2017年6月16日 日銀総裁会見 ノート

本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆる「イールドカーブ・コントロール」のもとで、これまでの金融市場調方針を維持することを賛成多数で決定しました。すなわち、短期金利について、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行います。買入れ額については、概ね現状程度の約80兆円をメドとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。
また、長期国債以外の資産買入れに関しては、これまでの買入れ方針 を継続することを賛成多数で決定しました。
わが国の景気の現状については、「緩やかな拡大に転じつつある」と判断しました。やや詳しく申し上げますと、海外経済は総じてみれば緩やかな成長が続いています。そうしたもとで輸出は増加基調にあります。国内需要の面では、設備投資は企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にあ ります。個人消費は雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅さを増しています。この間、住宅投資と公共投資は横ばい圏内の動きとなっています。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けています。また、金融環境については極めて緩和した状態にあります。
先行については、わが国経済は緩やかな拡大を続けるとみられます。国内需要は極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。輸出も海外 経済の改善を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられます。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は0%程度となっています。予想物価上昇率は弱含みの局面が続いています。先行きについては、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられます。
リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、 金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられます。日本銀行は、2%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付き量的・質的金融緩和を継続します。また、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

 

 

Q&A

Q:物価情勢について伺います。新年度入りの4月も企業の価格改定が非常に小規模であったという感触を受けています。経済が高水準で成長しているにもかかわらず物価が弱いという状況については、これまでもいろいろご説明はあったかと思いますが、日本に限らず、米国を含め先進国でも同じような状況が今起きているかと思います。こうした事態が先進国で共通して起きている理由は?


まずわが国において潜在成長率を上回る経済成長が続き、需給ギャップが改善している割には物価上昇率がなかなか高まらないことはご指摘の通りです。こうした傾向は、他の先進国でも多かれ少なかれ共通してみられる現象です。その背景について学界などでいくつかの仮説が指摘されていますが、現時点でコンセンサスは得られていないと思います。この点、特にわが国についてはデフレが長期間にわたって続いたため、デフレマインドの転換に時間がかかっていることがあると思います。すなわち、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方あるいは慣行が根強く残っていると言えるのではないかと思います。 もっとも、このところ有効求人倍率がバブル期のピークを超え、失業率が2%台後半まで低下するなど、労働需給の引き締まりが一段と明確になるもとで、賃金上昇圧力は着実に高まっています。例えば、多くの企業において4年連続でベースアップが実現した模様であるほか、労働需給に感応的なパートの時間当たり賃金は、このところ前年比2%台後半のしっかりとした伸びとなっています。こうした賃金の上昇は次第に販売価格やサービス価格の上昇につながっていくものと考えています。以上のような点を踏まえるとわが国の物価上昇率は先行き、緩やかに高まっていくと考えています。

 

 

Q:長期国債の買入れについてお伺いします。長期国債の保有残高の年間増加額については80兆円をメドとされていますが、一方で日銀は、債券市場における日銀のシェアが拡大すればするほど、買取量あたりの緩和効果が大きくなると説明されています。中長期的にみると日銀が企図した金融政策全体の緩和効果が一定だとすると、長期国債の買入れのペースは徐々に鈍くなっていくとも考えられますが?


ご指摘の点については、将来、買入対象となる国債が品薄になり、需給が逼迫する状況になれば、他の条件を一定とした場合より少額の国債の買入れで、同じ金利水準を実現することが可能になるという一般論を申し上げているわけです。日本銀行は長短金利操作付き量的・質的金融緩和のもとで10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう国債の買入れを行っています。その際の国債の買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をメドとしていますが、実際の買入れ額は金融市場の状況に応じて、ある程度の幅をもって変動してきています。従って、実際の国債買入れ額はあくまでも適切な金利誘導という方針に基づいて国債買入れを運営している結果であるとご理解頂きたいと思っています。先行についても、長期金利の操作目標を実現するために国債買入れを適切に運営していく方針であり、予め国債買入れ額について、このようにペースを変えていくとか決めていくといったことは考えていません。あくまでも「イールドカーブ・コントロール」という形で、特に10年物国債金利の操作目標を実現するように長期国債の買入れを行っていくということに尽きると思います。

