2019年1月23日 日銀総裁会見 ノート

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利ついては10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行います。その際、長期金利は経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動し得るものとし、買入れ額については保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施します。
また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針を継続することを全員一致で決定しました。ETFおよびJ-REITの買入れについては、年間約6兆円、年間約900億円という保有残高の増加ペースを維持するとともに、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動し得るとしています。
本日は、展望レポートを決定・公表しましたので、これに沿って先行きの経済物価見通しと金融政策運営の基本的な考え方について説明します。
わが国の景気の現状については「所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで緩やかに拡大している」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、企業収益が高水準で推移し、業況感も良好な水準を維持するもとで設備投資は増加傾向を続けています。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも緩やかに増加しています。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しています。公共投資も高めの水準を維持しつつ横ばい圏内で推移しています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境は極めて緩和した状態にあります。
わが国経済の先行きについては、海外経済が総じてみれば着実な成長を続けるもとで、設備投資の循環的な減速や消費税率引き上げの影響を受けつつも、極めて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、2020年度までの見通し期間を通じて景気の拡大基調が続くと見込まれます。今回の見通しを従来の見通しと比べますと、2018年度は下振れていますが、2019年度、2020年度は概ね不変です。
次に、物価面では、消費者物価の前年比はプラスで推移していますが、景気の拡大や労働需給の引き締まりに比べると弱めの動きが続いていま す。物価の上昇を遅らせてきた諸要因の解消に時間を要している中で、中長期的な予想物価上昇率も横ばい圏内で推移しています。
もっとも、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば実際に価格引き上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみられます。この結果、消費者物価の前年比は2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えられます。今回の見通しを従来の見通しと比べますと、原油価格の下落を主因として、2019年度を中心に下振れています。リスクバランスについては、経済・物価ともに下振れリスクの方が大きいとみています。物価面では、2%の物価安定の目標に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要があります。
なお、展望レポートについては、片岡委員が消費者物価の前年比について、先行き2%に向けて上昇率を高めていく可能性は現時点では低いとして反対されました。
日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 を継続します。マネタリーベースについては、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで拡大方針を継続します。政策金利については、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定しています。今後とも、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行うとともに、経済・物価・金融情勢を踏まえ、物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

 

Q&A

Q:展望レポートで示した物価上昇率の見通しについてもう少しお聞きします。2019年度は消費増税等の影響を受けて従来予想より0.5ポイントも低い0.9%という比較的大きな下方修正をしています。これをみると、2%の目標の達成が益々遠のいたようにも感じられます。例えば、同じく示されている2020年度に1.4%まで回復するというのも、なかなか実現性としては難しいのではないかと考えざるを得ないのですが、この時点で2%をどうやって達成していくのか改めてお伺いします。もう1つ、遠のいた中で2%とはあくまで中長期的な目標だという意味合いなのでしょうか。お聞かせください。


A:今回の展望レポートにおける物価見通しは、2019年度を中心に下振れていますが、これは昨秋以降の原油価格の下落によるところが大きく、その直接的な影響は一時的なものにとどまると考えられます。この間、物価の基調を規定するマクロ的な需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に対する見方は先程ご説明したように、大きな変化はありません。日本銀行としては物価安定の目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されており、消費者物価の前年比は先行き2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。
もっとも、2%の実現に時間を要すると見込まれることも事実です。こうした状況のもとでは、需給ギャップがプラスの状態ができるだけ長く続くよう政策の持久力を意識し、ベネフィットとコストの両方を考慮しながら適切な政策運営を行っていくことが大事です。こうした方針のもと、日本銀行では現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが最も適当であると考えています。

 

 

Q:年末年始はマーケットが割と大きく動揺しまして株安が進んだほか、特に為替相場が一時円高に大きく動く局面がありました。世界的な景気後退を懸念しているとも受け取れるこうしたマーケットの動きに対して、日銀として対処すべきだと考えておられるのか、対処するとしたらどのような手段があるのかについてお聞かせください。


