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2017年1月31日 日銀総裁会見ノート

金融政策決定会合

本日の決定会合では、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)のもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定した。すなわち、短期金利について日本銀行当座預金のうち政策金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ金利操作方針を実現するよう運営する。また、長期国債以外の資産の買入れについては、これまで通りとする。

展望レポートより

我が国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。海外経済は、新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は持ち直している。国内需要の面では、企業収益が高水準で推移し、業況感も幾分改善するなかで、設備投資は緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しを続けている。この間、公共投資は横ばい圏内の動きとなっている。以上の内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗を反映して、鉱工業生産は持ち直している。わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。先行きのわが国経済は、緩やかな拡大に転じていくとみられる。まず国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。
この間、海外経済は、先進国の着実な成長が続き、新興国経済の回復も、その好影響の波及や各国の政策効果によって、次第にしっかりとしたものになっていくことから、緩やかに成長率を高めていくと予想している。こうした海外経済の改善を背景として、輸出も、基調として緩やかに増加するとみられる。以上のもとで、わが国経済は、2018年度までの見通し期間を通じて、潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる。実質成長率の見通しを従来の見通しと比べると、GDP統計の基準改定に伴うGDPの上方修正に加え、海外経済の上振れや為替相場の円安方向への動きなどを背景に、幾分上振れている。
物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。先行きの物価は、消費者物価の前年比は、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。今回の物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である。2%程度に達する時期は、見通し期間の終盤(2018年度頃)になる可能性が高い。
リスクバランスは、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きい。物価面では、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタム(勢い)は維持されているが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要がある。なお、展望レポートについては、佐藤、木内委員から消費者物価が見通し期間中には2%程度に達しないことを前提とする議案が提出され否決された。日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作量的・質的金融緩和」を継続する。消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行う。また、今回の決定会合では、貸出増加を支援するための資金供給」、「成長基盤強化を支援するための資金供給」、東日本大震災および熊本地震にかかる「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション」等の措置について、受付期間を1年間延長することを決定した(全員一致)。

Q&A

Q:トランプ氏大統領就任で米国や世界経済、金融市場にどのような影響がある?


新政権のもとで減税インフラ投資などの積極的な財政運営によって、米国の経済成長率や物価上昇率が高まる期待から、米国の長期金利は上昇し株価は史上最高値圏内で堅調に推移している。現時点では、新政権の経済政策の具体的な内容は明らかになっていないが、米国の政策運営は米国経済だけでなく、世界経済や国際金融市場に大きな影響を及ぼすため、新政権の政策運営の方向性あるいはその影響については注視していきたい。

Q:マイナス金利導入決定から1年。その効果と影響は?反省点は?


日銀は、2016年1月の決定会合からマイナス金利付き量的・質的金融緩和を導入した。その後の国債金利イールドカーブ全体を低下させ、これが貸出金利あるいは社債金利の低下にしっかりと繋がっていた。ただ、2016年前半は、経済の減速や様々なリスクの顕在化によって国債金利市場は不安定化し、日本経済は逆風に見舞われた。こうした中でマイナス金利のもとでの極めて緩和的な金融環境というのは、企業が家計の経済活動をサポートしたと考えている。この間、金融機関の貸出態度は引き続き積極的で金融仲介機能の悪化は伺えないが、金融機関の利鞘は縮小している。また、超長期金利などが過度に低下すると、保険、年金などの運用に大きな影響が出て、マインド面を通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある。これらを念頭において、昨年9月に総括的検証を行い、それまでの政策枠組みを強化する形で長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入した。現在の枠組みでは、経済、物価、金融情勢を踏まえて、2%の物価安定目標の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促していくことにしている。その後、世界経済の成長のモメンタムが高まり、グローバルに長期金利が上昇するもとでも日本の長期金利は操作目標のゼロ%程度で安定的に推移している。イールドカーブコントロールは、世界経済が追い風に変わる中で、それを増幅し、強力な緩和効果を発揮していると見ている。
このように、マイナス金利導入以降の金融政策運営は、2%の物価安定目標の実現に向けて必要かつ適切な政策であると考えている。

Q:米国の保護主義による下振れリスクは?またその先行き不透明感による春闘の賃上げへの影響は?