 

 

Q:5月の衆議院財務金融委員会での民進党の前原議員との質疑において出口局面での日銀の財務について、総裁は影響を含めて分かりやすく説明することは重要だと検討していくと表明されていますが、今後の試算の公表等について見通しをお聞かせ下さい。また、前原議員は日銀が赤字になるとの試算を公表されていますが、それに対しても一定の条件のもとでは矛盾のない試算だという認識を示されています。赤字になる可能性はあるとの認識でよいのか、また日銀が赤字になった場合、通貨の信認の低下や日銀業務への支障を懸念する声もありますが、こういった点に問題はないのでしょうか。


金融政策運営の考え方について、日銀の財務面への影響も含めて理解を得ていくということは非常に重要だと思いますし、これまで同様、しっかりと説明してまいりたいと思っています。ただ、ご案内のとおり2%物価安定の目標に向けての道はまだかなりあります。今から具体的に出口がどのようになるのか、そのもとで日銀の収益がどうなるかということは、まだ道半ばの状況で、将来の経済・物価、あるいは金利などに加えて、そのもとで日銀がどういう手段をどのような順序でやるかということによって当然変わってきますので、現時点で具体的なシミュレーションを示すことは、却って混乱を招くおそれがあるために難しいし、またあまり適当ではないと考えています。いずれにしてもあくまでも2%の物価安定の目標が達成され、 安定的に推移する状況のもとで出口というものがあるわけですので、今の時点で具体的に出口の手法とか順序を示すのはなかなか難しいし、またそのもとでの収益の状況等について具体的なシミュレーションを示すのは、却って混乱を招くおそれがあるのではないかと思っています。従って2番目にご指摘の点につきましても、色々な前提を置けば色々な結果が出てくるということでありまして、今の時点でこのような財務状況になるとか、収益状況になるということを具体的な数字等でお示しするのは適当ではないと思っています。

 

 

Q:先程の質問に関連して2点。1点は昨日全銀協の平野会長が同様に出口戦略について話しておられまして、市場との対話が重要だということを日銀に求めました。その点についてご意見をお願いします。もう1点は、ETFの買入れについてです。昨年増額をしたときの理屈はリスクプレミアムを下げるということでしたが、現状では株価は20000円のところまで来ていまして、当時の増額のときの目的、意義は達成できたようにも思います。この点についてのご見解をお聞かせ下さい。


金融機関の経営者の方の個別の発言について私から具体的にコメントするのは差し控えたいと思います。そのうえで一般論として申し上げると金融政策は金融市場あるいは金融機関を通じて、実体経済に効果が波及していくものですので、政策に関する考え方やその前提となる経済・物価情勢についての判断をできるだけ分かりやすく説明して理解を得ていくことは大変重要だと思っています。日本銀行は、昨年公表した「総括的な検証」等を含め 説明に努めてきているほか、市場参加者との間で金融市場調節や市場取引全般に関して密接な対話を行っています。引き続き丁寧な説明を行ってまいりたいと思っています。それからETFの件については、ご指摘のとおり長短金利操作 付き量的・質的金融緩和の枠組みの1つの要素として、株式市場におけるリスクプレミアムに働きかける観点から行っているものであって、特定の株価水準を念頭においてそうした水準を実現するために実施しているわけではありません。ETFの買入れは2%物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために必要な政策であると考えておりまして、先行きについては、やはりあくまでも経済・物価・金融情勢を踏まえて毎回の金融政策決定会合で適切に判断していくものであると考えています。

 

 