A:確かに昨年の秋以降、米中間の貿易摩擦や欧州の政治情勢を巡る不透明感、中国の弱めの経済指標などを背景に、投資家のリスク回避姿勢は強まり、株価や円相場は年末から年始にかけてやや不安定な動きをみせました。もっとも、わが国および米欧ともに企業収益の見通しはしっかりしており、経済のファンダメンタルズにも大きな変化はみられていません。先日公表されたIMFによる最新の世界経済見通しでも、2020年にかけて3%台半ばの成長を続ける見通しが維持されています。こうした点を踏まえますと、この間の市場の動きは先行きの不確実性に対してやや過敏であったようにも見受けられます。実際、株価は年始の水準から幾分回復しているほか、為替相場も一頃に比べて落ち着きを取り戻しているようにみえます。日本銀行としては、内外の金融市場の動向やそれがわが国の経済・物価に与える影響について、引き続き注意深くみてまいります。そのうえで、経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切な政策運営に努めていく方針です。

 

 

Q:今のお話の中で19年度の物価見通しが大きく下がったのは一時的であると上昇に向けたモメンタムは維持されているというお話がありましたけれども、今回引き下げたことによって2%の目標時期、これは今明示はされていないわけですけれども、これが後ずれするリスクについて総裁はどのようにお考えなのかということが一つと、関連して追加緩和の必要性について併せてお願いします。


A:今回の展望レポートの参考資料に2018年度から2020年度までの政策委員の大勢の見通しが出ています。その消費者物価指数をみても、2019年度を中心に下方修正されていますが、2020年度についてはそれほど変わっていません。すなわち、基本的に2019年度の物価上昇率の下方修正は、昨年秋以降の原油価格の下落の影響が2019年度に出てくるものですので、私どもの物価見通し自体が2020年度に向けて大きく変わったわけではありません。ただ、確かに2020年度でも、政策委員の大勢見通しが+1.5%ですので2%には達していないということです。その意味では今回、前回の見通しと比べて達成時期が特に大きく先送りになったわけではないですが、既に前回の見通しの時から2020年度でも+1.6%、今回の見通しですと+1.5%ということで、2020年度でもまだ 2%に達していないという意味では、かつてみていたよりも少し先送りされていることは事実です。ただ、今回、前回の展望 レポートと比べて先送りになったということではありません。
そうしたもとで、私どもとしては、あくまでもプラスの需給ギャップ をできるだけ長く続けていくことによって、賃金・物価が緩やかに上昇していくことを考えています。そうしたメカニズム自体には変更はなく、従ってモメンタムは維持されていると思っています。ただもちろん、この展望レポートにもあるように、海外のリスクを中心とした下方リスクが物価にもあり得るので、その辺りはよく注視していかなければならないと思っています。

 

 

Q:世界経済の見通しで、先程総裁はIMFの見通しが3%台を維持するとのお話がありましたが、前回からやや下方修正されていると思います。この間、世界経済のダウンサイドリスクの高まりについて、その背景としてどのような理由があったか変化を教えて頂けますでしょうか。


A:世界経済の見通しはIMF自身が説明している通り、前回の見通しと比べて0.1から0.2%ポイント下方修正されていますが、基本的に2019年、2020年とも3%台半ばの成長ですから、過去の平均ないし、それを若干上回るくらいの水準で推移するということです。それから、前回の見通しと比べて若干下方修正したのは米国の見通しを下方修正したのではなく、欧州の見通しを若干下方修正したことが効いているようです。そのうえで私どもの世界経済の見通しは、展望レポートでも若干触れていますが、基本的にはIMFの見通しとよく似ていまして、米国経済は内需を中心に比較的堅調、欧州経済は減速していることは事実ですが、それでも潜在成長率を上回る成長が続くというものです。それから米国に次ぐ経済規模の中国ですが、昨年後半に経済がかなり減速したことは事実ですが、それでも6%台の成長を維持していますし、今年度もおそらくそうなるだろうとみています。その背景には、政府のかなり迅速な政策対応があったということで、IMFも中国についてはあまり見通しを下げていないわけです。
私どももIMFも、メインシナリオとして以前に比べて世界経済の成長率がかなり下がったということはないですが、下方リスクが少し高まってきた、それは米中の経済摩擦や欧州の様々な要因であるとか、その他色々な状況が海外の下方リスクをやや高めているということは事実だと思います。ちなみに、米国経済は比較的堅調ですので、中国経済がかなり減速し、日本から中国への輸出、あるいは回り回ってアジア全体に対する輸出にかなり影響が出ているのではないか、出てくるのではないか、という議論が日本では多いわけですが、この点についても、先日の支店長会議での議論でもそうでしたし、色々なところで私は申し上げていますが、足許アジア向けの輸出のハードデータに大きな影響は出ていません。中国向け輸出の先行指標等に、やや弱い指標があることは事実ですので、そういった点は十分注視していく必要があると思いますが、現時点で米国にしても中国にしても、メインシナリオを変えるようなリスクが顕在化しているとか、顕在化しつつあるという状況ではありません。ただ、リスク自体はやや高まっているということだと思いますので、わが国の経済・物価・金融情勢をよくみていって、必要があればもちろん追加的な措置もとるということだと思います。

