2018年9月19日 日銀総裁会見 ノート

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調方針を維持することを賛成多数で 決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利については、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動し得るとしています。
わが国の景気の現状については、「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば着実な成長が続いています。そうしたもとで輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益や業況感が改善基調を維持する中で、増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも緩やかに増加しています。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しています。公共投資も高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移しています。

以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については、極めて緩和した状態にあります。先行きについては、わが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが 持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も海外経済の着実な 成長を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、0%台後半となっています。予想物価上昇率は、横ばい圏内で推移しています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態を続けることや中長期的な予想物価上昇率が高まることなどを背景に、2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。
リスク要因としては、米国のマクロ政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、保護主義的な動きの帰趨とその影響、それらも含めた新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、地政学的リスクなど が挙げられます。
日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続します。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

 

Q&A

Q:前回7月の会合で政策の修正を行われて、長期金利の変動幅を倍程度に拡げられました。その後1カ月半が経過しましたが、これによって国債市場の機能改善といった効果は出ているのでしょうか。もう1つ、8月にETF買入れについては金額がかなり減少したと思うのですが、これも政策修正に伴った買い方の変更などがあったことによる結果なのでしょうか。


A:7月の金融政策決定会合後の国債市場をみると、一頃よりも取引が活発化し、国債の値動きも幾分増していると思います。また、日本銀行が8月に実施したアンケート調査では、約3年ぶりに債券市場の機能度が改善したと答えた先の割合が、低下したと答えた先の割合を上回る結果となりました。
もっとも、例年、夏場は市場取引が細りやすく、実勢を見極めにくい時期であるため、このタイミングで今回の措置の効果を評価するのはやや性急かと思います。日本銀行としては、今後、国債買入れを弾力的に運営していく中で、経済・物価情勢等に対する市場参加者の見方を反映し、従来よりも柔軟に金利が形成されることなどを通じて、国債市場の機能度が向上していくことを期待しています。
ETFの買入れにつきましては、株式市場におけるリスク・プレミアムに働きかけることを通じて、経済・物価にプラスの影響を及ぼしていく観点から実施しているわけですので、具体的な買入れ額は7月の決定会合で示した通り、その時々のリスク・プレミアムの状況に応じて上下に変動し得るということです。リスク・プレミアムの状況については、単一の基準に基づいて判断するわけではなく、多くの市場参加者と同様、株価の変動のほか、企業収益や配当の動向を含め、様々な指標の動きを踏まえながら、総合的に判断しています。この点は7月以前から変わっていません。8月の買入れ回数が少なめであったことも、こうした判断に基づいて買入れを進めた結果であり、買入れ額について何らかの予断を持っているものではありません。なお、9月入り後は、既に5回の買入れを実施しており、買入れ額も8月に比べて大きく増加しています。

 

 

Q:大規模金融緩和に伴う副作用についてお尋ねします。総裁はこれまで金融仲介機能について特に問題は生じていないとの認識を示していますが、今後、例えば景気が悪化した際には不良債権の増加などに伴って、一気に金融仲介機能の悪化が顕現化する懸念も指摘されています。そうした事態にも備えて、更なる副作用への対策や予防措置をとる必要がないのか、現時点での総裁のお考えをお願いします。


A;従来から金融システムレポートなどでも報告しています通り、わが国の金融仲介活動そのものは銀行貸出を中心に引き続き積極的な状況にあり、景気の緩やかな拡大を支えていると考えています。こうしたもとで、わが国の金融機関は、仮にリーマンショックのようなテールイベントが発生した場合でも、資本と流動性の面で相応の耐性を備えており、全体としてわが国金融システムは安定性を維持していると考えています。
一方で、金融機関の基礎的収益力は、人口や企業数の減少のほか、低金利環境の長期化から、趨勢的に低下していることも事実であり、この点が将来的に金融機関のリスクテイク姿勢の消極化を通じて金融仲介機能の制約となることがないか、しっかりと点検していくことが適当と考えています。
金融政策運営面では、2%の物価安定の目標の実現に時間がかかることが見込まれる中、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが不可欠と考えています。日本銀行としては、今後とも金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえながら適切な政策運営に努めていく方針です。

 

 

Q:今回、決定会合のステートメントの中の4番目にリスク要因をまとめて、現在考えられるものを挙げられています。7月の決定会合以降も、トルコリラが安くなるなど金融市場の動揺もありましたし、足許ではトランプ政権による中国への第3弾の制裁関税といった要因が出ていますが、リスク要因が徐々に膨らんできているという判断があったのでしょうか。
もう1つ、ここ1カ月余り、国内では災害が相次いでいて、関西や北海道でインバウンド需要が今後懸念されている状況ですが、その辺りのリスクについては今回どのように話し合われたのでしょうか。