Q:質問は2つ。1つは先日、総裁はオックスフォード大学で講演をされて、そのときにもデフレマインドの転換が非常に難しいといったお話をなさっていたかと思うのですが、企業の方のお話等を伺うと中でもやはり国内市場については人口減という大きな課題があって、その中でなかなか値上げだ、賃上げだという前向きなところに向かうのは難しいという声が結構根強いと思います。一方でそれは悲観的過ぎるという声もあるのですが、企業のデフレマインドを転換することはやはりオックスフォードでおっしゃったように、かなり難しいことだと考えていらっしゃるのか、その辺りを改めてお 伺いしたいと思います。2つ目は国債買入れのペースですが、80兆円と今回も変えませんでした。ただ、足許では確か55兆円でかなり、だんだんちょっと離れてきているかなと思います。これは今後どのように、ずっと80兆円のままにしておくのであればもうこれはメドですらないような気もしますし、かといって数字を示すこと自体を止めるのか、その辺りについて今後の見通しを含めて教えて下さい。


1つ目に関しては、昨年の総括的な検証でも述べましたように、1998年から2013年まで15年デフレが続いたということで、デフレマインドがかなり強く染みついているという面がありますし、そうしたもとで予想物価上昇率がいわゆるアダプティブ、フォワードルッキングではなくバックワードルッキングな傾向が強いということも指摘されています。こうしたデフレマインドの転換には時間がかかるということではないかと思います。デフレマインドの転換ができないということではなくて、時間がかかるということであって、今その途上にあるということだと思います。今回の公表文の中でも、予想物価上昇率については弱含みの局面が続いていると指摘しています。 これはその通りだと思いますが、他方で色々なデータを見ますと、一部に予想 物価上昇率が下げ止まっているだけではなく、上昇を示す指標も現れてきてお ります。まだ予想物価上昇率が上方に転じたというほどではないので、弱含みの局面が続いていると申し上げているわけですが、いずれ実際の物価も上昇し、予想物価上昇率も上がっていくことは間違いないだろうと思います。ただ、それには時間がかかるということだと思います。そうした中でご指摘の人口減ということが潜在成長率の上昇を低いものにし、そうした予想のもとで売上その他について比較的慎重な見方をすることを通じて賃金や物価の引上げについても慎重になる傾向があるのではないかということはよく言われています。そういう面がないとは言えないと思いますが、あくまでも物価は名目値の話ですし、他方で人口減によって影響される実質成長率は実質の話です。実質成長率が人口減等によって下がると必ず賃金上昇率も下がるということでもないと思います。それから、人口減について最近は女性や高齢者も含めて就業率が上がっています。それから、もっと根本的に言えば、労働生産性が上昇していけば実は人口減のもとでも実質成長率はある程度の水準に維持できます。これらは成長戦略とか構造改革 とか、そういうことで色々一括りにされていますが、そうしたことの影響も十分考えられると思います。人口減ならば即賃上げが進まないということではないのではないかと思っています。
2番目のご質問は先程もお答えしましたが、80兆円というのはあくまでもメドでして、金融市場調節方針は「イールドカーブ・コントロール」という形で政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用すると同時に、長期金利について10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように国債の買入れを進めるということです。国債の買入れ額は一応のメドはありますが、そのもとで、メドを上回ったり下回ったりすることは、ある程度の幅をもって考えていくべきものだと思っています。あくまでもこれは「イールドカーブ・コントロール」という形で金利をターゲットにしてやっています。購入額はいわば内生変数として出てくるわけですので、様々な状況によって上下に変動するものです。ただ、これまでの「量的・質的金融緩和」の経験、あるいは「イールド カーブ・コントロール」のもとでの「量的・質的金融緩和」の経験のもとでも、 やはりこの程度の国債買入れは必要であったのは事実ですので、メドはメドとして十分機能しているのではないかと思います。ただ、それをターゲットにし ていませんので、当然その上にいったり下にいったり、特に毎月の買入れ額はある程度変動するということだと思います。

 

 

Q:それは半分以下ですとか、例えば20兆円、30兆円でも80兆円のメドは変えないということでしょうか。


先程申し上げたように、月々結構変動していますので、足許で80兆円をかなり下回っていても、その翌月にはまた上の方に増えるかもしれませんし、そういうメドであるという意味でお示ししていることを理解して頂けれ ばと思います。