 

 

Q:昨年は米国一強経済というのが大きな年間を通じたテーマとしてありまして、その前は世界同時成長というものがあったと思います。今年は総裁からご覧になられて年間を通じた大きなテーマとして短く言い表すとしたらどのようなことになりそうでしょうか。


A:昨年前半は、IMF、世界銀行、その他色々な国際機関において米国を中心に金融政策の正常化が行われて、金利が上昇し、それが新興国からの資本流出を招いて、新興国がいわば防衛的に金融を引き締めなくてはならなくなる、あるいは外貨準備が減少する等、色々な形で新興国に影響が出るリスクが非常にいわれていました。その点、ご案内のように米国の金利はその後それほど上がっていませんし、新興国から資本が流出するという状況もあまりみられず、むしろ最近は資本が流入しています。こうしたリスクは比較的低くなったのですが、他方で米国の場合はマクロ政策や通商政策がどういう影響を与えるか、欧州の場合は様々な政治的な動きの影響がどう出るかということがやや気になってきているということで、リスクの場所やあり方が少し変わってきていることは事実だと思います。そういう意味では、昨年の前半までは、いわば先進国、新興国が皆バランスよく成長する同時成長という感じが強かった一方で、米国等の先進国の金融の正常化が新興国の資本流出等の影響をもたらすリスクが強く考えられていたのですが、今になってみますと、先進国の中でも米国は昨年3%、今年も色々な見通しでも2%台半ばの成長ということで、非常に高い成長が続くとみられています。他方で欧州はやや減速気味とか、そういったことが起こっていますし、新興国、途上国もむしろ先程申し上げた資本流出リスクは全般的には減少していると思いますが、国によって違いが出てきているということで、シンクロナスグロース、世界同時成長といっていたのが、ややばらけてきているほか、リスクの重みの場所が少し変わってきていることも事実です。メインシナリオを変えるほど大きなことはまだ起こっていませんが、リスクが全体として高まってきているので、その点は十分注意する必要があるとみています。

 

 

Q:先日の経済財政諮問会議で、総裁が米中貿易摩擦について、個人的には年内に解消すると楽観的にみているというご発言をされたと伺っているのですが、そのように展望する根拠について保護主義的な動きの帰趨との関連を含めて、詳しくご説明を頂ければと思います。


A:これはあくまでも私の個人的な見方ですが、私が思いついたことではなく、米国や中国のニュースをみると、貿易問題については交渉が進んでいる、貿易摩擦が長引けば当然双方の経済に大きなマイナスになりますので、だんだん解決に向かっているとみられる、という情報が色々なところから出てきており、私もそうではないかと思っています。ただ他方で、非常に難しい先端技術のヘゲモニー争い(覇権争い)のような話や、安全保障の話などは、貿易・経済摩擦の話と少し次元が違うので、どうなるかは私もよく分かりませんし、それが年内といったところで解決するとも思われません。ただ、少なくとも貿易摩擦、いわゆる二国間の貿易収支や中国の資本自由化、あるいは知的所有権の保護、そういった貿易・経済問題については、個人的な意見ですが収束に向かうのではないかと期待も込めて思っています。