A:前段については、今回の公表文でもパラグラフ4で海外発のリスク要因を挙げています。トルコやアルゼンチンなどの一部新興国の為替の急激な下落、通商政策における保護主義等、色々な動きが生じていることは事実ですが、そうしたリスクをどの程度とみるかは色々な議論があると思います。例えば、IMFは、今年の春と先日G20が行われた際の世界経済の見通しを、全く変えていません。世界経済は2018年、2019年といずれも3.9%で成長するとみており、通商問題等を含めてリスクが若干強まっているとは述べています が、今のところ、それによってメインシナリオが変わるような状況にはなっていないというのがここで示されているIMFの見方です。私どもも、そうした見方をしており、リスクの内容が変わったとか、メインシナリオに影響が出てきているという話ではないということです。
2番目の自然災害の話については、まず犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げます。私どもとしましても、本支店を通じて、銀行券の供給や資金決済に万全を期しているほか、一連の災害の影響に関する情報収集と分析を行っています。現段階ではそれぞれの被災地で浸水や停電によって物流インフラに被害が及んだり、生産設備や小売・外食の営業が停止するなどの影響がみられたことは事実ですが、地域によって差はあるものの、生産設備や被災店舗の復旧はかなり進んでいるようです。現段階では、経済的な影響は概ね一時的なものにとどまるような感じを受けていますが、引き続き情報収集と分析を行っていきます。確かに観光業については、予約のキャンセルや新規予約の減少といった、インバウンドへの影響なども懸念されており、こうした動きが長期化することがないかなど、一連の災害が地元経済あるいは日本経済全体に与える影響をしっかり点検してまいりたいと思っています。金融政策決定会合でも、自然災害の影響についての議論はあったわけですが、今申し上げたようなものであり、現時点でこれが日本経済への重大な影響をもたらしているということではありませんが、インバウンドを中心とした観光業など、地域経済に対する影響は十分注視していく必要があると考えています。

 

 

Q:昨日、麻生財務大臣が閣議後の会見で気になる発言をされています。本当に物価上昇率2%になるなんていうことを責任を感じて不必要なことをやるのは止めた方がいいということに関しては、政府・日銀の両方で一致をしていました、とおっしゃっています。これはつまり、2%というのは達成しなくてもよいという認識を、早い段階から政府・日銀で持っていたということなのでしょうか。


A: 麻生大臣の発言が報道されていることは知っていますが、詳細は承知していません。2013年1月の政府と日本銀行の共同声明にも謳われていますように、政府と日本銀行は、デフレ脱却と持続的な成長のために様々な政策的努力をしています。日本銀行としては、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために金融緩和を大胆に行ってきています。確かに、2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現しようということで始まったわけですが、2014年の夏以降、原油価格が大幅に下落したことから、足許の物価上昇率が下がり、それがいわゆる適合的期待という形で中長期的な物価上昇の予想にも影響を与え、全体として 2%の物価安定の目標がいったん遠のきました。他方、様々な金融政策上の措置を講じることを通じて、再び物価上昇率は上昇してきているわけですが、依然として生鮮食品を除く消費者物価の上昇率は1%を若干下回ったところで推移しています。時間がかかっていることは事実ですが、私どもとしては、2013年1月の金融政策決定会合の決定あるいはそれを踏まえた政府との共同声明に謳われている通り、引き続き2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成すべく金融緩和を続けるという点に変化はありません。ただ当初2013 年4月に考えていたよりも時間がかかっており、従って粘り強く金融緩和を続けて、2%の物価安定の目標を達成する必要があると考えています。

 

 

Q:安倍総理が自民党総裁選の候補者討論会の中で、異次元緩和から出口に向かうことについて、次の総裁任期のうちにやり遂げたいという発言をしています。これから3年で異次元緩和の幕引きというのができるのかどうかというところが疑問なのですが、どうなのでしょうか。


A:総理の発言について具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますが、政府と日本銀行はこの5年間、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために必要な政策を実施してきています。そのもとで、ご承知のように雇用や企業収益その他を含めて、わが国の経済情勢は大きく改善していますし、物価についても、既に物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっています。ただ、2%の物価安定の目標はまだ実現できていませんので、日本銀行としてはその実現に全力を尽くしてまいりたいと思っています。もちろん、2%を達成しても今の異次元の金融緩和をずっと続けるということはないわけで、あくまでも2%を達成して、そういった状況にしていく必要があると考えています。