 

 

Q:質問は2点。欧米の金融政策をみておりますと米国は今週のFOMCで今年2度目の利上げを行って、ECBも先日の会合でこれ以上の利下げは当面行わない旨を決めました。いわば欧米はいずれも金融政策の緩和からの出口に向かいつつある、既に向かっているという状況で、日本は出口が非常に遠い、全くみえていないような状況にあります。そもそも日銀が欧米に比べても大規模な緩和をしているにもかかわらず、これだけ欧米と違いが起きていることの理由をどうみていらっしゃるかということが1点です。
2点目は、そこで考えたときにそもそも日本と欧米のおかれている経済の情勢はかなり違っていて、例えば先程おっしゃった人口減の問題であるとか、潜在成長率も違いますし、そういった経済情勢が違うのにもかかわらず同じ物価の上昇目標を掲げているということ自体に無理があるのではないかという気もするのですが?


先程来申し上げていますように、あくまでも金融政策というのは物価安定、具体的には2%の物価安定の目標を実現し、それを安定的に維持するために行っています。そうしたもとで同様の目標を持っていますが、米国の物価上昇率はまだ2%になっているわけではありませんが、既に2%にかなり近いところで動いていますし、FOMCの予測でも2%に達するということが示されています。そういう意味では、米国の場合は経済・物価情勢がそのような状況なので、正常化のプロセスを始めているということだと思います。ECBは正常化のプロセスを始めていませんが、経済動向をみましても物価はまだ2%に達していませんが、かなりそれに近い水準に来ていますし、今後そういった状況で推移するという見通しを彼らは持っていまして、そういう意味では更なる金利引下げの必要はないであろうということは十分理解できるところです。
それに対してわが国の場合、実体経済は順調に成長していますが、物価がまだ足許0%程度ということで徐々に上昇していくとは思いますが、 まだ2%の物価安定の目標には道半ばというか、まだ遠いということですので、正常化や出口ということが議論される、議論すべき状況になっていないということです。ただ、需給ギャップがかなり縮小してプラスの領域に入っていますし、今後も現在のような成長が続いていけば、更に需給ギャップが縮んでいきますので、これが賃金・物価の押上げ圧力になっていくことは間違いないと思います。そういったことが実際に起これば更に予想物価上昇率にもプラスの影響を与えてくると思います。足許でまだ2%の物価安定の目標がすぐに達成される状況でなく、今出口や正常化を議論する状況にないことは事実ですが、そのことが2%物価安定の目標が達成できない、適切でないということにはつながらないと思っています。先程来申し上げている通り、人口減と物価上昇率とがダイレクトにリンクしているというような理論的な根拠はありません。実際にも欧州には人口が減っている国がありますし、アジアにもありますが、そういった国で日本のようにデフレになったわけでもありません。ユーロ圏の物価上昇率も2%近いところになっていますし、アジアで人口が減っている国で物価上昇率は2%に近いところにある国もありますので、人口減と物価上昇率をリンクするという考え方は理論的に正しくないというだけでなくて、実際的にも正しくないと思います。2%の目標自体についてですが、従来から申し上げている通り、それを目指す理由1つには消費者物価指数が実態よりも高めに出ることが指摘できます。逆に言うと1998年から2013年まで15年続いたデフレの期間の年間平均の物価の下落率は-0.3%くらいでしたが、実感としてはもっと落ちていたように感じられたのではないかと思います。消費者物価指数がどうしても高めに出てしまうことを考えると0%という数字が出たときはマイナス、デフレになっている可能性がありますので、やはりプラスの物価上昇率を目指す必要があるということが第1点。第2点は、よく言われるぎりぎり0%というのを目標にしていると、景気後退でデフレにすぐ陥って通常の政策金利の引下げで対応できる余地が無くなってしまうことがあります。金融政策の糊代といいますか、金利の引下げ余地を残しておくことが必要だということから、主要先進国は皆2%程度の物価安定目標を立てています。3番目に、その結果としてですが、主要先進国が皆2%の物価安定目標を立てて、そのもとで金融政 策を運営していると長期的にみますと主要国の間の為替レートも安定的に推移する可能性が高いということもあると思っています。

