実情やその先の見通しを踏まえて決定したもの であり、それぞれ実体経済に対してポジティブな効果があったと思っています。
出口云々は従来から申し上げている通り、米国の場合もそうですし、どこでもそうですが、具体的に出口というからには、物価安定目標が実現され たとか、実現される状況にあるということでいよいよ出口を議論し、それを 実施していくということですので、あくまでもその時点での経済・物価・金融情勢を踏まえて行っていくということです。従って今の時点で具体的に出口の議論をするのはかえってミスリードになり、市場に対してもマイナスになっ てしまうと思います。適切な時期に適切なコミュニケーションをするというこ とは必要だと思いますが、それを今の時点で行う段階ではないと思っています。 ただ、そのうえでその時点その時点で、金融政策の現状・将来、その経済・物価に対する影響について、できる限り詳しくご説明していきたいと思っています。
各国の中央銀行とも、リーマンショック後の世界的な金融危機の中で大規模な非伝統的金融政策を始めました。伝統的な短期の政策金利の操作だけで金融引締めや緩和を行うというものを超えていますので、出口について色々な議論があるということ自体はおかしなことではないのですが、非伝統的な政策を行うと出口が必然的に難しくなるとか、大変なことになるというのも如何なものかと思います。伝統的な金融政策であっても緩和が行き過ぎてバブルが生じてしまったり、あるいは逆に引き締め過ぎて経済を深刻な不況に陥れたりした場合には、出口でも大変なことになります。あくまでも私どもはその時その時の経済情勢と将来を見据えて、最適な金融政策を決定しています。その際、将来金融政策の転換がある場合のことも十分考えてはいますが、具体的にどうなるかということは、その時の経済・物価・金融情勢によりますので、まさに出口に差し掛かる時に十分実情を踏まえた議論をし、コミュニケーションをしていきたいと思っています。

Q:1点目は、更に昔のことになるのですが、20年前、1997年11月に北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで破綻して、金融危機という動乱の時代が始まりました。この年からデフレ経済が始まったと言われています。改めて、この20年間で、今一番心にお留めになっていらっしゃる教訓がおありでしたら教えて下さい。そして、今なおデフレ脱却ができていないことも含めてコメン トをお願いします。もう 1点は、総裁の任期まで半年を切りました。4 年以上お勤めになられて、日銀総裁の資質といいますか、必要なこと、実感していらっしゃるこ とがあれば教えて下さい。


1997年11月に日本の大きな金融機関が4つ、ほとんど毎週破綻するということがありまして、いわゆる日本の金融危機が起こったと言われています。実際問題として1980年代のバブル経済が転換してバブルが崩壊した後、1990年代は、ずっと金融機関の不良債権の問題など何かがあったわけですが、それがいよいよ 1997年 11月にのっぴきならない状況になったのは事実だと思います。実際に物価が持続的に下落するデフレの状況が始まったのは1998年だと思いますが、それから2013年まで15年間は、ほぼ毎年物価が下落するというデフレの状況が続いていました。振り返って、反実仮想と言うのでしょうか、実際はこうなったのだけれど、こうではない政策を採っていたら、そうでない形になったでしょうという話で、これは理論的にしっかり分析しないとなかなか分からないことですので簡単には言えないのですが、振り返ってみると1つは金融機関の不良債権の問題が、1997年にいよいよ大手金融機関が破綻するというところまで来てしまったということです。この点については、もう少し早く、そして的確に不良債権の処理を進めていけば経済の回復にもつながったのではないかということは一般的に言われていますので、それはそうかなと思います。もう1つは、私自身、大蔵省の国際局長や財務官をやっていた時の経験なのですが、時折、ファンダメンタルズに則さない異常な円高みたいなものが起こり、それが続いてしまうと景気に悪い影響が出るだけでなくデフレを加速するという面もありますので、物価が上昇せず、名目GDPも増えないというもとで、経済の停滞が続きました。やはりデフレを抑止するということは、経済の持続的な発展のためにも不可欠であると、その意味でもデフレの状況が長く続いてしまったということは、やはり問題は大きかったのかな、と思っています。任期云々とか日銀総裁の資質について私が何か述べるのも僭越ですが、各国の中央銀行総裁も同じことだと思いますが、やはり、経済や金融市場は変化するわけですので、そうした経済の状況、実態をよく踏まえるとともに、今申し上げた政策の議論、こういう政策を採ればこうなる、違う政策を採れば 違うようになる、というのは現実をいくらみても出てこない理論の話ですから、現実を十分踏まえるとともに、経済や金融に関する理論的な理解がやはり必要 なのかなと思います。私がそうだと言うつもりはないのですが、先進国の中央銀行総裁をみて頂くと、皆さんそういう現実の把握能力と理論的な分析能力を持っておられるのではないかと思います。もう1つは、これだけ経済や金融が国際化している中では、国際的な観点というか、国際的なヒューマンネット ワークというのも必要になってきているのかなと思いました。

