シェール増産による原油価格下落の影響
2016年11月にOPEC(石油輸出国機構)が原油の減産を合意して以来、WTI原油価格は安定的に上昇し50ドル台で推移していました。しかし、2017年3月3日にEIA(米エネルギー情報局)が公表した原油在庫は大幅に積み上がっており、米原油生産量は日量908.8万バレル(2016年7月1日時点では842万バレル)と増加基調。原油価格大きく下落しました。背景にあるのは米国のシェールオイルの増産です。
トランプ大統領は、エネルギー分野でも「米国第一主義」を掲げており、米国での原油や天然ガスの増産に意欲的です。シェールガスやシェールオイルの対アジアへの輸出も意欲的で、また、エクソンモービルなど石油メジャーもシェール事業に本格的に取り組み始めています。シェール事業は、大規模な油田開発に比べて投資額が少なく利益回収も早いメリットがあります。また、シェールの損益分岐点は40-70ドルとされているため、原油価格が50ドル台で推移していれば投資や生産をしやすい環境であり、シェールオイル増産で原油の在庫水準が積み上がっています。当面シェールの増産は続くとの見方が多いです。
シェール増産で原油価格が下落すると、OPECの減産効果が薄れてしまいます。OPECの盟主であるサウジアラビアは、OPECの約120万バレルの減産合意と非OPECの約60万バレルの減産合意を得て原油価格を引き上げてきましたがその効果が薄れてしまい、さらにサウジアラビアは「ビジョン2030」を掲げており、脱石油依存の構造改革を進めるためにサウジアラムコ(サウジアラビアの国営石油会社)の上場させることになっており、原油価格の動向はその上場価値を左右しますので、原油価格の下落は痛手となります。また、サウジアラビアは財政の赤字が膨らんでいます。ビジョン2030で投資主導経済への転換を目指していますが、他国からの投資を増やすために通貨リアルのペッグ制をやめて通貨安にする可能性も懸念されています。そうなれば近隣諸国もペッグ制廃止にする可能性があり、大きなリスク要因になる可能性も指摘されています。