 

 

Q:先程のETFの議論に一部関連しますが、2%の目標の達成や出口云々の議論に先立って、それとは別に例えばETFの買入れを減らす、緩和を縮小させるなどの方向に金融政策を調整することはあり得るのでしょうか。


理論的にはあり得ると思います。ETFの買入れの拡大をしたときと、長期国債の買入れ額を拡大したり「イールドカーブ・コントロール」を導入したときとは、必然的に結びついているわけではありません。ただ、ETFの買入れも、2%の物価安定の目標を実現するための「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環です。2%の物価安定の目標と離れて、こちらはずっと緩和しているがこちらはやめるといったことは普通考えられないと思いますが、ご指摘のような国債の買入れによる「イールドカーブ・コントロール」とリスクプレミアムを縮小するためのETFの買入れとが、完全にシンクロナイズして動く必要もないし、過去においてもそうなっていませんの で、そこはそのようにお考え頂く必要はないと思います。これは毎回の金融政策決定会合で議論していくことですが、今申し上げたような全体の金融緩和の一環ですので、2%物価安定の目標と離れて、これはこれで違うようにするという考えはないと思います。

 

 

Q:出口に関して2点。出口の議論の中で付利の引上げとかバランスシートの縮小とか、そういう議論がよくあるのですが、今の日銀は金融政策で長期金利目標をやっていまして、そういう意味では出口の際のツールとして長期金利目標を引き上げることは念頭にあるのでしょうか。長期金利目標は2%達成前でも調整可能だと思うのですが、長期金利目標の引上げというのは出口の際にあり得るのかどうか、というのが1点目です。2点目は、出口の局面で日銀の財務が赤字や債務超過等に陥った場合の話なのですが、信認という面も含めて、日銀の金融政策の遂行能力が低下することになるのかならないのか、この点について明確にお話し頂ければと思います。


前段のご質問については、出口というものについていわば「量的・質的金融緩和」の緩和の程度を縮小していく場合に、色々な手段があるでしょうということはその通りだと思います。ただ「イールドカーブ・コントロー ル」のもとでは、短期の政策金利を日銀が付利していますので、それを動かすことが日銀の政策ツールとしてあるわけです。他方で、長期金利は操作目標であって、操作目標を実現するために長期国債の買入れを行っています。従いまして「イールドカーブ・コントロール」のもとでご指摘のようなこともあり得ると思うのですが、上下両方に調整の可能性もあると思います。日銀が直に動かせるものとしては、付利金利と国債の買入れがあります。それを通じて ターゲットとしての長期金利を上下に誘導するということはあると思います。 議論としては、まさに付利をどうするかということと、バランスシートの規模をどうしていくかということが議論の対象になるのは普通だと思います。ご指摘のようなことがあり得るのかと言えばあり得ると思うのですが、非伝統的金融政策というか、量的金融緩和、そういうものの正常化プロセスを議論する場合には、通常、短期金利をどう操作していくかということと、バランスシー トをどのように調整していくか、つまり国債の買入れとかそういうことをどのように変えていくかということが焦点になるのではないかと思います。
日銀の財務状況への影響については、前から申し上げている通り、「量的・質的金融緩和」を拡大する過程のもとで、収益が拡大し、それが「量的・ 質的金融緩和」の出口に差し掛かるもとで今度は収益が減少する可能性があるということです。それに対する私どもの対応としては、収益の振幅を平準化するために、そして財務の健全性を確保する観点から、2015年度から長期国債に関する引当金である「債券取引損失引当金」を大幅に拡充していますので、 収益の変動に対する対応としてはしっかりしていると思います。他方で、そうしたもとでも、収益が振れあるいはご指摘のように赤字になる可能性があるのではないかと言われると、それは色々な前提の置き方次第ではそうなり得るわけですが、ただ、より一般的には中央銀行は継続的に通貨発行益が発生する立場にあります。長い目でみれば、必ず収益が確保できる仕組みとなっていますので、短期的な収益の振れがあっても、そのことで中央銀行や通貨の信認が毀損されることはないと思います。通貨の信認が毀損されるということは、要するにハイパー・インフレーションになる場合ですが、私どもは物価安定目標を立ててしっかり持続的・安定的に物価安定目標が維持されるように金融政策を運営してまいりますので、そういったご心配は必要ないと思います。そういう意味では日本銀行の財務の状況が金融政策を制約したり、通貨の信認を毀損することにはならないと思います。