Q:先程、賃金上昇圧力は着実に高まっているというお話がありましたが、本日かなり好調な決算を発表したソニーでも、ベアに対しては慎重な姿勢を示しています。ですから、賃金上昇圧力は高まっているけれども、賃金を上げるという実行に至っていないというような段階なのかなとも見えるのですが、そうした中で企業の賃上げのスタンスが積極化するためには、これから先、何が必要だと考えていらっしゃるでしょうか。また、そのような積極スタンスに変わるまでには、どのくらい時間がかかると見ていらっしゃるでしょうか。
もう 1点、賃金がなかなか伸びない背景になるのかも知れませんが、シェアエコノミーの拡がりですとか、技術革新によるビジネスの構造変化のようなものが、賃金がなかなか上がらない背景にあると考えていらっしゃるでしょうか。


この点は、日本のみならず、各国でも議論されているところです。つまり、日米欧とも経済は順調に成長しているわけですが、その割には賃金上昇が起こっていないということでして、その背景に何があるのか、ということです。その背景に、今おっしゃったような技術革新とかビジネスモデルの展開とか、そういうことがあるのではないかという議論は、特に欧米で強いわけです。 それは日本でも起こりつつあるのですが、日本の場合は、一方で毎年50万人から100万人、生産年齢人口が減っています。技術革新によって一部労働に代替するようなことが起こっても、他方で物凄い人手不足がありますので、それで失業が増えたり人手不足が解消する、そして賃金が上がらないというような 感じには、日本はあまりなっていないと思います。ただ、欧米ではそのような議論が一部にあることは事実です。そうしますと、日本で特にこれだけの人手不足と言われている割には賃金がなかな か上がっていかないのはなぜだろうかということなのだと思いますが、賃金は上がっていないわけではなく、この 4年間ベアも行われていますし、賃金全体としてもおそらく2%程度は上がっていると思います。いわゆる正規の職員のベアはあるのですが、正規職員の賃金の上昇率が非常に鈍いということです。 他方でパートその他の非正規職員の方の賃金は 2%台半ばの上昇を続けています。その背景の1つは、将来の成長予測がしっかりしていれば、それにあわせて設備投資もするし、人も雇うし、あるいは価格も上げていけるので、賃金も上げようという気になるのでしょうが、先程申し上げたように1998年から2013 年までデフレが続いて、企業としては、低成長、デフレという中で生き延びてきたわけですので、この4年間経済が成長し、賃金も少しずつ上がっているとは言っても、将来について強い期待をまだ持てていないのかもしれません。そうした将来の成長期待というものがもう少ししっかりしてくると、投資もするし、人も雇うし、そのためにも賃金も上げるし、更には価格も上げていけるということが出てくると思うのですが、まだそこまで十分いっていないという面があるのかなと思います。
もう1つは、日本の労働市場が正規と非正規でかなり分断されていることで、労働需給の逼迫が非正規の市場では非常にはっきり出てきて2%台半ばから後半の賃金上昇になっているわけですけれども、正規の方の労働市場というのは、やや別の世界で春闘で毎年1回の賃上げ交渉という形になっていることもあって、やや遅れ気味なのかなと思います。
ですから、欧米のように技術革新とか、あるいは移民とか、そうした要素で賃金の上昇圧力がなかなか高まっていないということではなくて、むしろデフレマインドを払拭して将来の成長予想が高まってくれば、賃金ももっと上がっていくでしょうし、それから、労働市場ももう少し均質化していくと、 より賃金が上がりやすくなってくるのかなと思っています。なお、賃金が経済の動向に比べてそれほど上がっていないというのは、先程申し上げたように日本だけではなく欧米もそうなのですが、その背景は色々あると思います。ただ、日本と欧米と違うのは、日本も賃金はそれなりに上がっているのですが、物価が上がらないということです。名目賃金の上昇に伴うコスト増加について、省力化投資とかビジネスモデルの変更という形で対応し、価格に転嫁をするのをやや慎重にしているということの方が大きいのかなと思います。日本の場合は賃金の部分と賃金の上昇を価格に転嫁するという2段階で、やや実体経済の回復に対して遅れがみられるということかと思います。