政策委員も下振れリスクの方が大きいと見ている。その内容やリスクは展望レポートに書いているが、米国、欧州、新興国、資源国経済等々、重要ポリティカルの問題を含めて様々なリスクがありうることが示されている。米国の新しい経済政策については、まだ政権発足から間もないためはっきりしないが、減税やインフラ投資など積極的な財政運営によって、米国の経済成長率や物価上昇率が高まるとの期待から既に市場では長期金利上昇、株価堅調となっています。それがどれぐらいの上方・下方リスクになるかは各委員色々な考えを持っていると思うが、米国は雇用・所得環境は着実な改善を背景に家計支出を中心にしっかりした回復が続いているし、積極的な財政政策の効果もあって、国内民需を中心に成長が続くというのが市場の主要な見方だと思う。それに多くの委員も意見を共有してしていると思うが、具体的にどの部分がどれだけ下方リスクになっているかは、それぞれの委員の意見だと思う。
春闘については、展望レポートに示しているが、日銀は単に物価が上がればいいとしているのではなく、企業収益の増加、雇用の増加、賃金の上昇を伴いながら、物価が緩やかに上がる好循環を目指している。企業収益は過去最高に近い水準で推移しているし、失業率も3%程度まで低下、有効求人倍率は上がり、労働市場はタイトな状況が続いている。したがって、世界経済における下振れリスクはありうるが、賃金が上昇する環境は十分整っているのではないかと思っている。

Q:トランプ氏は日本を名指しで貿易赤字等に不満をもらしている。トランプ政権そのものがリスク要因となる?また、現在の円安は政策の効果?


トランプ政権の動向は今後も見ていく必要があるが、一般的に減税やインフラ投資などのマクロ政策面では経済成長を押し上げると見れる。他方で、保護主義的な政策というのは、世界貿易を縮小させたり、世界経済の成長を減速させたりする懸念があると思う。後者に関しては、G7やG20あるいは、WTOIMF等々で自由貿易の重要性というのは国際的に認識されているので、世界的に保護主義が大きな形で拡がる可能性は少ないだろうと思っている。
日本の金融政策はあくまで物価の安定を目的としているので、為替レートの水準や安定を目標にしていない。為替は金利格差が他の事情にして一定であれば、一定の影響を与えるということは理論的に究明されているが、為替市場を巡る要因には様々なものがあるので、日米の金利差だけで為替レートが決まるものではない。いずれにしても、為替政策は財務省が所管しているもので、日銀は従来から国際的に合意されているファンダメンタルズ(基礎的条件)を反映して安定的に推移することが望ましいと認識している。

Q:トランプ氏の入国禁止の大統領令で大混乱しているが、自由の国でこれが起こっていることをどう思う?また大統領令による混乱で世界経済は?


入国管理は各国の政策の問題。日本銀行が関与する問題ではない。ただ、米国は基本的に自由な国。移民がたくさんいる国。それは今でも変わらないと思っている。
大統領令は米国の法制の中で成り立っているので、コメントは差し控えたい。

Q:浜田氏が最近金融政策だけでなく財政の拡大が必要と発言しているが?


それは浜田氏に聞いてもらいたいが、物価により大きく影響を与えるのは金融政策と一般的に学会でも実務会でも理解されている。また、経済政策の運営では、物価がただ上がればいいというものではなく、企業収益が改善し、雇用が改善し、賃金が上がる中で物価が上がっていくのが望ましいので、日銀は物価安定目標を早期に実現するために金融政策を運営していく。政府は短期的には景気対策、中長期的には財政の健全性や持続可能性を高めていくと同時に、規制緩和等の構造政策、成長政策によって持続的な潜在成長率を押し上げていくこと、これらの政策を総合的に活用してデフレ脱却して持続的・安定的な成長に日本経済を持って行く。ゆえに、金融政策だけで全てが行われるものではない。最近のG20やIMFがthree pronged approahと言って、金融政策、財政政策、構造政策をそれぞれの国の事情に合った形で活用してバランスのとれた政策、物価の安定をもたらすと言っており、日本銀行もそれを共有する。

Q:物価上昇の環境は整ってきていそうだが、予想物価上昇率は弱含んでいる。なぜ?また物価上昇で春闘の賃上げ期待は大きい?