 

 

Q:最近長期国債の買入れが少し減っている背景として、米国発の長期金利の上昇圧力がやや後退しているから、という解説もあると思います。ということであれば、今後も長期金利の上昇圧力があまり高まらないというか弱まるのであれば自然に必要な国債買入れ額も減らしていくことができるとそう考えてよろしいものでしょうか。


そう考えてよいと思いますが、そもそも米国の金利が上昇した場合に 日本にどのような影響がでるかは為替レートへの影響と金利への影響とに分かれますし、その場合の金利への影響がどのようなものになるかは、米国の金利が上がると日本の金利を押し上げる、かなりの程度押し上げるように働くかどうかということ自体がそう一概に決めつけられないものだと思います。 仮に、将来にわたって米国の金利が上がった場合にどうなるかは、なかなか予想は難しいと思います。ただ、この半年位の傾向をみますと、確かに「イール ドカーブ・コントロール」を導入した後、米国の金利が上がったときに、日本の金利も上昇する傾向がみられ、それを「イールドカーブ・コントロール」の もとでコントロールするために国債の買入れを増やしたり、指値オペをしたことは事実ですし、その後、米国の金利が下がってきて日本の金利への上昇圧力が低下してきたことも事実です。過去にそういうことがあったのはその通りですが、将来にわたってそうなるかはなかなか予測し難いということと、そもそも米国の金利が将来上がらないと決めつけることもできません。米国の経済は比較的順調に成長していますし、FRBの量的金融緩和政策も短期金利の引上げ、あるいは年内にバランスシートの調整も始めるかもしれないと言われていますので、そうしたもとであるいは金利が上がっていくのかもしれません。金利が上がらないとか下がるとか決めつけることもできませんし、上がる可能性もあるということです。上がったとき、それが日本の金利にどの程度影響するかも一概に言えないと思います。ただ、何回も申し上げるようにこの半年位の間「イールドカーブ・コントロール」を実施しているもとで、 米国の金利が上がったときに、国債の買入れを拡大したり、指値オペをしたことも事実ですし、その後、米国の金利が下がって、国債の買入れを増やす必要や指値オペをする必要もなかったことも事実ですので、おっしゃりたいことはよく分かりますし、否定する気もありませんが、決めつけることはなかなか難しいのではないかと思っています。

 

 

Q:出口への懸念や心配が強まってきた背景には、緩和の期間がだんだん長くなってきたことがあるのではないかと思います。長期化することのリスクやデメリットについて総裁がどのようにお考えか教えて下さい。また、それが物価目標達成のメリットを上回ることがないのかについてもお願いします。もう1点ですが、先程から市場の混乱を理由にシミュレーションを示すことは難しいということでしたが、全銀協や生保協の会長もオープンな議論をとおっしゃっていて、市場の方がむしろ示してほしいという声が多いように見受けられますが、そこはどう受け止めておられますか。