 

 

Q:先程触れられた政府とのアコードのところですが、自民党総裁選の後、安倍首相が再選をされますと、アベノミクスの見直しであるとか、そういった議論も出てくることが予想されます。この中でアコードについて何らか見直す必要があるのかどうか、総裁のお考えをお聞かせください。


A:アコードという言い方はしていないと思うのですが、政府と日本銀行の共同声明の中では、政府と日本銀行のいわば役割分担を非常に明確に示しています。日本銀行としては、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現すべく金融緩和を行うということですし、政府としては、短期の景気対策ということも必要ですが、中長期的には財政の持続可能性を高めるような政策をとるということです。民間主導で潜在成長率が高まることを支える規制緩和、その他各種の成長戦略を講じることも共同声明で謳われており、私自身としては、こういった共同声明を見直す必要があるとは思っていません。先程申し上げたように、この5年間、政府と日本銀行は力を合わせてデフレからの脱却と持続的な経済成長の実現のために努力してきています。実体経済の面では、極めて大きな改善がみられているということは事実ですが、例えば政府が色々考えておられる働き方改革にしても、その他技術革新の促進であれ、地域経済の活性化であれ、色々な構造改革・構造政策はまだ途上です。財政の中長期的な持続可能性を高めるというのもまだ途中ですし、日本銀行の 2%の物価安定の目標を達成するというのも、まだ途中ですので、この共同声明は依然として有効かつ必要であると思っています。日本銀行としては、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現すべく金融緩和を進めるという、2013 年1月のコミットメントは有効であると考えています。

 

 

Q:先程お話があった通商問題の世界経済や日本経済への影響についてですが、貿易量の減少に伴う世界的な需要の減退という懸念がある一方で、サプライチェーンがグローバル化している中で、供給面への影響も考えられると思うのですが、総裁は今の時点で、貿易問題が日本経済や世界経済に波及する ルートとその程度についてどのようにお考えか、もう少し詳しくご説明頂ければと思います。


A:今回の公表文にもある通り、保護主義的な動きは通商問題で紛争が起きている当事国だけではなく、グローバルサプライチェーンその他を通じて、世界経済全体に影響を及ぼす可能性があることはその通りであり、私どもも非常に関心を持って、懸念しつつ状況をみております。IMFその他の国際機関も、一定の前提を置いて、この通商問題、保護主義的な動きによる世界経済への影響を試算していますが、そうした数字をみると世界貿易に直接的な 影響がある部分はそれほど大きくないようにみえます。他方で、それが企業や家計のマインドに影響を与えて、投資や消費に影響が出てくると、大きな影響が世界経済にも及ぶという見通しを持っているようです。今のところはまだ貿易面への影響も具体的には出てきていないのですが、先程申し上げたように世界経済全体として複雑な多国間の貿易・投資関係が成立しており、特定の2国間の問題が、その2国だけにとどまることなく、非常に幅広い影響を及ぼし得るので、単にNAFTAの問題や米国と中国との問題に限らず、世界経済・日本経済への影響を注視していく必要があると思っています。

 

 

Q:先程の総理の出口発言に関してですが、物価2%目標の早期実現に向けて緩和を強化すべきだ、というようにも発言内容から受け止められるのですが、日銀では7月の金融政策決定会合で、金融緩和の副作用にも配慮して政策修正を行ったと思います。金融緩和の副作用という面で、政府と日銀で認識に差があるような感じを受けるのですが、副作用についてどのように政府、日銀の違いがあるのかないのか、教えてください。