需給ギャップは縮小してきており、労働市場、雇用状況はタイトになってきている。ゆえに、予想物価上昇率自体は弱めに推移しているが、内訳では下げ止まりや上昇しているものもある。今後は2018年度頃に向けて物価2%程度に達すると見通している。日本は予想物価上昇率が足元の物価上昇率に大きく影響される傾向から言うと、需給ギャップがタイトになり石油価格のマイナスの影響が剥げ落ちていくことによって実際の物価上昇率が上がっていくと予想物価上昇率もそれに応じて上昇するのではないかと期待している。
賃上げについては、基盤は十分整っていると思う。企業収益は過去最高水準、雇用情勢もタイト。ゆえに春闘で賃上げが進む基盤は整っている。どのくらい期待しているかは僭越なので、「期待している」ということ。

Q:物価2%は2018年度頃の見通し。今のペースで国債買入れを続ければ長期国債は500兆円を超える。当座預金も2018年度中に500兆円が視野に入る。岩田副総裁は2015年8月の国会答弁で、出口の過程で金利を引上げる時、当座預金に払う金利が日銀保有の国債利回りを上回り、逆鞘が生じる可能性がある、どれぐらいの逆鞘が生じるかを内部でシュミレーションして検討している、と発言していた。日銀のバランスシートの将来の損失についてシュミレーションしている論文が出ているがそれは知っている?


この場は、金融政策決定会合の結果を説明して、それに対する質問を受ける場で演説の会場ではないので、その点については答えるつもりはない。いずれにしても、私共が常に申し上げていることは、あくまで最も重要なのは、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現すること。これは、2013年1月に日本銀行が決定し、かつ政府との共同声明でも謳っていること。それに向けて、実際の経済・物価情勢、あるいは金融情勢等を踏まえて最適の経済政策をやっていく。その際に、日本銀行の財務の状況については、もちろん十分配慮していくわけだが、あくまでも最も重要な目標というのは物価安定目標を達成すること。出口について今は時期尚早。その時の経済・物価情勢、あるいは金融情勢によって出口戦略も変わってくる。米国もかつて述べていた政策と逆のルートで今出口戦略を行っている。今時期尚早なことを言ってマーケットに余計な混乱をもたらすのは適切でない。いずれにしても、どのような出口戦略をとるかは2%道半ばの状況で具体的に申し上げるのは適切でない。出口に際しては、バランスシートをどうするのかということと、金利をどうするのかということは重要なのはどこの国でも同じ。それをどう進めるかは、あくまでその時の状況。

Q:成長率見通し上方修正の理由に円安があるがトランプ氏はドル高は望ましくないと発言している。これまで米国は強いドル政策を推していたが、為替政策の変更も?また、通商と為替は別に考えるのがこれまでの国際約束だったが、トランプ氏はリンクさせる方向も。それによるマーケットと国際金融システムへの影響は?