 

 

Q:今回の展望レポートで2019年度の物価見通しを大きく下方修正したわけですが、これがインフレ期待に与える影響についてお伺いしたいと思います。過去には、2014年10月に原油価格が下落して、短期的といいながらも追加緩和をしたケースがありましたが、今回見通しをみる限り、2020年度があまり下がっておらず、インフレ期待にあまり大きく影響しているようにはみえないのですが、その理由について教えてください。


A:理論的な分析の議論が色々あり得ると思うのですが、端的に言って前回の原油価格の下落は、ご承知のように2014年夏頃から2016年の初めにかけて1バレル110ー120ドルから30ドルを割るくらいまで下がったわけです。それは日本のみならず、欧米でも消費者物価の上昇率が殆ど0%あるいはマイナスになったようなものすごく大きな下落でした。そうしたことに対する適合的期待の影響で予想物価上昇率も低下したわけですが、その後少し戻って最近はフラットで推移しています。2019年度の消費者物価の上昇率については、今回の原油価格の下落が影響を与えるとみて、従来1.6%くらいとみていたものを1.1%くらいへと0.5%ポイントくらい見通しを下方修正しました。その大半は原油価格の下落によるものです。しかし、前回の非常に大きな原油価格の下落とは違うということが1つだと思います。
もう1つは、適合的期待形成が強いとはいいながら、それがすぐ足許にものすごく影響するかどうかは色々な議論があるところだと思います。前回は非常に大きな、それも1年中続く大幅な原油価格の下落であったため、1.5%くらいまで上がっていた消費者物価の上昇率が一時マイナスになるほどの影響でした。今回はそうしたものでないので、基本的には一時的な影響にとどまるとみています。ただ、予想物価上昇率の動きについては、下方リスクの1つですので十分注意していきたいと思っています。

 

 

Q:海外経済を巡る下振れリスクについてですが、先程からお話が出ている中国経済の減速について、本日財務省が発表した12月の貿易統計で中国向けの輸出は7%減ということなのですが、日本経済への影響、先程から総裁はまだメインシナリオは変わっていないということをおっしゃっていますが、この米中の貿易摩擦が収束までより時間がかかった場合、日本経済への影響をどうご覧になるでしょうか。


A:正直に申し上げて、米中の貿易摩擦、経済摩擦が非常に長引けば、世界経済に深刻な影響が出てくると思います。何よりもまず、米国の経済と中国の経済に大きな影響が出て、世界第1、第2の規模の経済ですので、当然日本も含めて世界経済が影響を受けることになると思います。足許、非常にはっきりしているのは、特に資本財を中心に中国からの受注が減っているということですが、ご承知のように、現在日本の資本財メーカーは受注残を非常に多く抱えており、新しい受注がそれほど大きくなくても現在のフル生産を相当程度続けられます。従って、新規受注が減っていったからといって、直ちに資本財メーカーの生産が落ちるとか、あるいはその先で設備投資を減らすとか、そういうことにはなかなかなりそうにありません。ただ、確かに受注が減ってきており、まだ全般的なものでないとしても輸出が影響を受けてくる可能性はありますし、支店長会議でも個別の輸出企業によっては今後の中国経済の減速をかなり心配しているところもあるようでしたので、直ちに輸出の量、特に生産に大きな影響が出るとは思えないのですが、そういったマインドへの影響等も十分みていかなければいけないと思います。非常に注視してはいるのですが、他方で中国政府は既に財政・金融両面で様々なてこ入れをしていますし、IMFの見通しでも6%台の成長が続くとみていますので、急激な減速で世界経済に大きな影響を与えるという可能性は今のところは少ないと思います。もし米中経済摩擦、貿易摩擦が長引けば、だんだんと影響が出てくることは確かなので、私どもも是非早めに解決してほしいと思っています。

 

 