まず1点目については、個人的な感想ですが出口論がやや増えているのは、1つには先程のご質問にあったように、米国が出口の戦略を進めていますし、ECBもこれ以上の緩和を当面する必要はないような状況になってきているという状況のもとで、欧米の出口論との関連で議論されていることです。もう1つは、実際にこの4年間の「量的・質的金融緩和」あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで景気が回復し、実体経済が大幅に改善していることです。そうしたことを踏まえて、そろそろ出口についても議論してはどうかという声が高まっているのではないかと思います。緩和が長期化することのデメリット・メリットについては色々な議論があるとは思いますが、何よりも重要なことはやはり物価の安定を達成し維持していくことであり、緩和が続く期間の問題よりも、むしろデフレが続いたりデフレに戻る懸念があることを避けて、物価の安定をきっちり達成し維持することの方がはるかに重要であると思っています。それから市場との対話は、先程来申し上げていますように、しっかり実施してきていますし、今後も実施していくつもりです。ただ、何度も申し上げているように、色々な前提を置けば色々な財務への影響などは出てきますし、出口の色々なシナリオも描けるわけですが、それは出口に差し掛かっているときであれば意味があるのですが、まだそこまで行っていないところで、経済・ 物価、特に金融情勢がどうなっているかがまだ先の話で明確でないときに、 色々な前提を置いて色々なシナリオを示して却って混乱させることは望まし くないと思います。ご案内の通り、FRBも出口についてはかなり前に出口戦略を示したのですが、現在やっている出口はちょうどその逆で、先に短期金利を上げて、それからバランスシートを調整していこうということになっています。かつて示した出口戦略は、まずバランスシートを調整して、その後、短期金利を上げていくということを示していたわけです。ですから、そのときに前に示していた戦略を信じて市場の人が何かやっていたとしたら、まさに裏切られたというか、市場の人がその出口戦略を信じていたかどうかは分かりませんが、そういうものをプリマチュアに出すことは市場にとっても適切でないと思います。ただ、色々な事柄について対話を深めたり、私どもの経済・物価の見通しや考え方を適切に示していくことは重要だと思っています。

 

 

Q:これまでの質問とは毛色が違う質問になってしまい恐縮ですが、今回個人消費については底堅さを増しているということですけれども、黒田総裁 ご自身は最近何か買い物をなさいましたでしょうか。それがどういうものを買ったのかということと、その値付け、コストパフォーマンスについて、どうお感じになったかということ。それから普段はお立場上、2%の物価目標の達成を言い続けなければならないと思うのですが消費の現場に立ったときに2%の達成が可能だと感じられたかどうか教えて頂けますでしょうか。


前者は、個人的な話ですので難しいですが、この時計は買いました。 昨年ですが最新のGPSで時差を自動的に調整してくれる時計です。後段の話は、私は2%は達成できると思っています。いくつかの理由でまだ達成できていませんが、その根源的な理由はもちろん長く続いたデフレのもとでのデフレマインドの払拭がそう容易でないということで時間がかかっている面があると思います。もう1つは、途中で原油価格がバレル当たり110ドル~120 ドルから、一時は30ドルを割って70%以上も下がり、それが実際の物価上昇率にも、また予想物価上昇率にもマイナスの影響を与えたこともあると思います。根源的にはやはり予想物価上昇率の形成が長いデフレのもとで非常にバックワードルッキングになっていることがあると思います。そういう意味では時間がかかっていることは事実ですが、2%は達成できると思いますし、現に今これだけ人手不足になり、需給ギャップが縮んでプラスになり、4年続きのベアが実現しているだけではなく、特に中小企業の賃上げがかなり昨年よりも大きくなっています。これは労働需給の逼迫が中小企業により大きく効いてきているということだと思いますし、またパートの時給が2%台後半で上昇しているなど、労働需給を反映しやすいところで起きていますので、全体として賃金に対する影響は強くなってきています。現にサー ビス産業などでもサービスの中身の見直しや価格の改定、それを通じて賃金を引き上げる動きも出てきていますので、私は2%に向けて次第に上昇圧力は高まってきていると感じています。2%は達成可能だと思いますが、先程申し上げたような2つの大きな理由から、時間がかかって達成できていないということだと思っています。

 

 

日銀総裁会見


 

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