Q:2点伺います。確認ですが、ETF買入れの関連で6兆円と書いてあるのは、国債の80兆円と同じ程度、目安で、結果的に全然違う金額であっても、これはあり得るという理解で宜しいでしょうか。2点目は、一部で総裁の記者会見での表情に政策のインプリケーションがあるのではないかというAI分析等が出ていますが、ご所見があればお願いします。


前段のご質問については、もちろんそこは違うわけです。「イールドカーブ・コントロール」は、毎回の決定会合後の公表文でもはっきり示されている通り、短期金利と長期金利の2点をコントロールして、適切なイールドカーブの形成を促すことが金融市場調節方針の基本です。それを実現するために長期国債の買入れを行うわけですが、その買入れ額は約80兆円は「めど」であって、あくまでも「イールドカーブ・コントロール」という2点の金利をコントロールしてイールドカーブ全体を適切な形にするように促すことに尽きるわけです。それに対してETFの買入れは、目的はリスクプレミアムを縮減することですが、別にリスクプレミアムの数値目標があるわけではありませんので、金融市場調節方針としては、年間約6兆円を買い入れるということが調節方針になっています。80兆円の「めど」と、約6兆円の買入れ方針の性格は全く違うということだと思います。
もう1つのAIについては、やっている方には申し訳ないですが、あまり意味があるかどうかよく解からないのと、私は特にそのようなことはしませんが、そのように特定の指標で判断するとなると、そのようにならないよう に人は行動しますので、いたちごっこになってしまうと思います。

Q:2点お伺いします。1点目は緩和長期化のリスクについてお伺いします。展望レポートでも、2019年度は特に東京五輪の需要の剥落などで、成長率が0.7%まで低くなると予想されています。歴史的に長い景気回復局面ですが、いつかは景気後退局面に入るのだと思います。いま、日銀は物価目標の達成時期を後ろ倒しにしても追加緩和をこの間行わなかったですし、かつその正常化にも向かっていない状況だと思います。今のまま金融緩和を続けていると、 例えば今後、数年以内に緩和が必要になった場合に、手段が相当限られるので はないかと思いますが、この動かないことのリスクについて総裁はどのよう にお考えになのかということをお伺いしたいことが1点です。
もう1つは総裁人事に絡みますけれども、総裁は来年4月までが任期で今目指していらっしゃる物価安定目標の道のりはまだ途上かと思います。続投を望む声もありますけれども、ご自身としてもう1期やりたいというお気持ちはございますでしょうか。