Q:今年1回目の決定会合後の会見ということでお伺いしたいのですが、総裁が今年一番注目している日本国内で予定されている政治的、経済的な日程は何でしょうか。


A:注目というのはポジティブな意味もネガティブな意味もあると思うのですが、1つはやはり春闘でどのような賃上げが実現するかということです。雇用状況は引き続き引き締まりが続いていくと思われますので、そうしたもとで実体経済や企業収益、労働市場の引き締まりに比べると、賃金の上昇率がやや鈍いところがどの程度変わっていくかということは非常に注目しています。
もう1つは、10月の消費税率の引き上げです。ただ、これについては政府がかなり大幅な対応策、特に駆け込み需要やその反動減を均すような様々な政策をとっていますので、基本的には影響は小さいと思うのですが、消費マインドに対する影響がどういうものかというのはよくみていく必要があると思っています。ただ、正直に申し上げれば大きな影響はないと思っています。

 

 

Q:先程の方の質問とかぶるところがあるかもしれませんが、海外経済のリスクの波及経路みたいなことで企業収益という観点です。冒頭のやりとりの中でも全体としては非常にしっかりとしているというお話でしたが、少し足許、それこそ海外経済の減速、受注の懸念から下方修正という動きが拡がってきています。つい先日も日本を代表する経営者の方が40数年経営してきて、こんな急激な落ち込みは初めてだというコメントがあって、我々も正直びっくりしたのですが、本当に今でもその企業収益の水準がしっかりしていて、マーケットの反応が過敏ということなのかどうか、改めて見解をお聞かせ頂けますでしょうか。


A:それぞれの経営者やエコノミストなど、色々な考え方・見方があると思いますが、私どもがみているハードデータ、それから様々なマインドに関するソフトデータをみましても、先程申し上げたように米中経済は今の時点でそれほど減速していません。一方、欧州経済が減速しているということは事実ですし、新興国・途上国もややばらついてきていることも事実ですので、IMFその他の国際機関も、そういったことを勘案してメインシナリオを若干下方修正したわけですが、それよりもむしろ下方リスクが高まっていることにメンションしているわけです。ただ、そうは言っても、非常に大きな世界経済の減速が起こりそうだとか、起こる可能性が非常に高くなったとはみられないと思います。ですから、様々な海外リスクをみていかなくてはならないわけですが、米中の貿易摩擦であれ、英国のブレグジット交渉であれ、政治的な動きの中で起こっているわけですので、それらの経済への影響はなかなか見通しが立てにくく、不確実性があることも事実です。そうしたことを踏まえても、全体としてみて、世界経済が非常に大きく下方修正となる可能性は依然として薄いと思っています。

 

 

Q:先程からやはり世界経済の下方リスクを意識する局面になってきていると思いますが、そうなると、どうしてもやはり我々は10年ちょっと前のリーマンショックの頃と比べてしまうのですが、その頃に比べれば特定のサブプライムとかそういった極端な偏りとか、あるいは金融システムへの影響みたいなものは今はないかと思いますが、一方で世界の情勢、政治も含めてみれば、各国が協調して何かをできるとか、あるいは各国それぞれ国内に色々な要因を抱えていて、以前のようにリスクが顕在化した時の対応というところが、10年前とはだいぶ変わってきているのではないかと懸念しています。併せて、日銀も政策で採れる対応の幅というのは、かつてほどは色々やっている中でないのではないのではないかと思うのですが、この国際協調のところと政策の手段というところについて、総裁はどのように感じていますか。