A:いわゆる副作用について、政府と日本銀行の間で考え方に違いがあるとは思いません。私どもも常日頃から金融庁や財務省とは、経済全体や金融システムに関する意見交換、情報交換をしておりますが、そうした中で、いわゆる副作用についての見解が違っているとは思っていません。なお、7月末の金融政策決定会合で、新しい強化された枠組みを決めた一番大きな理由は、従来は 2019年度頃に2%に達するとみていた物価の見通しが、もう少し先になるという見通しになったことです。展望レポートの中でも詳しく述べていますように、需給ギャップはプラスの領域にありますし、失業率も極めて低い、更には有効求人倍率も数十年ぶりの水準になっているのですが、実体経済の改善に比して、賃金、特に物価の動きがやや鈍いということです。その背景には、労働力が女性や高齢者の層から出てきているとか、様々な省力化投資で労働生産性が上がっているとか、更には企業側も組合側も雇用の安定に非常に重きを置いて、賃金の上昇がやや実体経済の改善に比して鈍いとか、様々な要因があります。2%の物価安定の目標に向けたモメンタムが維持されていることは確信していますが、これまで考えていたより少し時間がかかりそうだということで、強力な金融緩和を粘り強く続けるために、副作用に対する一定の配慮も示す必要があり、あのような形になりました。大前提は、モメンタムは維持されているけれども、従来考えていたよりも、もう少し長く金融緩和を続けなければならない状況だという判断があって、そのもとで副作用に対する配慮を行ったということです。あくまでも、強力な金融緩和を粘り強く続けるための金融緩和のフレームワークの強化が一番のポイントです。その中で、粘り強く長く続けるために、副作用に対する配慮をしたということです。

 

 

Q: 副作用の話もありましたが、個人の不動産運用を巡って、不適切な改竄があったとして一部の地方銀行が問題になっています。ある意味では銀行経営、あるいは個人の不動産運用が、低金利環境が長引く中で、銀行によっては無理のある運用となり、そこに向けて貸し出さざるを得なくなったような気がしています。金融機関、特に地方銀行経営、あるいは不動産向けの貸出等について、リスクの高まりは感じられないでしょうか。


A:ご指摘のように、特に地域金融機関においては、この15年、20年、地域の人口が減り、企業数も減っていることから、基礎的な収益力が低下しています。それに対応して、貸出や有価証券運用でリスクテイクを若干強化する、積極化しているということは事実です。収益力向上に向けた取組みを行っていることはある意味で当然なのですが、他方でまた当然のことながら、そうした取組みは適正に行う必要があり、金融機関で適切な経営管理体制、特にリスク管理体制を整備していくことが必要だと思います。これは直接的には金融庁の仕事かもしれませんが、日本銀行としても考査・モニタリング、あるいはセミナーの開催等を通じて、金融機関の収益力向上、そのためのリスク対応力強化に向けた取組みを後押ししていきたいと思っています。
住宅、貸家業向けの貸出については、ご案内の通り、実際には金融機関による貸家業向け貸出は、2017年度以降は伸びが鈍化してきています。特に地域銀行においては、相当減らしてきているようです。その背景には色々な事情がありますが、金融機関側で、こうした貸家業向けの貸出についてやや慎重化してきているということだと思います。これは、ある意味で適切な動きだと思います。金融システムレポートでもご覧頂けますように、貸家業向け貸出は依然として伸びており、マイナスになっているわけではないので、その辺りは十分注視していきたいと思いますが、現時点で金融機関、特に地域金融機関による貸家業向け貸出が、全体として過大というか、異常に増えて大きな問題になっているとは思っていません。

 

 

Q;前回の金融政策決定会合で、フォワードガイダンスという考え方、概念を新しく打ち出されてきたと思います。正直やや分かりにくいところがあるというか、国内外の投資家と話していても、それ以前にも、例えばオーバーシュート型コミットメントみたいな言い方もしているので、前回からフォワードガイダンスという概念が入ってきて何がどう変わったのか、市場関係者の解釈にもまだばらつきがあるように感じられます。前回導入されたフォワードガイダンスの意味合いについて改めて伺います。


A:2年前にイールドカーブ・コントロールという形で、それまで長期国債の買入れ目標を金融調節の基軸にしていたところを、長期国債の買入れによってではありますが、金融緩和の1つの大きな柱を量から金利の方に移し、非常に上手く機能しました。もともと量的・質的金融緩和が始まった時から、大量に国債を買うことによって直接的に長期金利を下げ、それが投資や消費にプラスの影響を及ぼして、経済の刺激になり、景気の拡大につながっていくと説明していましたが、調節方針自体は量でやっていました。それを2年前に金利の方に、長短金利のコントロールという形にして、量はそのために必要なだけ買うこととしたわけです。そうしたもとで、今の金融緩和のフレームワークの1番大きな柱はイールドカーブ・コントロールですが、それに加えてオーバーシュート型コミットメントというものも同時に入れたわけです。イールドカーブ・コントロールという形で長期国債の買入れ自体は内生変数になるのですが、経済活動や物価に対する影響の大きな柱であるマネタリーベースは物価上昇の実績値が2%を超えるまで拡大を継続する、一種のオーバーシュートをさせるというコミットメントを一緒にセットしました。フォワードガイダンスは、イールドカーブ・コントロールの長短金利について、早々に引き上げるのではないかとか、出口がそろそろといった意見も内外にあったため、2%の目標にはまだ遠いのでそういうことはしない、2019年10月の消費税率引き上げは、経済・物価の不確実性の1つの要素ですが、それを含めて全体として不確実性が残っている間は、当分の間、非常に低い政策金利と10年物国債の操作目標をこのまま低位で続けるということを明確にするために付け加えたコミットメントです。それによって、全体としての金融緩和のコミットメントを強く、より長く持続させて、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成しようという姿勢を示したものです。確かに3つ要素があるので、どういう関係なのか聞かれることはありますが、今申し上げたような形でできておりまして、それら全体として強力な金融緩和を粘り強く続けるというコミットメントを示しているとご理解頂きたいと思います。