前段については、将来の何かの時のために今から引き締めましょうとか、そうしたことは本末転倒だと思います。あくまでも2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために現在の金融緩和を粘り強く続けていくということに尽きると思います。なお、政策委員の成長率見通しの中央値が2019年度 0.7%になっていることはその通りです。先程申し上げたように、設備投資の循環的な減速、それから消費税率引上げの影響といったことから成長率が若干鈍化するということだと思いますが、ご承知のように現時点での日本経済の潜在成長率は1%を若干割る0.8%とか、そういう状況です。潜在成長率が2%に向けて上がっていかない限り、今のような1.5%とか2%に近い成長をずっと続けるということはあり得ないわけです。ですから2019年度に0.7%となるので景気後退ということではないと思います。むしろ、景気の拡大が続いている、ただ、今申し上げたような事情から2017年度、2018年度よりも減速する、ということであって、そのもとでも物価上昇率は着実に2%に向けて上昇していくとみています。

Q:先程、グローバルなヒューマンネットワークの大切さをご指摘されました。1つはそれに絡む質問ですが、米国FRBの議長について、まもなくトランプ大統領が指名するだろうと言われています。別にこの場では人事の事を お伺いしたいのではなく、新しくFRBの体制が決まった時の新議長の課題は、総裁から見てどのような点が重要なポイントになってくるのかをお伺いします。
もう1点、FRBおよびECBが、出口ないしはテーパリングのプロセスに入っていると思います。その中で日本銀行が粘り強く金融緩和を続けて いくことは、その2つの中央銀行と日本銀行との政策のギャップが当然に生じるわけで、例えば為替のマーケットで、今まで以上に日本銀行の政策に対する注目度が高まることが予想されると思います。それに対する総裁のメッセージの発出の仕方を改めて整理して頂ければと思います。


FRBの議長人事等々について私から何か申し上げるのは大変僭越ですので、具体的なことは申し上げるつもりはありません。FRBの課題という 点で言えば、米国経済は4-6 月、7-9月と3%成長という極めて順調な成長を遂げています。もちろん米国経済の中長期的な潜在成長率は、おそらく2% 台の半ばだと思いますので、3%がずっと続くことは潜在成長率自体が引き上げられない限りは無理だと思いますが、現状、極めて順調に経済成長が進んで います。そのもとで特に消費がしっかりしていますが、設備投資も出ていますし、輸出も増えているということで、内外需がバランスのとれた形で増加しています。既に米国経済の拡大は100 か月くらい続いていると思いますが、まだまだ続きそうな感じです。そうした中で金融政策の正常化が始まっているわけですので、最大の課題と言いますか、当然そうされると思いますが、順調な経済成長のもとで金融政策のノーマライゼーションを徐々に進めていくということで、当然、経済や金融市場の動向をよく見ながらやっていかれるのだろうと思っています。
また、そうしたFRBあるいはECBなどの金融政策と、日本銀行の金融政策とでは、前提となる物価の動向が違います。日本銀行は強力な金融緩和を粘り強く続けるので、そうした面からは円安になる傾向があるだろうことは、他の事情が等しければその通りです。しかし、私も為替については随分長いこと色々な形で関係してきましたが、為替というのはなかなか一筋縄ではいかないものです。ご指摘のように、「金融政策のギャップから、円安ドル高、円安ユーロ高となるでしょう」と言われても、他の事情が等しければそうですが、「他の事情」はいつも等しいというわけではないので、実際にそうした観点から海外の注目が集まるかどうかも分かりません。為替がどのように動くかは、なかなか予測が難しいということではないかと思います。

Q:最近、メガバンクが相次いで人員削減や店舗閉鎖などの計画を明らかにしています。その背景に、超低金利の金融緩和政策による収益構造の悪化も一因にあるのではないかと言われていますが、現行の金融政策が長期化すれば 金融機関の影響は更に大きくなります。それについて、総裁の受け止めと見解 をお聞かせ下さい。2点目は、現状、足許で原油価格が上昇基調にありますが、11月のOPEC会合では加盟国が減産延長を決めるとの観測もあります。今後の物価 上昇の下支えにこれが寄与するのかどうか、総裁の考えをお聞かせ下さい。