為替の目安が成長率や物価に影響を与えるのは事実。ただ、各委員は円安が進むとか円高が進むとか、特定の見通しは持っておらず、過去の平均値を延長し、それを前提としている。今後円安が進んだり円高が進めば見通しも変わるが、為替については機械的な前提でやっている。
トランプ政権の政策に関する、特に通商や為替政策は日銀が担当している金融政策とは別の次元なので特に申し上げることはないが、財務省時代、為替政策を担当してきた経験から言えば、その時の為替水準がその時の経済動向としっくりいかないという時には、その時よりももっと通貨が強くなった方がいいとか、弱くなった方がいいということを考えたり、主張する傾向はある。為替は、ずっと強くなっていけばいいわけでもないし、弱くなっていけばいいわけでもない。あくまで経済のファンダメンタルズに即した形で為替が変動するのが望ましい、というのが合意事項。それ以上の通貨高政策や通貨安政策はあまりないのではないか。
通商と為替政策は、基本的にリンクしていない。通商はWTOの所管。為替政策はIMFの所管。国内では為替政策は財務省、通商政策は基本的に外務省、具体的にはそれぞれの産業担当官庁である経産省や国交省が管理する。ただ、経済に及ぼす影響としては通商と為替はインタラクトする可能性はある。制度的にはリンクはしていないだろうと国際的にも国内的にも思われる。

Q:ダボス会議では差引で米経済は上振れと発言していたが?オペ一部見送りでテーパリング観測があるが?


ダボス会議では、世界経済の発言を求められた。IMFがWEOを発したばかりで、WEOを見ると日本や米国の成長率は若干上方修正し、新興国は中国を除いて若干下方修正して、全体としては2017年、2018年ともに前のIMFの見通しと変わらなかった。日本については、IMFの見通しよりも高めを述べたが、米国についても市場が予想しているような減税やインフラ投資が行われればIMFの見通しよりも上振れする可能性があるのではないかということを指摘した。IMFはかなり慎重な見通し。
オペについては、長短金利操作付き量的・質的金融緩和のもとで、調節方針を政策委員会で示していただき、長短金利の操作目標を定めた上でこれと整合的な形で適切なイールドカーブが形成されるように国債買入れを運営している。よって、買入れの金額やタイミング、回数などは国債の需給環境や市場動向を踏まえて実務的に決定される。よって、日々の国債買入れオペの運営によって先行きの政策スタンスを示すことはない。

Q:これまでも企業収益最高水準で環境が整っている場面はあったが労使は物価見通しで要求するので賃上げはされてこなかった。労使交渉の在り方を変えて欲しいなどの思いは?


春闘の労使交渉は労使で決めるべきもの。中央銀行がとやかくいうものではないが、過去の実績をもとに労使交渉がされるとなると、石油価格の下落などによって物価上昇率が下がる、そして賃金、物価あるいは予想物価上昇率も下がるということになると、欧米のように予想物価上昇率が2%の物価安定目標に安価されているとなるが、日本の場合は一旦物価が下がると予想物価上昇率に影響して、石油価格が戻る過程でも賃金、物価上昇率が上がらないことになる。ただ、政府は将来の物価予想も勘案して賃金決定交渉にあたられてはどうかと言われている。経済界も合意しているので、そちらの方向に少しずつ向かって変わる可能性はある。

Q:トランプ氏は2国間の貿易赤字を問題視しているよう。政策の在り方として正しい?また中国のように自国通貨買いをしている国が「為替操作国」としての認定はありうる?


経済学者はグローバルな貿易収支については問題視するが、2国間については経済学的には意味がないと言うと思う。
為替操作国」の認定は、米国だけがやっていることで、米国の都合だけでやっている。日欧や中国はやっていないので何とも言えないが、IMFは各国の通貨について、アンダーバリュー、オーバーバリューされていることを時折分析して公表している。経常収支から分析するのではなく、資本収支の方から分析する。米国の為替操作認定基準とは違うし経済学者によっても意見が分かれるので何とも言えない。

Q:為替はファンダメンタルズに即して動き、それ以外はないと言ったが主旨は?


私の過去の経験から言って、各国はファンダメンタルズより通貨が高すぎると思う時は通貨を下げる主張をするし、インフレになりそうな時は通貨が強い方が好ましいという場合もあるので、常に通貨が強い方がいい、弱い方がいいと主張した国はあまりないので、その時々の経済情勢をその国が見て、適切と思われる通過水準を主張するということ。実際あるべき姿を言ったのではない。実際はファンダメンタルズに乖離して為替レートは動くが、基本的にはファンダメンタルズを反映して推移するのが望ましいということは広く合意されている。

日銀総裁会見

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