A:まず前段で言われたように、リーマンショックのようなことが金融システムに起こる可能性はまずないと思います。それは過去10年間、金融規制当局が極めて厳しく規制をし、かつ金融機関も資本を充実させ、流動性も充実させる、それからいわゆるノンバンクの動向についてもかなり詳しくみていっているということがありますので、大きな金融ショックが来る可能性というのは非常に少ないし、そういうことを懸念している人もあまりいないと思います。
国際的な政策協調の用意がないというか、弱まっているのではないかという点は、そのような議論を色々な方がされていることは事実ですが、正直に言ってリーマンショックの時はものすごいショックだったわけです。先進国も途上国も、欧米もアジアも、皆が大きく影響されたので、ここでまさに協調してやらないと大変なことになるということでG20のサミットも始まって、そこで色々な協調行動が主導されたわけです。現時点では大きなショックの可能性もあまりないですし、何かグローバルに拡がる同質のリスクがあって、皆で一緒に対処しないといけないという話もあまり見当たりません。現時点であまり協調していないじゃないかといわれるとそうかもしれませんが、それは今の状況がリーマンショックのような大きなショック、金融システム発のショックが見当たらず、それぞれの国が皆同じように影響を受けているということではないので、皆で一緒に何かやろうという要請が今のところはないということではないかと思います。もし仮に、今後10年、20年をみれば何かあるかもしれませんし、そういうグローバルに共通のショックがあれば、当然G20であれ何であれ協調すると思っています。
後段については、日本銀行あるいは日本銀行に限らず各国の中央銀行についてそのような議論が色々とあることも事実ですが、主たる議論は、要するに、伝統的金融政策では不況には短期の政策金利を引き下げることで対応する、インフレには短期の政策金利を引き上げることで対応するというやり方だったわけです。リーマンショック後は主要中央銀行は皆、量的・質的金融緩和をやって対応したわけで、それは短期金利を大きく引き下げる余地がなかったというか、日本の場合は殆どゼロに近かったわけですから、大幅な量的緩和をすることになったわけで、現時点で主要な中央銀行も短期の政策金利がものすごく大きく引き下げられる程には上がっていません。正常化を進めている米国においてもそうです。このため、何かショックとか不況になった時に、伝統的なやり方で短期金利を引き下げるという形では対応する余地が狭まっている、そういう議論です。リーマンショック後に行ってきたような非伝統的な金融政策の余地が狭まっているということではないので、政策の余地が全体として狭まっているとは思わないのですが、伝統的金融政策の、特に不況に対する対応の余地が狭まっていることは、これは皆認めているところです。ただそれは金融政策全体として、政策の幅がなくなったとか狭くなったということではありません。各国の中央銀行もリーマンショック後に非伝統的な様々な手法を開発し、それを活用しましたので、その経験は十分あります。対応策がなくなったとか幅が狭まったということではないと思います。

 

 

Q:2019年度の物価見通しについて、今回3回連続での引き下げとなりましたが、若干、政策委員の見通しが楽観的ではないかという疑問がありますが、それについてのご認識を教えてください。


A:政策委員の見通しについて私がコメントする立場にないのですが、今回の引き下げの主たる理由は原油価格の下落です。実際は、原油価格について誰も見通しを立てていません。IEAは立てていますが、IMFやOECD等の国際機関ですら経済見通しを作る際には、せいぜい日本銀行と同じように、原油の先物価格のカーブを前提にしています。地政学的なリスクや色々なことであまりに影響が出てくるので、独自の原油価格の見通しは立てられないのです。ただ、原油の先物価格による現物価格の予測力が高いかといわれると、あまり高くありません。それでは独自に原油価格の見通しを立てるかというとそれはなかなか立てられませんし、意図的にあるいは系統的に楽観的に立てるということは、どこの中央銀行もやっていないと思います。原油価格など様々な地政学的リスクにさらされる統計については、正直、独自の予測を立てることは難しいと思います。

 

 

Q:特殊要因ということかもしれないですけれど、携帯電話料金の引き下げというのが今年予想されますが、これが物価に与える影響について、そして 期待インフレに与える影響について、どの程度懸念をもっているかお願いします。


A:今回の見通しにおいて、携帯電話料金の引き下げは織り込んでいません。これは、まだ現時点で各社の料金プランがどのようになるのかが明らかでなく、消費者物価への定量的な影響を把握するということが難しいためです。一方で、仮に携帯電話料金が引き下げられた場合の影響というのは、相対価格の変化ではあると思いますが、携帯電話料金は一定のウエイトがあるため、足許で消費者物価の上昇率を引き下げる方向に働くことはありうると思います。他方で、携帯電話料金が引き下げられるということは、いわば消費者の実質所得が増えることと同じことですから、中長期的にみるとむしろ消費全体にプラスであり、消費者物価の中長期的な引き上げ要因にもなり得ますので、足許の影響と中長期的な影響とはちょっと違うと思います。いずれにしても、どのような料金プランとなるのかが今の時点ではまだ分かりませんので織り込んでいませんが、追い追いそうした点が明らかになってくれば、それらも踏まえて議論していくことになると思います。