 

 

Q:昨日、全国の地価が27年ぶりに上昇したという発表がありましたが、これに関連して2点お伺いします。まず1点目は、1990年代のバブル崩壊から地価と株価が下がり、いわゆる資産デフレという状況が長く続いてきたと思いますが、これは足許でどの程度解消されたか、この評価についてお伺いできますでしょうか。


A:ご指摘の点が水準であれば、日経平均も地価も1990年というか、1980年代末のレベルに全然戻っていません。ただ、あのレベルに戻らなければいけないというものでもないでしょうし、具体的には、経済・金融動向の中で、地価も株価も適切な価格形成が行われて、経済全体をスムースに回転させることになっているかどうかをみていったらよいと思います。そういう面からいうと、ご承知のように、今の株価は基本的に企業収益が向上し、足許で史上最高の水準にあることを自然に反映したものになっているようです。株価収益率もむしろ平均より低いぐらいの水準ですし、土地の価格も少し上がったところがあったということであって、地価がものすごく暴騰して将来問題を引き起こすとか、経済的にも不適当というような状況になっているとは思いません。

 

 

Q:日本銀行は、フォワードガイダンスで当分の間低い金利を続けていくというお話ですが、これに伴って金融政策が効きやすい不動産市場が過熱するリスクについては、今、総裁はどうご覧になっているでしょうか。


A:そこは半年毎の金融システムレポートでも詳細に分析していますし、不動産市場や不動産関連貸出については特に注意してみています。今のところヒートマップをみても、赤信号も黄色の注意信号もなく、青信号のままですので、今の時点で何か問題が起こっているとは思いません。ただ、引き続きそうした資産市場の動向はよくみていきたいと思っています。

 

 

Q:政策の長期化と出口の問題ですけれども、長期化によって地方銀行の経営が悪化する副作用の問題などはよく語られるところだと思うのですが、長引くことによってETFが積み上がるとか、国債が相当増えて結構財政の部分に食い込んでいる部分がだいぶ高まっているということになりますと、実際止めた時に相当反動が大きくなるのではないか、出口が難しくなるのではないかという指摘が非常に多くあると思うのですが、この辺りを総裁がどう考えていらっしゃるか、伺えますか。


A:一番重要なことは、政府と日本銀行の共同声明にあるように、デフレから脱却し、持続的な経済成長を実現することです。その中での日本銀行の役割は、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現することであり、そのために必要なことをやっているということに尽きます。そうした中で、2%に達した後も大幅な金融緩和を続ける必要はありませんので、当然、出口ということは議論になると思いますが、それが今の時点で金融緩和をしてはいけないとか、止める要因にはならないと思います。金融政策というのはいつも緩和のときと引締めのときとで経済や金融市場に与える影響を常にみていく必要があります。非伝統的金融政策も伝統的金融政策も、そういう意味では同じでして、私どもとしては、緩和によって経済・物価にどういう影響が出ているかとともに、金融情勢にどういった影響が出ているかもみているわけです。緩和のときも引締めのときも、日本銀行は常にそういうことをみてきている点には変わりありません。もちろん伝統的金融政策であっても、かつての公定歩合を大きく下げた後に上げたら、金融市場に影響が出るわけです。伝統的政策か 非伝統的政策かではなく、経済・物価・金融情勢と金融政策との関係がどうなっているかによりますので、私どもは今申し上げた通り、金融システム・金融情勢にも十分配慮しながら、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために必要な緩和を行っています。ETFや国債の問題についても十分配慮しながらやっておりますので、2%の物価安定の目標に向けた金融緩和を、それによって止めたり、途中で変えるという考えは持っておりません。

 

 