メガバンクがどのようにされるのかは具体的に聞いているわけではありませんし、個々の金融機関の経営判断についてコメントするのは適切でな いと思います。一般論としては、人口減少、地方の過疎化といった構造的な要因があって、これにどう対処するかが、地域銀行であれメガバンクであれ、基本的な課題であると思っています。その中で、ITなどを活用して更に業務の 効率化を進めること自体は正しいことですし、それぞれの金融機関の経営判断のもとで効率化を進めていかれることは当然だろうと思っています。
原油価格については、あまり将来の見通しを述べるのは適切ではないと思います。原油価格が大きく動くと日本の消費者物価の動向も変わりますので、非常に大きく動いた時は、政策委員の見通しを立てる場合の前提を共有しようということで、先物市場の原油価格を参考にして前提を置き、見通しを作 ることとしたわけです。大きな変動がない中ではそうしたこともしていませんので、各政策委員がそれぞれの考えで物価の見通しを作っています。そうした中で、私から原油価格の先行きについて、とやかく申し上げるのは適切でないと思っています。

Q:総裁の責任と異次元緩和の長期化リスクについて、お伺いしたいと思います。今の異次元緩和が来年の4月まで正常化に向かえないというのはほぼ確実な情勢ですけれども、いまだ出口の議論さえできないまま次の総裁にこの政策を引き継がざるを得ないということについて、総裁ご自身の責任をどうお考えなのかということが 1つです。また、この政策が5年を超えて、更に 6、7、8 年と長期化する可能性もいまや否定できないと思うのですが、その時のリスクを総裁はどうお考えなのかをお聞かせ下さい。


2013年以来進めてきた「量的・質的金融緩和」について、今ご質問された方がそれをやらないでいて景気がもっと悪くなり、物価がもっと下がった方が良いとお考えでしたら別ですが、そうでない以上は、私どもは最も適切な金融緩和をしてきた、それによって経済は成長し拡大していると、そうしたもとで物価についても徐々に改善がみられており、今の見通しでは2019年度頃には2%程度に達する可能性が高い、と考えています。正常化の議論については、米国の場合もそうですし、欧州の場合もそうですが、あくまでも「物価安定の目標」というものが達成された、あるいは達成されるという状況のもとで進めていくことが正しい責任であると考えています。

Q:長期化リスクについてはいかがですか。


長期化リスクとは何を指しておっしゃっているのかよく分かりませんが、金融政策は物価の安定のために行っているわけです。その達成に向けて、最大限の努力を払っている、ということに尽きると思います。

Q:2点伺います。1つは物価で今回7月の見通しから足許の見通しを下げたわけですが、この理由は何だったのか教えて下さい。先程、企業の成長期待が低いことが1つ背景にあるとのご説明がありましたが、今後物価が上がっていく見通しには、成長期待も上がっていくというお考えなのかどうか教えて下さい。もう1つはETFの買入れについてです。効果と狙いについては先程ご説明頂いた通りだと思いますが、買うことのリスクや副作用についてどうい う認識をお持ちか教えて下さい。

第1の物価の見通しについてですが、前回の7月の展望レポートから足許変えた最大の理由は、携帯電話の通信料が大幅に下がったことです。全体として経済が非常に強い割には物価がなかなか上がっていかないことの背景 は従来から説明している通りですし、今回の展望レポートでも同様の説明をしています。
ETFの買入れについては、現時点で株式市場の時価総額の3%程度を買い入れたところですが、従来から申し上げているように、リスクプレミアムを縮減して経済・物価にプラスの影響を及ぼすことを目的にしており、株価をターゲットにしてやっているわけではありません。そうしたもとでどういったリスクがあるかですが、ETF自体はご承知のようにパッシブな運用の 1 つであり、他の一般の方や企業もETFを買って何ら差支えないわけですので、ETF自体に何か大きな問題があるとは思っていません。仮に問題があるとすれば、株式市場の相当部分を日本銀行が買うことになるとマーケットの価格に非常に大きな影響を与えているのではないかということになるかもしれませんが、先程申し上げたように、3%程度の保有であり、現時点では何か大きなリスクがあるとは考えていません。

日銀総裁会見

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