 

 

Q:本日の物価見通しをみて、改めて粘り強く金融緩和を続けていかないといけないということだと思うんですが、その一方で、副作用とか、去年7月に対応をとりましたけれども、マーケットファンクション(市場機能)を守っていく重要性について、現時点でどのようにお考えになっているのか、お願いします。


A:昨年7月の措置については、いくつかの要素がありましたが、1つは、10年物国債金利について、ゼロ%程度というのは変えないものの昨年の前半にはあまりに狭い範囲で張り付いていて取引が成立しないことが何度もあったことから、もう少し幅広く変動してもよいということをはっきり示しました。現に昨年の前半に比べると、後半は上にも下にもかなり変動しましたので、その意味では市場機能は改善したと思っています。ETFの買入れについても弾力化して、かなり上下に振れていまして、それが結果的に昨年の秋以降の株式市場の大きな変動にある程度対処し、リスクプレミアムが大きく変わることを防いだという意味では意義があったとみています。ただ、今後については状況をみていく必要があると思います。

 

 

Q:今年の4月に改正入管難民法が施行される見通しです。これまで単純労働という外国人に認められなかった分野で働き手として期待されると思いますが、女性・高齢者だけでなく、更に外国人も労働参加していくことが2019年度以降の物価見通しにどのような影響を与えていくかお伺いします。


A:基本的に賃金・物価の見通しに大きな影響が出るとは思っていません。基本的に同一労働同一賃金ですので、そうしたもとで外国人労働者が入ってくることが賃金を引き下げることにはならないと思います。また、膨大な数の人が入ってくるような状況ではないと思います。ご承知のように、これまで生産年齢人口が減っているにもかかわらず、女性や高齢者の就業率が上がる形で就業者は増えており、そうしたことが経済全体に及ぼす影響はむしろ全体としてはプラスだったのではないかと考えられます。つまり、高齢者や女性の就業率が上がらなければ、人手不足によって設備投資もできない、生産も増やせないなど、むしろマイナスであったと思いますが、女性や高齢者の就業率が上がることによって経済全体としてプラスになり、それを通じて賃金にもプラスになったと思います。そうしたことも外国人労働者に期待できるかもしれませんが、少なくとも先程申し上げたように、女性や高齢者の就業者が増えた数と比べると、はるかに少ない数を前提にしているようですので、賃金水準に影響が出ることはあまり想定できないと思います。

 

 

Q:経済見通しは世界についても日本についてもメインシナリオは拡大というお話だったのですが、世界経済は今年、昨年に比べて非常に悪くなるという見通しは非常に増えています。そうすると、日本の戦後最長の景気というのもどこかで終わるリスクが常にあるわけです。その時に日銀は結局、この景気拡大局面で1回も利上げができずに終わるということになりますが、それについて総裁がどうお考えなのか。仮にそうなったとしても仕方がないことなのか、そうなるのは想定外なのか、その辺りのお考えをお聞かせください。


A:それはあまり意味のある質問ではないと思います。つまり、2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成すべく金融政策を運営しており、将来、何かあった時のために今のうちに金利を上げておこうということ、物価も2%に達していない状況で金利を上げるということは、どこの国の中央銀行もやらないことであり、そういうご質問自体あまり意味があるとは思いません。むしろ必要なことは、まさにできるだけ早期に2%の物価安定の目標を達成し、そのもとで経済が順調に成長し、そのもとで金融政策の正常化を進めていくことです。これはFRBがそうしていますし、ECBもそろそろ始めようかというところです。日本銀行の場合、まだ物価の上昇率が1%程度といいますか、12月はやや下がって0%台後半ですので、今金利を上げるとか、上げられないのが困ったことだとか、そうしたことは全くないと思います。

 

日銀総裁会見

 

当ページは、当該の内容について運営者が作成・編集したものです。情報・データは安全性や正確性を保証するものではなく、投資への勧誘を目的としたものでもありません。当サイトの情報を用いて行う一切の行為・損害について一切責任を負いませんので予めご了承ください。