Q:先程もお話がありました自民党総裁選の討論会の中で、総理が次の任期中に出口までの道筋をつけたいという趣旨のことをおっしゃったのですが、本来出口というのは物価安定目標2%が達成されるということと、経済や金融の情勢などを踏まえて決めるものだと思うのですが、自民党総裁、総理の任期というところと関係がないのかなと思うのですが、どのように理解すればいいのかなというのを総裁のお考えを伺えればと思います。


A:総理の言葉に逐一コメントするのは差し控えたいと思いますが、いずれにせよ、金融緩和にしても、金融引締めにしても、いつまでも続けたいということはないわけでして、目標をできるだけ早期に達成して、正常化のプロセスに入りたいというのが、どこの中央銀行でも同じですし、当然のことだと思います。日本経済が過去から引きずっているデフレマインドの強さとか、予想物価上昇率がかなり低位にあるとか、労働市場やその他の様々な状況を踏まえると、従来考えていたよりも少し時間がかかるとは思いますが、できるだけ早期に2%を達成すべく金融緩和を進めるという点では、日本銀行の考え方と政府の考え方に違いがあるとは思いません。

 

 

Q:米国時間の先週末が、ちょうどリーマンショックから10年の節目でした。先程、総裁は今の日本の金融システムはあの程度のテールショックでも耐えられるとの見解でしたが、危機というのはいつも新しい顔を持ってやってくるものだと思います。本当に、今の日本の金融システムが万全だと言えるのか、それから特に今の日本銀行の政策の特質上、次に危機がきた時に採れる政策手段が少ないのではないかということも、常々指摘されているところです。この辺りの受け止めをお願いします。


A:リーマンショックの教訓は色々あると思いますが、ご案内の通り、リーマンショック自体は欧米発の金融危機であり、それに対応してバーゼルⅢなど金融規制の強化が行われており、その意味では金融危機が再発しないよう、様々な手立てが打たれていることは事実です。ご指摘のように、金融危機はそのように対応していても違った側面から問題が生じることがあり得るので、常に注意しておく必要はあると思います。ただ、今の金融システムに対する考え方は、バーゼルⅢその他の色々な金融規制を強化するとともに、ストレステストなどで、常時、金融機関の健全性や耐性をチェックすることにより、金融危機の発生を防止しています。リーマンショックは欧米の経験ですが、それに応じた金融規制にせよ、ストレステストの利用にせよ、日本も含めて、全ての先進国がその方向に向かっていますので、相当程度の金融危機に対する耐性はできていると思います。だからといって、安心していられるかと言えば、どういうことがあり得るか分かりませんので、十分注意していく必要があると思っています。
なお、中央銀行の金融政策手段の議論については、むしろリーマンショック後、日本銀行のみならず、各国の中央銀行は、量的・質的金融緩和や、市場からの様々な金融資産の買入れやマイナス金利、その他の色々な非伝統的金融政策手段を活用して、経済の落ち込みを防ぎ、金融の安定そして物価の安定に向けて努力をしてきていますので、今の時点で米国は正常化の過程に入っており、日本や欧州の中央銀行はまだ非伝統的金融緩和をした状態にありますが、金融政策の手段が出尽くしたとか、もう手段が残っていないということは全く考えておりません。リーマンショック後の各国中央銀行の様々なイノベーションをみても、限界論というのはあまり意味があると思っていません。

 

 

Q:地方銀行の経営について、個別行の名前を挙げて恐縮ですが、スルガ銀行で先月末、大規模な不正が発覚したとの報告書の公表がありました。考査の権限を持つ日本銀行としても、今回のスルガ銀行の不祥事をどう受け止めるのか、今後の銀行経営についてどうみられているのか、現状の受け止めと、今後の見通しについてお聞かせください。


A:これについては、第三者委員会の調査報告書が公表されたところですし、今後、金融庁の対応や処分等もみていかなければならないと思いますが、いずれにせよ、不適切な業務運営が行われていたことは、誠に遺憾であるということに尽きると思います。日本銀行としては、同行が第三者委員会の指摘や提言も踏まえて、今後、十分な経営管理体制やガバナンスを構築し、健全かつ適切な業務運営を確保していくことを促していきたいと思っています。考査の機会にも、そうしたことはきちんと示していきたいと思っています。

 

日銀総裁会見

 

当ページは、当該の内容について運営者が作成・編集したものです。情報・データは安全性や正確性を保証するものではなく、投資への勧誘を目的としたものでもありません。当サイトの情報を用いて行う一切の行為・損害について一切責任を負いませんので予めご了承ください。